俳優・宇野祥平が主演を務める映画『となりの宇宙人』（小関裕次郎監督）が全国公開中だ。SF作家・半村良さんによる異色の短編小説を原作に、謎の“宇宙人”（宇野）とアパートの住人たちとの奇妙で心温まる交流を描く、SF人情喜劇だ。宇野が撮影秘話や共演者との関係、作品に込めた思いを語った。（取材・文＝平辻哲也）

　インディーズからメジャー作品まで幅広く出演し、2020年に『罪の声』『本気のしるし 劇場版』などでキネマ旬報ベスト・テン助演男優賞を受賞するなど、日本映画界に欠かせない存在となった宇野が自身初の宇宙人を演じる。

　本作は制作プロダクション「レオーネ」が設立20周年を記念して、助監督として頑張ってくれた人を監督デビューさせるレーベル“LEONE for DREAMS”の1本で、ピンク映画（成人向け低予算映画）を中心にキャリアを積んできた小関裕次郎監督にとって一般商業作品デビュー作となる。

「企画を聞いて、プロデューサーの久保和明さんと秋山智則さんの素晴らしい挑戦だと思いました。原作の半村良さんは『戦国自衛隊』は読んでいましたが、この『となりの宇宙人』は恥ずかしながら知りませんでした。それを若い小関監督がずっと映画化したかったとお聞きして、ぜひ参加したいと思いました」と振り返る。

　宇野が演じるのは、ある夜アパートに不時着する宇宙人の宙さん。住人たちに「宙さん」と名付けられ、一緒に暮らしながら「星に帰りたい」という願いを抱くキャラクターだ。特定の誰かを愛するという感覚が一切なく、淳子（吉村優花）に片思いするアパートの住民、田所（前田旺志郎）の気持ちが理解できない。

「宙さんは一言でいえば謎の人物です。謎の醍醐味を味わいながら演じたいと思いました」

　宙さんの登場シーンはなんと全裸。『ターミネーター2』のアーノルド・シュワルツェネッガーのオマージュにもなっている。

「監督、スタッフ、インティマシー・コーディネーターの方がしっかりとケアしてくれたので、安心して挑めました」

　撮影は木更津のロケセットを中心に10日間。

「短い撮影期間でしたが、現場には劇中と同じようにゆったりとした空気が流れていて、それは小関監督、スタッフの皆さん、前田旺志郎くんはじめ共演者の皆さん一人一人の人柄がとても大きくて、皆さんのお陰で『となりの宇宙人』の世界が作られていったように思います。宙さん共々助けられ、大変お世話になりました」。ほかにも、猪塚健太、ベテランの三上寛ら個性豊かな俳優陣が脇を固めた。

　作中の印象的なシーンの一つが、宇宙人カラオケ大会だ。宇宙人が参加するという設定のカラオケ大会に参加するため、アパートの住民、宙さんが奔走。やなせたかし作詞の名曲『アンパンマンのマーチ』を熱唱しようとする印象的な場面もある。

「子供の頃は正義の歌だと思っていましたが、大人になって改めて歌詞を読むと、アンパンマンの孤独さを感じてドキッとしました。歌は苦手で緊張しましたが、一生懸命歌わせていただきました」。ちなみに普段カラオケでは「歌うとしたら阿久悠さんの歌です」と明かした。

　主演としての意識については、「特に意識はしなかったです。誰かが主役というより、全員が主役の映画だと思っています。もちろん主演はうれしいです」と笑顔を見せる。

　観客には「なるべく予備知識なしで見てもらえたらうれしいです。まっさらな気持ちで見てもらえると、一番楽しめると思います」と呼びかけた。宇宙人と人間が共に過ごす数日を描いた、不思議で、ちょっと切なく、エロスも盛り込み、そして可笑しい物語。宇野祥平の静かで力強い存在感が、観る者の心をじんわりと温めてくれる。

□宇野祥平（うの・しょうへい）1978年、大阪府生まれ。2000年に俳優デビュー。独特の存在感と繊細な演技で注目され、映画『罪の声』（20）、『本気のしるし 劇場版』などで高い評価を受け、第94回キネマ旬報ベスト・テン助演男優賞などを受賞。主な出演作に『正欲』『市子』『ラストマイル』『雪の花 -ともに在りて-』『Broken Rage』などがある。北野武、塚原あゆ子、藤井道人など名だたる監督作品に多数出演。公開待機作に、『THE オリバーな犬、 (Gosh!!) このヤロウ MOVIE』（オダギリジョー監督）、『平場の月』（土井裕泰監督）などがある。ABC・テレビ朝日系連続ドラマ『こんばんは、朝山家です。』（7月6日スタート）に出演中。