紗倉まな「嘘偽りなく職業を書きました」 保護犬譲渡会で直面した“丸裸”の審査体験

作家でセクシー女優の紗倉まなが、新刊エッセイ集『犬と厄年』(6月26日発売、講談社)を刊行した。6年ぶりとなるエッセイは、30代に突入した紗倉が、自身の体調の変化や幼少期の記憶、仕事との向き合い方、そして新たな家族である犬との生活を赤裸々につづった一冊だ。紗倉が作家業、犬との生活について語った。

6年ぶりとなるエッセイを刊行した紗倉まな【写真:増田美咲】
6年ぶりとなるエッセイを刊行した紗倉まな【写真:増田美咲】

エッセイ集『犬と厄年』を刊行

 作家でセクシー女優の紗倉まなが、新刊エッセイ集『犬と厄年』(6月26日発売、講談社)を刊行した。6年ぶりとなるエッセイは、30代に突入した紗倉が、自身の体調の変化や幼少期の記憶、仕事との向き合い方、そして新たな家族である犬との生活を赤裸々につづった一冊だ。紗倉が作家業、犬との生活について語った。(取材・文=平辻哲也)

 本作のきっかけは、メディアプラットフォーム・noteに投稿していた長文エッセイ。気軽に始めた執筆だったが、次第にその内容は愛犬の存在が中心になっていったという。文芸誌への寄稿や書き下ろしを加えて一冊にまとめた。

「書いていくうちにイッヌ様の存在がどんどん大きくなって、というかイッヌ様がやってきてから“生活”というものが明確に形作られていくようになり、その記録も含めて始めました。気づけば不調続きの“厄年”でもあり、まさにこのタイトルしかないなと……」

 女子校に通っていた小学生時代は「作文が苦手」だったと話す紗倉。だが、高専での日々で“書くこと”への意識が大きく変わった。

「女子校時代は、読書感想文も“大人ウケ”しないと評価されず理不尽に感じていました。私は素直に感じたことを書いていたんですが、品行方正を掲げる教員たちの心には刺さらなかったみたいです。試しに母親に書かせてみたらすごく褒められたので、分かりやすい大人って滑稽(こっけい)だなと感じました(笑)。とはいえ高専ではレポートや考察を毎日のように書く生活で、私が書いた文章などをとても褒めてくれる先生もいて、環境や読む相手が変わるとここまで評価も変わるのかと驚きました」

 現在の活動は多岐にわたる。AV作品は単体専属女優であるので、撮影は月に1度の稼働となるが、グラビア、テレビ番組、さまざまなイベント出演、コメンテーター、そして執筆業と幅広く活躍中。2015年にはエッセイ『高専生だった私が出会った世界でたった一つの天職』を発表。AVの世界を描いた初の小説『最低。』(16年)は映画化され、東京国際映画祭コンペティション部門に選ばれた。

 noteの執筆はスマホで行っていた。

「指が痛くなるくらい書いてました(笑)。気がつけば、1万字に及ぶ長文も。ウェブではそのまま公開していたので、『長い!』って言われたこともあります。でも無料なんだから読みたければ読めばいいし、読みたくないなら読まなければいいわけでクレームを入れられる筋合いはない、という強気なスタンスでいけたのも良かったです」

 文章のスタイルにも変化があった。

「執筆を始めた当初は少し背伸びをしていたところがあると思います。職業上、世間からはナメられやすいですし、所詮AV女優の書いたものでしょ、と言われたくないという気持ちも強くて、身の丈にあまりあっていないかもしれないけれど最大限できる文章を書きたいと思っていました。でもこのエッセイでは、“どう思われてもいいし、人にどう思われるかだなんて自分ではコントロールできないものだから、とにかく思ったことを書こう”という気持ちに変わっていって。飾らず率直に書けたのはこれまでとは異なった達成感がありました」

 その背景には年齢的な変化もある。

「20代は“こう見られたい”というこだわりが強くて、自己プロデュースはとても大切ですが、模範的で優等生な振る舞いに近いような動きをすることに徹していました。でも30代に突入して、どれだけ頑張っても人は自分の思い通りには見てくれないって分かったんですよね。当たり前の話なのですが……。それもあって、だからもう、過剰に自分の見られ方を気にするのをやめたんです」

保護犬との暮らしについて語った【写真:増田美咲】
保護犬との暮らしについて語った【写真:増田美咲】

運命を変えた保護犬の譲渡会

 敬愛を込めて「イッヌ様」と呼ぶ保護犬との暮らしも、価値観に大きな影響を与えた。

「子どもを産みたいと強く思ったこともなかったですし、何かを育てるという意識も当然湧かなかった。でも犬と暮らすことで、自分以外の存在を思いやる時間が増えて、子育ての疑似体験のようなものかもしれませんが、本当に子どものような存在で、一緒に過ごしている時間がとても幸せです」

 幼少期には一度、転勤族だった親の都合で犬と離ればなれになった経験もある。それがトラウマとなり、長く犬との生活を避けていた。しかし、30代を前に偶然目にした保護犬の譲渡会の情報が運命を変えた。

「譲渡会では、家族連れが犬を迎える前提で来ていて、私は“どうせ受からない”と思っていました。AV女優であることで、過去にもマンションの賃貸契約の審査が通らなかったこともありましたから。それでも正直に、嘘偽りなく自分のことは伝えたいとおもって、譲渡会で差し出された希望用紙や自己記入欄でも職業を正直に申告しましたし、収入、働く時間帯、家の間取りの確認や部屋の写真まで全部提出して、丸裸にされた気分でした。でもまさかのご縁で迎えることができて、本当に驚きました」

 現在は、毎日1~2時間の散歩が日課になっている。

「雨の日も、風が強い日も犬は行きたがるので、私もレインコートを着て一緒に行きます。風邪をひいたこともあるけど、それも含めて楽しいです」と紗倉。本書では、犬との充実した生活を明かす一方、人生最大の試練となった31歳の前厄の災難についてもつづっている。

□紗倉まな(さくら・まな)1993年3月23日、千葉県生まれ。工業高等専門学校(高専)在学中の2012年にSODクリエイトの専属女優としてAVデビュー。著書に小説『最低。』『凹凸』『春、死なん』『ごっこ』『うつせみ』、エッセイ集『高専生だった私が出会った世界でたった一つの天職』『働くおっぱい』などがある。初めて書き下ろした小説『最低。』は瀬々敬久監督により映画化され、東京国際映画祭のコンペティション部門にノミネートされるなど話題となった。文芸誌「群像」に掲載された『春、死なん』が20年度野間文芸新人賞候補作となり注目される。

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