渡辺裕太が明かす父・徹さんとの思い出「裕太は夢に出てきた名前」 役者としての“教え”も
映画『囁きの河』(熊本にて先行公開中、7月11日より池袋シネマ・ロサ、シネスイッチ銀座ほかにて全国順次公開、大木一史監督)で主人公の息子・文則役を演じた俳優・渡辺裕太。本作を通して感じた俳優としての喜びと、父・渡辺徹さんから受け取った言葉について語った。

“野菜ソムリエ”の肩書きも「今ちょうど収穫の時期です」
映画『囁きの河』(熊本にて先行公開中、7月11日より池袋シネマ・ロサ、シネスイッチ銀座ほかにて全国順次公開、大木一史監督)で主人公の息子・文則役を演じた俳優・渡辺裕太。本作を通して感じた俳優としての喜びと、父・渡辺徹さんから受け取った言葉について語った。(取材・文=平辻哲也)
映画は、2020年(令和2年)7月の豪雨で被災した熊本県・球磨川流域を舞台に、22年ぶりに帰郷した主人公・今西孝之(中原丈雄)が、失った居場所を取り戻そうとする姿を描く。舞台を主戦場にしている渡辺にとって、映画の現場は新鮮だったという。
「とにかくチームでひとつのものを作る感覚が楽しかった。その感覚は舞台も同じですが、映像作品は一度撮ったものを時間をかけて全国各地に届けることができる。それがすごく幸せで、『こういうことか』って思いました。一回味わったらやめられなくなりますね」と笑顔を見せた。
劇団出身でもある父・徹さんと映画について語る機会は少なかったという。
「父も映画の仕事は少なくて、どちらかというと舞台の人。母(榊原郁恵)はドラマ系で、ドラマは瞬発力とスピードが求められますが、映画はまた別の魅力がありますね」
役者としての“教え”について尋ねると、「『上手い下手じゃない。エネルギーを見せるんだ』という父の言葉がありました。『生きているエネルギーと関係性を見せる』ってよく言ってました」。現場では具体的なアドバイスももらっていたという。
そんな渡辺だが、高校までは芸能界を意識していなかった。
「進路も特に決めてなかったんですが、高校の授業で作った演劇作品を人前で発表して、反応が返ってきたのがすごくうれしくて。そこで“演じることって楽しいな”と思いました」。また、テレビに出る両親がファンと触れ合っている姿を見て、「こういう仕事って素敵だな」と感じていたことも、どこかで影響していたのかもしれない。
名前の「裕太」は徹さんが『太陽にほえろ!』のボス役、石原裕次郎さんにちなんだと公言しているが、真実は少し違うらしい。
「あれは父のトーク用ですね(笑)。父が見た夢に“お兄ちゃん”って呼ばれてる男の子が出てきて、その子が『裕太』って呼ばれてたらしいです。僕は長男なんですけど(笑)。裕次郎さんの“裕”という説明は、話しやすいからじゃないですかね。でも名前をもらえたのは、ありがたいことです」
『囁きの河』は、親子の再会と葛藤を描く作品でもある。自身の父との関係を投影したかと尋ねると、「そういう視点も少しありました。でも、劇中の父親は突然帰ってくるタイプで、実際の父とはもっと良い関係でした。僕には反抗期も特になくて、干渉されることもなく、ひとりの人間として対話していた感覚でした」と振り返る。
徹さんは22年に他界した。亡き父への思いを問うと、「『今だったら父はなんて言ってくれるかな』って考えることはあります」と静かに語った。
そんな渡辺のもうひとつの顔が“野菜ソムリエ”という肩書きだ。
「今も畑を借りて、育ててますよ。にんにく、ズッキーニ、ナス、シソとか。農家さんと一緒にやってて、今ちょうど収穫の時期です。次はキュウリにも挑戦しようと思ってます」と、自然とともにある暮らしぶりもにじませた。
最後に、今回の映画が自身にとってどんなものになったかと聞くと、「改めて作品づくりの楽しさや意義、やりがいを感じさせてくれた作品です。出会えて本当に良かったと思っています」と、まっすぐな言葉が返ってきた。
□渡辺裕太(わたなべ・ゆうた)1989年3月28日生まれ。東京都出身。タレント・レポーターとして日本テレビ系『news every.』、『所さんの目がテン!!』、NHK『やさいの時間』などのテレビ番組で活躍する一方、俳優としても舞台や映画に出演するなど、幅広く活動している。主な出演作として、舞台『父との夏』(2024年)、『R老人の週末の御予定』(25年)、映画『アクトレス・モンタージュ』(21年)、『メグライオン』(20年)、配信ドラマ『エンジェルシンク333 シーズン2』など。近年は落語にも挑戦し、さまざまな寄席にも出演。野菜ソムリエの資格を持つ、無類のパスタ好き。
