菜々緒の“人生を賭けた勝負”は13年前 初主演ドラマは「分からないことだらけ。心の準備できていなかった」

俳優の菜々緒が、7月4日公開の日台共同製作の映画『キャンドルスティック』(米倉強太監督)でヒロインを演じる。金融システムをめぐる“マネーゲーム”が世界規模で描かれ、菜々緒は、主演の阿部寛が演じる元天才ハッカー役の恋人、FXトレーダーの杏子役に挑んだ。合作映画は初出演となり、“特異な感性”がある役への意気込みや、13年前、偶然役者の道が開けた思い出も語った。

『キャンドルスティック』への意気込みを語った菜々緒【写真:舛元清香】
『キャンドルスティック』への意気込みを語った菜々緒【写真:舛元清香】

映画『キャンドルスティック』でマネーゲームの世界で戦うヒロイン

 俳優の菜々緒が、7月4日公開の日台共同製作の映画『キャンドルスティック』(米倉強太監督)でヒロインを演じる。金融システムをめぐる“マネーゲーム”が世界規模で描かれ、菜々緒は、主演の阿部寛が演じる元天才ハッカー役の恋人、FXトレーダーの杏子役に挑んだ。合作映画は初出演となり、“特異な感性”がある役への意気込みや、13年前、偶然役者の道が開けた思い出も語った。(取材・文=大宮高史)

 本作は阿部寛、菜々緒、津田健次郎ら日本の実力派俳優陣に加え、台湾のアリッサ・チア、リン・ボーホン、イラン出身のサヘル・ローズなど国際色豊かなキャストが集結した。

 元天才ハッカーの野原(阿部)は、自分と同じく数字に色がついて見える“共感覚”をもつFXトレーダーの杏子(菜々緒)と出会い、恋に落ちる。野原はかつて自分を罠にはめた相手への復讐を目論み、一攫千金を狙う計画を企てる。計画とは台湾の野心的な企業家・リンネ(アリッサ)らと組んで、FX市場でAIをだまして大金を手に入れるというもの。一方、川崎の工業地帯で国籍のない子どもたちを育てるファラー(サヘル)たちも、施設を守るためFXでの一発逆転を狙っていた。日本、台湾、イラン、ハワイで国境を越えたマネーサスペンスが展開されていく―。菜々緒は合作映画初出演となり、頭脳戦を展開するヒロイン・杏子役で新たな扉を開いた。

 杏子は「数字を色で感じる」共感覚という特殊な能力の持ち主。一般的に共感覚とは、文字を見たり、音楽を聴くと色や味覚を感じるといったように、ある感覚の刺激が別の感覚を引き起こす現象で、珍しい感覚だが、菜々緒にとっては、身近なことだったという。

「実は、友人が共感覚を持っていて、生活の中で苦労している様子を聞いてきました。今回、それをあらためていろいろな話を聞かせてもらったことで、『杏子のことを深く理解した上で演じられるんじゃないかな』と感じながら、撮影に臨むことができました」

 菜々緒は、特殊な感性も杏子の一部ととらえ、心に寄り添った芝居を展開。奥深い表現で魅了している。

「共感覚自体が一般的に知られたものではないですし、目に見えるものではないのですが、杏子の仕草から彼女に見えているものを感じ取ってもらえるよう意識しました。寡黙で多くを語る人ではないので、限られたセリフの中で、阿部さんが演じられる野原と出会って変わっていく彼女の秘めた力強さを表現できるよう心掛けました」

 ちなみに、菜々緒自身も“共感覚”を意識することがあるようだ。

「友人から『あなたも共感覚があるのかもしれない』と言われたことがあるんです。私は文字が色つきで見えたりはしませんが(笑)、人の空気感、声のトーンから、『この人、こんなことを考えているのかな』と直感する瞬間はあります」

 実際、現場では野原と杏子のように言葉を交わさずとも周囲と通じ合ったという。

「米倉監督と阿部さん、私が脚本や人物背景に対する理解が一致していて、スムーズに撮影を進められました。ときどき『この言い方は杏子っぽくないな』と感じた時は監督に相談して、より柔らかい言い方にしました。細部にこだわったお芝居ができました」

 一方、杏子には数学者の望月功(津田)という夫がいた。だが、野原と出会い、彼女は野原を選ぶ。その感情の機微もていねいに表現した。

「かつての夫である功と話す部分と、野原と話す部分のお芝居の違いを見てほしいです。心から許している相手と、信頼を置いていない相手とで、杏子の会話の仕方が変わるんです。特殊な力を持っているがゆえに苦労してきた杏子だからこそ、心を開ける人がいることがいかに大切か、私の心にもすごく響きました」

モデルとして芸能界デビューし、俳優業での活躍も10年以上に及ぶ【写真:舛元清香】
モデルとして芸能界デビューし、俳優業での活躍も10年以上に及ぶ【写真:舛元清香】

ラブコメでドラマ初主演「人生の急展開でした」

 さて、大勝負を賭ける『キャンドルスティック』の登場人物たちのように、菜々緒自身に『人生を賭けた勝負』と言える瞬間はあったのか。そこを聞くと、「初めての主演ドラマですね。分からないことだらけで、『あれよ、あれよ』だったんです」と打ち明けた。

 事実、菜々緒は2012年にフジテレビ系『主に泣いてます』で連続ドラマ初のレギュラー出演にして主演を射止めた。

「東村アキコさんのマンガを原作とした、美しすぎて幸せになれないモデル・紺野泉がかなわぬ恋に奔走するラブコメディーで、まだお芝居に対して心の準備ができていなかったといいますか……興味はありましたが、いきなり主演に抜てきしていただいて……。まさに人生の急展開でした」と当時に思いをはせた。

 以来、ドラマや映画に次々に出演し、日常の中でもアンテナを張り、演技の“引き出し”を増やしている。

「街を歩いている時でも、人の身だしなみや歩き方、どこを見ているかで性格を想像したりします」

 プライベートではよく旅に出る。フットワークは軽く何度も海外を訪れている。

「一つの作品を終えると自分の中で『役を落とす』ようなリセットする時間が欲しいので、東京と違う環境に身をおくようにしています。海がすごく好きで、旅先では絶対、ビーチに行きます。自然の美しさに触れると、とても心が動かされるんです」

 公私ともに充実した現在。「いただいたお仕事を無我夢中で向き合っていました」という20代の経験が糧となり、着実にステップアップしている。今後のビジョンについて尋ねると、凛とした表情で答えた。

「今は、会いたい人や共演したい人、心から一緒に仕事がしたいと思える人と、ものづくりをしていきたいという気持ちが強いです。そして、自分の可能性を広げていくことにチャレンジしてみたいです。例えばまだ経験がない舞台とか…。自分の人生を楽しむことと、役者としての進歩の『バランスをとっていきたいな』と思っています」

 天賦の才を生かし、菜々緒は今後も表現者の道を自分らしく切りひらいていく。

□菜々緒(ななお)1988年10月28日、埼玉県生まれ。近年の主な出演作は、NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』、主演を務めたフジテレビ系連続ドラマ『忍者に結婚は難しい』、テレビ朝日系連続ドラマ『無能の鷹』、劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~』、映画『怪物の木こり』など。『無能の鷹』では、有能そうに見えて衝撃的に無能な新入社員の主人公・鷹野を演じた。今年8月には、劇場版『TOKYO MER ~走る緊急救命室~南海ミッション』の公開も控えている。172センチ。

トップページに戻る

あなたの“気になる”を教えてください