sumikaが全員でツアー完走 絶望を乗り越えて結束「今までのsumikaより強い」
ロックバンド・sumikaが6月29日、さいたまスーパーアリーナで「sumika Live Tour 2025 『Vermillion's』」を開催した。アルバム『Vermillion』を引っ提げてのツアー。最高潮の盛り上がりを見せた最終日の模様をレポートする。

6月29日にツアー最終日
ロックバンド・sumikaが6月29日、さいたまスーパーアリーナで「sumika Live Tour 2025 『Vermillion’s』」を開催した。アルバム『Vermillion』を引っ提げてのツアー。最高潮の盛り上がりを見せた最終日の模様をレポートする。(取材・文=ふくだりょうこ)
満員のさいたまスーパーアリーナ。ステージにはアルバム『Vermillion』のジャケットを思わせるような時計のセット。会場に一歩入った瞬間に高揚感と共に、sumikaの世界観に染まっていけるようだ。
SEが一段と大きくなると、流れるリズムと共に、会場が拍手とジャンプ。それに迎えられるようにしてsumikaとゲストメンバーが入場してくる。色とりどりにきらめくスポットライトが楽しげなライブの始まりを告げる。
「sumikaです! ツアーファイナルへようこそ! 会いたかったぞー!」とボーカル&ギターの片岡健太。手拍子を促しながらサビでは客席が手を振り上げさらに歌声を促し、アルバムの1曲目に収録されている『Vermillion』からスタートさせていく。
ゴキゲンなナンバーに会場のボルテージも一気にあがる。
そんな景色に片岡も嬉しそう。「いつもより最高の景色です。本当にやっちゃっていいんですか。だって今日は運命の日ですから!」と、『運命』へ。
マイクを手にステージの端から端へと行き、会場を盛り上げていく。客席の手拍子も力強い。
「最高じゃないか、今日のさいたまスーパーアリーナ! だけど、まだいけるな!」と『ふっかつのじゅもん』へ。手拍子とコールが会場に響き渡る。
「楽しいー!」と片岡が思わず漏らしたが、カメラで抜かれるドラム・コーラスの荒井智之とキーボード・ボーカルの小川貴之の表情も常に楽しそうだ。3人が楽しそうにしているなら、会場も楽しむっきゃないと言わんばかりに盛り上がりは増して行くばかり。
3曲を終えて「ご機嫌はいかがですか」と片岡がスタンドの左右、アリーナに分けてコール&レスポンス。「声がでかい、拍手もでかい」とご満悦な様子を見せた。
「ツアーファイナルです」という片岡の言葉に大きな拍手が起こり、誰も欠けることなく、33本のツアーを駆け抜けようとしていることに嬉しそうな表情をのぞかせる。
しかし、「俺たちはファイナルだからといって特別なことをできるバンドではありません」と言い、「今までよりも最高のライブをするだけ」と『リビドー』を、そして小川が「お手を拝借の時間です」と手拍子を煽り、盛り上げ、『1.2.3..4.5.6』となだれこんでいく。会場全体が気合いが入っているのが手に取るようにわかる。手拍子は大きくなっていくばかりだ。
片岡のギターから始まる『「伝言歌」』では、サビでは会場全体に大合唱が起きる。ドラムソロから始まり、キーボードのソロ、おしゃべりをするようにドラムとキーボードの掛け合いが続き、片岡の歌声が乗っかる『惰性のマーチ』。弾むメロディに客席も体全体でノっていく。片岡は何度も、ここにいるみんなでライブを作っていくということはを口にしていたが、それがライブを通して感じられる。

片岡「この2年半の中で人生で一番しんどいことがありました」
ライブ中盤では、ゲストメンバーが一旦ステージを後にし、sumikaの3人だけで展開する場面も。ファンから寄せられた質問に答えるコーナーでは軽快なトークを展開(内容はSNSに載せないということで、会場に来た人だけのお楽しみのようだ)。
そして、『Summer Vacation』を。この楽曲について荒井は「ドラムは変わらず荒井で、ベースに健太で、ボーカルは小川で新しいアレンジで聴いていただきました」と紹介。
アルバムについて、sumikaの新しい一歩になると考えていると言い、「このツアーの中で、今一度この3人のsumikaを見ていただいて、3人がどういう顔でどういう音楽をやっているのかを改めて共有したいな、と思ってこういう時間を設けさせていただいております」と語った。
さらに「我々にとっても大事な曲」と『雨天決行』を披露。曲を終えると片岡が荒井、小川それぞれとグータッチ。噛み締めるようにして3人での演奏を締め括った。
再び、ゲストメンバーを迎え入れ「どでかい声で歌おうぜ」と『Starting Over』。会場の大合唱で空気を震わせる。さらにパワーを増して『VINCENT』、加速するように『チェスターコパーポット』を立て続けに歌い上げていく。
ここからは「やりたい曲がいっぱいありすぎるのでちょっとずつやっていいでしょうか!」と『Amber』から始まるメドレーへ。『カルチャーショッカー』から、片岡はステージを降り、客席へ。さいたまスーパーアリーナの真ん中で『Babel』を歌いあげる姿は圧倒的だ。『ペルソナ・プロムナード』でさらに煽り、ステージに戻り『グライダースライダー』を、ラストは客席に向かって手拍子を促しながら『いいのに』でメドレーを締め括った。
ここまで怒涛のように進んできたが、暗転し、3人にスポットライトが当たる。
片岡は2年半ぶりのリリースとなったアルバムについて触れ、「この2年半の中で人生で一番しんどいことがありました」と切り出した。
「本当にやめようかなと思いました。それぐらい、毎日何をしていてもしんどいし、暗いことばっかり考えちゃうし、前を向きたいのに後ろばっかり向いちゃうし」と振り返り、その中で「後ろ向きなことばかり考えて生きている自分のことが好きなのか、って考えたときにそんな自分のことを好きになれませんでした」
「うれしいことが多いほうがいいに決まってる、悲しいことは十二分に承知した上でそれでも俺は楽しい人生を送りたい。だから自分の意志で音楽を続けたいと思いました」と当時の決意を明かす。

「全員が1人で考えて、1人で答えを出した」
バンドを続けるか否かについても小川と荒井には先に意思を確認したと言い、「全員が1人で考えて、1人で答えを出した。だから今sumikaが続いてる。自分の意志で自分の好きというものを自分で決めて、じゃあ俺たち肩組めるよな、って肩を組んでもう一回始まったから今のsumikaが今までのsumikaより強い」と力強く語った。
つらい中でも救ったのは、自分の好きなこと。片岡は「絶望の時に自分を救ってくれるのは自分が決めた好きというものだけ」と言い、好きなものがないという人は自分で決めていまここにいることを思い出してほしい、と伝えた。最終的にここに来ることを選んだのは自分だということ。絶望の中にいても、心の中に好きなものが思い浮かべば絶対に大丈夫、そう何度も繰り返した。
そして「あと少し、音を鳴らさせてください」と『Dang Ding Dong』で客席に笑顔を届けた。
アンコールでは『マイリッチサマーブルース』、『Lovers』とポップな楽曲で熱を最後の最後まで高める。
刻一刻と近づくツアーファイナル最後の楽曲。片岡は少し寂しそうな表情を見せる。小川は言い残したことはないかと聞かれ「シンプルに一緒に記憶を作ってくれてありがとう!」「今日も一緒に音楽を鳴らしてくれてありがとう!」「sumikaを好きになってくれてありがとう!」と笑顔で伝えた。
ラストは「明日の俺たちのことを、あなたのことを歌って帰ろうかなと思っています」と『10時の方角』でツアーファイナルを締めくくった。
ツアーは終わったが、また次も予感させたsumika。明日からは日常がまた始まる。でも、今日の記憶がある。目を閉じればこの日、会場にいた人たちにライブの楽しい記憶が等しくある。そう語っていた片岡。そんな記憶を抱きしめて、またsumikaは次に向かって歩き出す。
