自転車で旅をしながら外道を成敗 平松伸二氏『ブラック・エンジェルズ』の自転車は“実在”していた

『ブラック・エンジェルズ』は1981年から85年まで「週刊少年ジャンプ」で連載され、そのバイオレンスでカタルシスにあふれる作風で読者を熱狂させた。ブラック・エンジェルズ(仕事人)である主人公の雪藤は、自転車のスポークを手に取り外道を成敗していく。その印象的な“武器”は、多くの読者に強烈なインパクトを残した。

インタビューに応じた平松伸二先生【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じた平松伸二先生【写真:ENCOUNT編集部】

勧善懲悪漫画の金字塔は『必殺仕事人』に着想

『ブラック・エンジェルズ』は1981年から85年まで「週刊少年ジャンプ」で連載され、そのバイオレンスでカタルシスにあふれる作風で読者を熱狂させた。ブラック・エンジェルズ(仕事人)である主人公の雪藤は、自転車のスポークを手に取り外道を成敗していく。その印象的な“武器”は、多くの読者に強烈なインパクトを残した。(取材・文=関口大起)

『ブラック・エンジェルズ』の主人公・雪藤は、地獄へ堕とすべき外道と相対したとき、自転車から仕込みスポークを抜き取り、頭頂部や首筋にひと刺しして屠る。主人公の武器が自転車のスポークというのは、非常にユニークだ。

 そのセンセーショナルな武器は、平松伸二先生の最新作『大江戸ブラック・エンジェルズ』でも健在。主人公・雪士は、番傘の骨をスポークのように武器とする。平松先生は語る。

「『ブラック・エンジェルズ』の企画を考えたとき、まずはチャリンコに乗って日本全国を旅している主人公、という設定を考えたんです。じゃあ、そいつが悪い奴をやっつけるときはどうしよう。あ、自転車のスポークをパーンと抜いて、ブスッと刺したらいいんじゃないか、と割とスムーズに思いつきましたね」

 企画の着想は、人気ドラマシリーズ『必殺仕事人』だった。雪藤のキャラクター像も、同作の中村主水(演:藤田まこと)の影響が大きい。

 雪藤の愛車がバイクではなく自転車なのも、中村主水のイメージがあるからだ。平松先生といえば『ドーベルマン刑事』でも知られるほか、当時、バイクといえば少年たちの憧れだったはず。しかし先生は「中村主水とバイクの組み合わせにピンとこなくて」と話す。

“モデルの自転車”は今も仕事場の外に

『ブラック・エンジェルズ』の雪藤は、旅する“仕事人”。しかし、なぜその設定を採用したのだろうか。たとえば1話では、雪藤はラーメン屋の店員として働いている。このラーメン屋を拠点に、外道を成敗していく展開も考えられたはずだ。

「旅をさせた理由……はきちんと覚えていません。でも、やっぱり旅をしているほうがいいじゃないですか。よくあるパターンですけど、“敵をやっつけて去っていく”ってかっこいいから」

 そうして自転車は、雪藤の旅の足かつ武器となった。

 本取材は平松先生の仕事場で行われたのだが、筆者は、現場に着いたときからずっと気になっていたことがある。外に、古い自転車が1台停められているのだ。

「あ、あれがモデルのチャリンコですね。もう何十年も乗っていないけど」

 取材陣はどよめいた。まさか雪藤の自転車のモデルが実在・現存しており、仕事場の外に置かれているとは。

 誤解を恐れず書くが、決して丁寧に管理されているわけではない。日常使いされる自転車のように、玄関前のスペースにただ置かれているだけだった。その見た目もいたって普通。いわゆるドロップハンドルのロードバイクだ。

 もしや……と思い「スポークの先は研いでありますか……?」と聞いてみた。すると先生は、「危なくてそんなことできませんよ」と笑った。

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