過激すぎる描写で警察から抗議も…“鬼の平松”と恐れられた漫画家の原動力は「怒り」
『ドーベルマン刑事』『ブラック・エンジェルズ』など、勧善懲悪モノの漫画作品でヒットを飛ばしてきた平松伸二先生。それらの作品には、数々の“外道”が敵役として登場する。読者も思わず怒りで拳を握ってしまうような悪鬼羅刹のような外道たちは、どのように生み出されているのだろうか。平松先生に聞いた。

外道を極めた漫画家と編集者の“戦い”
『ドーベルマン刑事』『ブラック・エンジェルズ』など、勧善懲悪モノの漫画作品でヒットを飛ばしてきた平松伸二先生。それらの作品には、数々の“外道”が敵役として登場する。読者も思わず怒りで拳を握ってしまうような悪鬼羅刹のような外道たちは、どのように生み出されているのだろうか。平松先生に聞いた。(取材・文=関口大起)
たとえば『ブラック・エンジェルズ』の1話に登場する悪徳刑事・蛭川は、前科を持つが立派に更正しようと働く精二を執拗に追いかけまわす。それだけならまだしも、要らぬ容疑で何度も取り調べと称して連行したり、挙げ句の果てに妹に乱暴したりする始末。主人公・雪藤が蛭川を成敗する展開は、今改めて読んでもスカッとする。
ただ、蛭川のあまりの傍若無人ぶりに、第1話が掲載された直後に警察から抗議の連絡があったそうだ。以降も、その過激な描写に講義する団体があり、ときに編集部が謝罪に行くこともあったという。逆に言えば、それだけ平松先生の“外道”の描写はすさまじく、ショックでありつつどこかリアルさがあるのだ。
「読者からもいろいろな反応がありましたね。また別の作品ですけど、ジャンプの愛読者賞という連載作家が読切を執筆する企画で『ミスターレディ』というちょっとエッチな漫画を描いたんです。そしたら、『岡山の恥だ!』とかね。でも、じゃあもっと恥になってやろうと開き直ったり」
平松先生は、マイナスなコメントをも燃料に変えた。外道、そして勧善懲悪漫画を描き続けられる理由も、それに似た考え方があるからこそだという。
怒りをエネルギーに、“外道”を描くときは人格が変わる
「基本的に僕のエネルギーは“怒り”なんです。激しいシーンなんかは特に、溜まった怒りをエネルギーに変えて絵にしてる。だからネーム中とかは人格が変わっちゃうんですよ。最近は丸くなったと思っているんですけど、『ブラック・エンジェルズ』とか『マーダーライセンス牙』のころの僕は、本当におかしかったでしょうね」
実際、当時のアシスタントたちは平松先生に恐怖を感じていたそうだ。“鬼の平松”と呼ばれることもあり、メインの作業場とは別にあったネーム室に、アシスタントたちは足音を忍ばせながら、恐る恐る仕上げた原稿を見せに来ていたとか。
平松先生の漫画に登場する外道たちも、そんな怒りのエネルギーから生まれてきた。先生はさまざまな外道を描くにあたり、『ブラック・エンジェルズ』を執筆していた当時、現実に起きた凄惨な事件の新聞記事を切り抜き、ファイリングしていたこともあるそうだ。
先生が得た怒りは、原稿をとおして読者にぶつけられている。それだからこそ、加納錠治が、雪藤洋士が、木葉優児が、外道を成敗したときのカタルシスがあるのだ。
名物編集・鳥嶋和彦氏との“戦い”
平松先生は、「週刊少年ジャンプ」の名物編集者・鳥嶋和彦氏が担当だった時期もある。そして、その厳しい編集スタイルは先生の怒りのエネルギーになったこともあるそうだ。
「あの人はとにかく毒舌なんです。鳥嶋さんは『ドーベルマン刑事』の後半から担当になったんですが、僕がカラーを塗っていると『平松君は色塗らないほうがいいんじゃない?』とか言ってくるんですよ。もうちょっと言い方があるだろうと」
鳥嶋氏との“戦い”は、平松先生の自伝的漫画『そして僕は外道マンになる』でも描かれている。『ドーベルマン刑事』に婦警のキャラクターを登場させようとなったとき、何度も何度もボツを出され、やっとの思いで描き上げたキャラクターが人気を博し、作品も盛り上がったという話は印象的だ。
先生が怒りを覚えるのはもっともだが、鳥嶋氏の手腕を感じるエピソードでもある。
「ほかにも、たくさん“ひどい”編集者がいましたね。みんなキャラが立っていて、それぞれ別の角度で怒りのエネルギーになっています。きれいな言い方をするなら“今思い返すと感謝しています”ですが、本音を言えば“この野郎”です(笑)」
