執筆はスマホで深夜も… 上田竜也、10年かけて完成させた小説に込めた決意とは
元KAT-TUNの上田竜也が自身初の小説『この声が届くまで』(KADOKAWA、1760円)を刊行した。活動10年、注目されないロック・バンド「zion(シオン)」の龍が、メンバーの脱退を機に残された仲間と再起し、憧れの武道館を目指す物語。構想10年、上田が初めて小説を執筆した思いとは――。

自身初の小説『この声が届くまで』
元KAT-TUNの上田竜也が自身初の小説『この声が届くまで』(KADOKAWA、1760円)を刊行した。活動10年、注目されないロック・バンド「zion(シオン)」の龍が、メンバーの脱退を機に残された仲間と再起し、憧れの武道館を目指す物語。構想10年、上田が初めて小説を執筆した思いとは――。(取材・文=平辻哲也)
執筆のきっかけは、2016年にKAT-TUNが“充電期間”に入る前の出来事だった。
「メンバーが1人抜けるというタイミングで、自分がグループに何か貢献できないかなって思ったんです。主題歌とかを持ってこれたら、という思いから物語を書き始めました」
当初は、小説という形ではなかった。
「最初は漫画の原作だったり脚本を書くっていう感じでした。そんな作品に出たいというより、自分で作った方が早いと考えた。それで小説になったんです」と経緯を明かす。
10年という歳月がかかったことについて、「これが10年前にできてたら、違った未来があったのかもしれない」と率直な思いを語る一方で、「この10年は無駄ではないと思うしかない」と前を向いた。
当初は脚本のような形で書き進め、のちに小説として書き直した。「編集者の人と(物語の上で起こる)イベントを決めると、一気に進みました。悩むことはあっても止まることはなかったです」
本は四六判、352ページと長いが、執筆はパソコンではなく、スマートフォンのメモ機能を活用した。
ツアーの移動中、新幹線や飛行機の中、夜中にふと思いついた時など、時間も場所も問わずに書き続けたという。
「区切りの良いところまで書いて、コピーして送って、また区切りの良いところまで書くという感じ。そんなことをずっと続けていたので、最終的にこんな長さになっているとは思わなかったですね」
10年間続けられた原動力について問うと、「実際は、最初に書き始めてから8、9年の間が空いているんです。思いはあまり深くは言いませんが、ありました。間違いなく。いろいろ仕事環境も変わって、『じゃあ好きなことできるよね』って思えた時期もあった。書くことが好きというより、自分のやってきたことが間違ってなかったって、自分に言い聞かせたかったのかもしれない」と静かに語る。

登場人物の龍は自分の分身
登場人物は、バンド「zion(シオン)」のメンバーで、学生時代の仲間である龍、ヒロト、誠一郎、毅志、マネージャーの光、幼馴染の七海。マサの脱退を機に、残されたメンバーたちは一念発起、バンドとして成功をおさめるために団結力を高めるが、さまざまな困難が立ちはだかる。
主人公である龍は上田の分身だ。
「俺の思考のまま動いている人物です。俺の分身みたいなものが、フィクションの中で動いてるという感覚です」
当初はスポーツを題材にしたストーリーも並行して書いていたが、編集者から「スポーツものはつまらない」との率直な評価を受け、バンドの話に絞ったという。
キャラクター作りは、長年親しんだ漫画からの影響が大きかった。
「あんまり苦労はしていないんです。優等生がいたり、チンピラがいたり、バカっぽい子がいたり、おとなしい子がいたり。こういう“種族”の違う人たちが組むというのは漫画の中の常識ではあるんですよね。こういう人がいたら、こういう人もいるよねっていう漫画的な発想で作ってました。脳が漫画なんでしょうね」と笑う。
音楽描写については、特に終盤の重要な場面で強く意識したという。
「最後のシーンでは、ずっと頭の中にオルゴールが鳴っていました。もし、実写化されたとき、ああいう音にしてほしいっていうイメージが明確にあります」
上田にとって、本作は“再出発”を象徴するような作品。かつての仲間との時間、自らの選択、そして前に進む意志。その全てを詰め込んだ物語が、今読者のもとへ届けていく。
□上田竜也(うえだ・たつや)1983年10月4日、神奈川県出身。1983年10月4日、神奈川県出身。2006年3月にKAT-TUNとしてCDデビュー。舞台やドラマ、映画など俳優としても活躍し、2008年にはソロコンサート「MOUSE PEACE」を開催。グループは2025年3月に解散。
