「説明責任を求めすぎる今の世の中にはちょっと辟易」 スターダム岡田太郎社長が考えるSNSとの付き合い方

4.27スターダム横浜アリーナ大会、『敗者引退マッチ』で上谷沙弥に敗れた中野たむは引退した。たむ以外にも主力選手が離脱したスターダムだが、新世代が台頭し新たな風景が広がりつつある。岡田太郎社長インタビュー前編では上谷の大ブレイクを中心に伺ったが、後編ではこれからのスターダムについて、そしてSNSへの考え方を聴かせてもらった。

現AEWのテクラと激しくやり合った岡田太郎社長【写真:(C)スターダム】
現AEWのテクラと激しくやり合った岡田太郎社長【写真:(C)スターダム】

SNS上では物理的には1カウントでも影響力は発信者によって大きく変わる

 4.27スターダム横浜アリーナ大会、『敗者引退マッチ』で上谷沙弥に敗れた中野たむは引退した。たむ以外にも主力選手が離脱したスターダムだが、新世代が台頭し新たな風景が広がりつつある。岡田太郎社長インタビュー前編では上谷の大ブレイクを中心に伺ったが、後編ではこれからのスターダムについて、そしてSNSへの考え方を聴かせてもらった。(取材・文=橋場了吾)

 3.3後楽園ホール大会で、中野たむは『敗者退団マッチ』に敗れた。試合後のマイクで上谷がたむとの『ラストダンス』を希望したため、SNSでは「たむは退団しないのか」という声が溢れた。

「これについてあえて言ってしまうと、野暮なこと言うなと思いました。『敗者は退団』と言っているわけですから、たむさんが負けた時点で退団は決定なんですよ。そのうえで上谷がもう一戦を希望したと。あのタイミングで『中野たむ選手は退団となります』って説明したり、退団セレモニーをしたりしないと認めないぞ、というのは読解力がないと思います。説明責任を求めすぎる今のSNS発信の世の中にはちょっと辟易していて、整理すると、たむさんが負けた時点で退団は決定、改めてアナウンスする必要もないし最終決戦を上谷から持ちかけたってことです」

 そのうえで、岡田はSNSに関してこうも語った。

「プロレスに限ったことではないと思うんですけど、SNSで意見して、なにか状況が変わったときに、『俺達が変えたんだ』と思い込む風潮は問題だと思っています。 SNS上では選手の発言もファンの発言も物理的には同じく1カウントされますけど、影響力は同じ1ではないんですよ。選手の言うことは、めちゃくちゃ重いです。プロレスラーは名前も顔も出して責任もあって。もちろん責任の前に感情で言っちゃうこともあるんですけど、プロレスラーが表舞台でいう一言とそれを受けて自分の感想を言うリプライやコメントのひとつは、決してイコールの1ではないという考え方です。

 もちろんお客様の反応や意見は重視しておりますが、重視するものとそうでないものの見極めが必要です。さらに言うと、媒体名や名前を出して取材をして掲載しているメディアの方々と、自分の意見だけで発信しているインフルエンサーといった類の人たちも全く違います。こうやって取材をしに来てくれる方々と、自分の感想を言うのは全く違うと思っています。前提として全てのエンターテインメントや芸術作品、スポーツの結果というのは、表に出た時点で評価・批評に対象になります。

 それが怖いんだったら、世の中に発信しなければいい。その上で評価・批評に対して一喜一憂せずに信念を貫く力と、真摯に向き合い何が必要かを見極める力が必要です。それでも頭にくるコメントもありますから、それはそれで自分たちの中で怒って終わりです。その怒りを個別に世に放っても虚しいだけですよね。だからファンの皆様も楽しむのはいいのですが、必要以上にリング上の出来事や選手の発信じゃないところでストレスを貯めないようにしてほしいですね。」

ワールド王座に挑戦し新風景を見せた玖麗さやか【写真:橋場了吾】
ワールド王座に挑戦し新風景を見せた玖麗さやか【写真:橋場了吾】

スターダムの選手は相手だけでなく世間とも闘っている

 たむの引退、主力選手の脱退が続いたスターダムだが、玖麗さやかやHANAKOといったデビュー2年目の選手たちがタイトルに挑戦し、王座奪取はならずとも後楽園大会のメインを務め上げたという明るい話題もある。

「新人がどうこうという話もそれこそSNSでありましたけど、他のスポーツではルーキーがタイトルを取る例だってあるわけで、全然いいと思います。もちろん主力選手が抜けたことは、ビジネス的には痛いですし気持ち的には寂しいですけど、それもスターダムの歴史の1ページなんです。上谷はプレッシャーだったと思いますよ、自分が引退に追い込んだ選手の弟子が挑戦してきて。でも玖麗ともお客さんとも戦って見事に勝ちましたよね。玖麗はその上谷の凄さを全身全霊で味わったと思います。HANAKOもチャンスをつかんで、誰が見ても凄いと思える試合をしたと思いますし、それを引き出したスターライト・キッドの意地も凄かったですね」

 玖麗は5.11後楽園大会で上谷の持つワールド・オブ・スターダム王座に挑戦。大善戦の末敗れたが、こんなことを語ってくれた。

「シンデレラトーナメントを優勝して、自分の願いで叶えてもらって実現したタイトルマッチだったんですけど、やっぱりスターダムの赤いベルト(ワールド王座のこと)の凄さとか重みとかを身をもって感じたというか思い知らされたのと同時に、スターダムという団体の凄さを体感させてもらえたことが大きかったですね。ずっとスターダムの未来を作りますと言っていたんですけど、タイトルマッチをさせていただいたことによって、また這い上がって自分の力でベルトへの挑戦に辿り着けるレスラーになりたいと思いました。将来、自分がトップに立ったときにあの一戦があったからこそ自分はここまで来られたんだなと思えるような試合だったと思います」

 そして、向後桃が髙木三四郎プロデュースのM&Aプロレスに参戦、東京女子プロレスの長谷川美子と対戦することも話題になっている。

「東京女子さんとは、お話する関係性があります。この間(5.31大田区大会)甲田(哲也東京女子プロレス代表)さんがリングに上がって、花束を渡してくれました。これはなつぽいの10周年という特別な理由がありましたから。昨年の角田(奈穂)さんの引退試合もそうですし、今回も向後と引退が決まっている長谷川さんが同期だという理由で実現したものです」

 4.27横浜アリーナで謎の笑顔を交わしたテクラ(先日AEWデビューを果たした)の話も振ってみた。それまでいがみ合ってきた2人に、どういう心境の変化があったのか。

「テクラがH.A.T.E.(当時は大江戸隊)入りする前に、アメリカでチャレンジしたいという話をしていました。おそらく、スタッフに暴行して謹慎処分にされていた期間やバックれていた期間を使って、アメリカへ行く下準備を計画的に進めていたんでしょうね。だからテクラに『してやられた』という気持ちで憎まれ口を叩いたんですよ(笑)。それで本人もニヤリとしたということです」

 最後に、今後のスターダムのどこに注目してもらいたいかを聴いた。

「スターダムの選手は、試合数が多い中、どう相手に勝つかという練習をすごくしています。自分たちでも練習していますし、出稽古もしています。見に来てくれるお客さんが飽きないように、毎回新しいこと考えています。だから、対戦相手はもちろんのこと、お客さんとも闘っているんですよね。更には選手もスタッフも、より多くのお客さんにスターダムのプロレスを見てもらいたいから、プロレスを知らない人とも戦っているんです。24時間365日、色々なものと闘っている選手たちの試合は、絶対に心が動かされるものです。皆様の元気になったり励みになったりするので、スターダムの会場でエネルギーを受け取ってもらいたいです。そして、選手一人一人の”闘う理由”を深堀してくれたら嬉しいですね」

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