ガールズバーで法外請求、脅されて2億円…困惑した被害者 “犯人グループ”を追い詰めたのは“ただ者ではない”弁護士
東京・新宿の歌舞伎町は、“東洋一の歓楽街”と言われ、夜の帳が下りると、大勢の人であふれていく。居酒屋などの飲食店だけでなく、ホストクラブやキャバクラ、風俗店……。欲望がひしめき合い、華やかな光の裏で、怪しい“影”もちらついている。この街のナイトビジネス界には、有名な弁護士がいる。新宿御苑近くに構えるグラディアトル法律事務所の代表・若林翔弁護士だ。「ナイトビジネスの経営者たちは、たくましく、何より面白い」。こうした“歓楽街の住人”の法律相談を受け、寄り添い続けて11年。人呼んで「歌舞伎町弁護士」の素顔に迫った。

歌舞伎町は法曹界の「ブルーオーシャン」 “夜の世界”専門の弁護士
東京・新宿の歌舞伎町は、“東洋一の歓楽街”と言われ、夜の帳が下りると、大勢の人であふれていく。居酒屋などの飲食店だけでなく、ホストクラブやキャバクラ、風俗店……。欲望がひしめき合い、華やかな光の裏で、怪しい“影”もちらついている。この街のナイトビジネス界には、有名な弁護士がいる。新宿御苑近くに構えるグラディアトル法律事務所の代表・若林翔弁護士だ。「ナイトビジネスの経営者たちは、たくましく、何より面白い」。こうした“歓楽街の住人”の法律相談を受け、寄り添い続けて11年。人呼んで「歌舞伎町弁護士」の素顔に迫った。(取材・文=吉原知也)
シックな木目調にしつらえたオフィスの会議室。黒シャツに黒ジャケット、茶髪のいでたちで現れ、“ただ者ではない”雰囲気を漂わせた。「これまで取り扱った事案で、一番ピンチだったことですか? うーん……。やっぱり言えないですね(笑)」。数多くのトラブルや相談事をさばいてきた仕事人。さわやかな笑顔が、逆に含みを持たせた。
どこまでも異端だ。そもそも法律家を目指す夢を持っていたわけではなく、「そこまで深くは考えていませんでした」。司法修習を終え、経験も人脈もなしに、いきなり法律事務所の創業メンバーとして立ち上げから参画したというから驚きだ。
埼玉出身で、早稲田大法学部を卒業後、慶応大法科大学院に進んだ。司法試験は2度目で合格。先に弁護士になっていたロースクール時代の友人が、勤務先の法律事務所の先輩たちと独立する際に、その話に乗り、合流した。新人弁護士ながら異例のキャリアだ。「シェアオフィスで始めて、新宿のビックカメラにファックスを買いに行って。自分たちで書類の送付などもやっていました。最初の頃は売り込みの電話をかけまくりました。学生時代にテレアポのバイトで1日100件以上電話をしていたので、なんてことはなかったですね」。
ホスト、キャバ嬢、性風俗やAV関係者らの法律相談を受け、歌舞伎町だけでなく全国のナイトビジネス経営者の顧問弁護士を務めるなど、あまたの“夜の事件”を担当。大阪・新潟オフィスを含めて12人の弁護士を抱えるトップとして現在に至る。
歌舞伎町で被害に遭い、困っている人にも目を向けてきた。裕福な家庭に生まれた軽度の知的障がい者の男性が、客として通っていたガールズバーでゆすりたかり、劇場型犯罪に巻き込まれ、約2億円の財産をむしり取られたケース。男性被害者に救いの手を差し伸べ、“犯人グループ”を追い詰め、示談に持ち込んだ。他にも、恐怖の性風俗トラブルに遭った霞が関の官僚からの依頼も……。
このほど、著書『歌舞伎町弁護士』(小学館新書刊)を上梓。エピソードと共に夜の街の裏事情を赤裸々に明かしているのはもちろん、若き風俗王との交流や悪質スカウト問題、6月下旬に施行される改正風営法などを実践的に解説している。今現在、改正風営法の成立によってホストの“色恋営業”が禁止になることを受け、ホストクラブ経営者への講習セミナーを実施するなど、時代の変化に即した法的サポートの提供に奔走している。また、女性を紹介された性風俗店がスカウトらに見返りを支払う「スカウトバック」の禁止が決まり、変革を求められている風俗業界にも目配りしている。

「歌舞伎町は相変わらず元気で、それはずっと変わらないと思います」
トラブルやタブーのリスクは大きい。なぜ、寄り添い続けるのか。「彼らが面白いからですよ」。答えはシンプルだ。「夜の店の経営者たちは発想が柔軟で、コミュ力が高い。それに、われわれがやっていること以上に大変なことに取り組み、それを乗り越えている。いろいろな事情や背景を持った人が夜の世界に入ってきます。そういう人たちを束ねるわけですから。それはすごい経験値を持っているわけです」。そのたくましさに魅了されている。
競合の少ない「ブルーオーシャン」を専門としていることで、弁護士仲間からは「面白いところに目を付けたね」と評価されているという。「徐々に風俗店経営者たちと出会っていって、お仕事をいただいているうちに、『需要が多い。他方で供給が少ない』ことが分かってきました。一生懸命に勉強してやっと弁護士になったような人は、ナイトビジネスの案件を積極的にやりたいとは思わないんですよ。でも自分は、もともと法曹に強烈な憧れを抱いていたわけではありませんでしたから。これはいいんじゃないかということで、力を入れてやってきました」。さらりと話すが、発想の転換、難儀な事案を解決してきた胆力は、すさまじいものがある。
歌舞伎町は、学生時代からの思い出の地だ。「大学の時、早慶戦の後に盛り上がってコマ劇場前の噴水に飛び込んだこともありましたね(笑)。今はゴジラのビルができて、最近はインバウンド客も増えています。いろんな人を受け入れてくれる街であり、やっぱり活力があるんですよ。エネルギーにあふれる、楽しい、すてきな街。歌舞伎町は相変わらず元気で、それはずっと変わらないと思います」と実感を語る。
近年は薬物や売春、トー横キッズなど諸問題が頻出している。当局の規制強化の動きも加速している。歌舞伎町の未来はどうなるのか。弁護士としてどう向き合っていくのか。
「いろいろな事情の人がいて、それぞれ困り事を抱えています。まっとうにビジネスをやっている人がいる中で、一部で悪いことをする人もいますけれども、ホストクラブや性風俗店そのものが悪いわけではありません。歌舞伎町のナイトビジネス業界はコロナ禍の時、融資も受けられない、助成金も出ない、そんな状況の中で皆さん頑張ってきました。今回のような法改正による締め付けがあっても、そこも乗り越えていくと思っています。自分自身は、夜の世界の人たちが悩んだりトラブルに遭って、『弁護士を探そう』と思った時に、第一に想起されるような、そんな存在であり続けたいです」と力を込めた。
