中居正広氏問題 古市憲寿氏、女性側を詰めた質問状「貴職以外にあり得ない」は軽率…弁護士が解説
社会学者の古市憲寿氏が12日、自身のXを更新し、元タレント・中居正広氏から性被害を受けたとされる女性(X子氏)の友人への発言を報じた週刊文春(今月5日発売)の記事について、X子氏の代理人弁護士に「確認」の文書を送ったと明かした。古市氏の文書は全8枚に及ぶが、これを読んだ元テレビ朝日法務部長・西脇亨輔弁護士はその「不自然さ」を指摘した。

元テレビ朝日法務部長・西脇亨輔弁護士「誰のために何をしているのか」
社会学者の古市憲寿氏が12日、自身のXを更新し、元タレント・中居正広氏から性被害を受けたとされる女性(X子氏)の友人への発言を報じた週刊文春(今月5日発売)の記事について、X子氏の代理人弁護士に「確認」の文書を送ったと明かした。古市氏の文書は全8枚に及ぶが、これを読んだ元テレビ朝日法務部長・西脇亨輔弁護士はその「不自然さ」を指摘した。
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結局、古市氏は誰のために何をしているのか。今回の文書を読んで残ったのはそんな疑問だった。
文書では冒頭で、週刊文春の記事が報じたX子氏の「橋下徹さんや古市憲寿さんは私や私の代理人に確認もせず、“加害者”側の発言を一方的に信じている」などの友人への発言内容について、X子氏の弁護士に質問している。
だが、この時点で古市氏の文書は「不自然」だ。
X子氏自身がSNSなどで発信した内容についてなら、X子氏側に質問するのも理解できる。しかし、週刊文春の記事は「X子氏から友人が聞いた」内容を「その友人から文春記者が又聞き」して文章にしたもの。X子氏と記者の間に友人が入り、伝聞の末に作られた「産物」だ。その記事について物申したいなら取材過程を知る週刊文春に問い合わせるのが筋なのに、いきなりX子氏の弁護士に公開質問状を送っている理由が、まず分からない。
その上で古市氏の文書には「一方的な決めつけ」と思える表現がある。
古市氏は、中居氏らの示談書に「X子氏が中居氏に刑事罰を求めない」という条項がわざわざ設けられていたなどを明かす「司法関係者」の発言が報じられたことを問題視し、この「司法関係者」の犯人探しを文書で展開した。その中で古市氏は、フジテレビ第三者委員会のメンバーや中居氏側弁護士がリークした可能性は非常に低いとした上で「ごく一般的な推論を重ねていくと、『週刊文春』に情報漏洩を行った『司法関係者』は貴職以外にあり得ないということになります」とX子氏弁護士を「詰めて」いる。「あり得ないと『考えます』」などの私見を述べる表現ではなく、断定表現をあえて使った古市氏の文書は、「X子氏の弁護士が情報漏洩者である」、または「その疑いが極めて濃い」という印象を読者に与えるだろう。
では、古市氏は「情報漏洩犯はX子氏の弁護士以外、あり得ない」と決めつけるだけの「証拠」を持っているのか。古市氏は、中居氏側の新旧弁護士やその関係者がリークした可能性を否定する「証拠」も、X子氏弁護士が示談情報を漏えいした「証拠」も示していない。また、示談書の守秘義務は正式な示談書締結の「後」にしか効力がないので、示談書締結の「前」に示談予定の内容を聞いた第三者は、取材に応じるのも自由となり得る。だが古市氏がそうした人物の存否について検証した形跡はない。さらに取材相手の身元をあえて曖昧に書くことは取材源秘匿のために多くの記事で行われることなので、文春記事の「司法関係者」は弁護士などではない可能性もある。
それにもかかわらず、古市氏が証拠ではなく頭の中の「推論」で「情報漏洩者はX子氏弁護士以外にあり得ないということになる」と断じているなら、それはあまりに「雑」で不適切だ。そうした表現は「軽率」で、古市氏の文書が「感情的な何か」に動かされたもののようにさえ感じさせる。
そして、「誰が『示談書の内容』を漏えいしたのか」「(中居氏とX子氏の間の)『9000万円』の解決金に関する報道は事実か」と畳みかけるようにX子氏の弁護士に質問する古市氏の文書を読むと、次の疑問が湧く。
なぜ、古市氏がその質問をしているのか。示談の当事者でもない古市氏は、どういった立場でその質問をしているのか。
中居氏弁護団の手法に似た「場外乱闘」
さらに言えば、X子氏の弁護士は各種報道では匿名なのに、古市氏はその実名と住所を知って文書を送付している。古市氏は一体誰から、X子氏の弁護士情報を入手したのか。
古市氏の文書を読み解くカギは、その作成の「いきさつ」や「背景」にあるように思う。そこに誰かが関わっているのか、いないのか。だが、その答は古市氏の文書では明かされていなかった。
謎が多い古市氏の文書だが、私がX子氏の弁護士ならこの文書には「無視」で対応するだろう。一方的に送り付けられてきた文書に「お付き合い」して、自分がX子氏の弁護士であるかどうかも含めて何らかの言質を古市氏側に与える必要はないからだ。
「週刊文春の記事について、X子氏の弁護士に質問状を送り付ける」という古市氏の手法は、「フジ第三者委への抗議文で、中居氏の言い分を示す」という中居氏弁護団の手法に似た「場外乱闘」のように思える。だが、こうしたやり方は、もはや世論へのインパクトもなくなってきたのではないか。一方でこの手法が二次被害を誘発する危険は残っている。
中居氏問題の今後の展開は分からないが、何かを議論したいのなら「場外乱闘」ではなく、記者会見などの「正攻法」しかない。私はそう思い続けている。
□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうまワイド』『ワイド!スクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いた。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。昨年4月末には、YouTube「西脇亨輔チャンネル」を開設した。
