2.5次元舞台の“第一人者”新木宏典、走り続けるマイルール 所属事務所のコンサートでは名曲披露も
2004年に俳優集団D-BOYSに加入し、翌05年の“テニミュ”ことミュージカル『テニスの王子様』1stシーズンで本格デビューして20年。俳優・新木宏典は、2.5次元舞台(2次元の漫画などを原作としたステージコンテンツ)を中心に活動する、このジャンルの第一人者的な存在だ。端正なマスクと役への真摯(しんし)な姿勢で注目されており、2.5次元作品を走り続ける“マイルール”を明かした。

デビューから20年、歌でも魅了
2004年に俳優集団D-BOYSに加入し、翌05年の“テニミュ”ことミュージカル『テニスの王子様』1stシーズンで本格デビューして20年。俳優・新木宏典は、2.5次元舞台(2次元の漫画などを原作としたステージコンテンツ)を中心に活動する、このジャンルの第一人者的な存在だ。端正なマスクと役への真摯(しんし)な姿勢で注目されており、2.5次元作品を走り続ける“マイルール”を明かした。(取材・文=大宮高史)
ミュージカル『テニスの王子様』(通称テニミュ)の青学(せいがく)2代目乾貞治、同『刀剣乱舞』のにっかり青江、同『Fate/Zero』(今年)の衛宮切嗣……新木が舞台で演じてきた役は漫画やゲームが原作の人気キャラクターが多い。一方、2015年にシングル『Next Stage』でソロデビューし10年。確実に歌唱力も高めており、今月は所属するワタナベエンターテインメントの25周年記念コンサート『ハッピーバースデー&サンキュー』(東京国際フォーラム、6月18~22日)にも出演する。スタンダードの名曲を披露するほか、アニメソングのコーナーでも歌う予定だ。
「感謝の気持ちをお客様に一番ストレートに伝えられるのが歌だと思います。これまでは役として歌うことが多かったので、まずは新木宏典として、どう歌うか? というところからはじめて、歌を磨いていきたいですね。25周年のお祝いでもあるので、楽しんでもらえたら」
舞台での歌唱に加え、同事務所の俳優音楽ユニット『D☆DATE』のメンバーでもあり、ソロで音楽活動もするなど経験豊富だが、今回の記念公演では、ある意味、難しさを感じているという。
「(名曲などを)僕が歌うからこそ、表現をしっかり客席に見せないといけないですよね。役をまとっていない、ハダカの新木宏典としてのパフォーマンスになる分、難しいです。もともと僕自身これといえる強みもないし、2.5次元作品をやっていく上では、個人としての個性も強くない方がいいと思っています」
俳優業に、個人のアクの強さはいらない――新木の持論は、20年の芸歴で見つけた彼なりの価値観でもあった。もっとも芸能界を目指したのは、“意外な動機”だった。
「高校3年生で進路を考えるタイミングになった時、何も知らない僕は『テレビで見るような芸能人になれたら、そんなに苦労しなくても稼げそうだな』と安易に思ってしまったんです。兵庫に住んでいて、関西のお笑いのレベルの高さはわかっていたので、まず芸人は無理だと(笑)。ミュージシャンの才能もないし、アイドルも18歳からでは遅い。舞台も見たことはなかったですが、定年退職がなく、年をとっても長く続けてできそうなのが俳優だなと考えました」
その後、若い勢いもあって上京する。2004年に俳優集団D-BOYSに入り、芸能活動をスタート。ゼロから演技を学んだ。新木は、2.5次元舞台の認知度を高くしたとされる“テニミュ”(2003年初演)に05年から06年まで上演の青学(せいがく)2代目キャストに選ばれ、話題に。以降、主戦場は2.5次元舞台となった。
「オーディションを受けたり、D-BOYSで活動していく中で、自分の魅力をなかなか見つけられませんでした。そんなときに、2.5次元作品に出合いました。個性を出すのではなく、原作のキャラクターを表現し、魅力を引き出すことが責務という、このジャンルが僕には合っていたんです」
当然、作品の研究はおこたらない。マンガ・映像・ゲーム・小説……原作は必ず自分で体感する。役への準備をしっかりやった上での表現は自信にもつながった。「新木がやるなら大丈夫と言っていただけるようになりましたし、オーディションにも自信をもって向かえるようになりました。『原作に縛られたくないから』と原作を読まないという俳優さんもいますが、僕は、2.5次元においてはキャラクターの色に染まるのが仕事だと思ってきました」と言葉に力を込めた。
「もちろん僕のやり方が全てではなくて……。役を自分に引き寄せるというか、どんな役でもその人の個性が強く出るものにしてしまう役者もいますし、そういった人の方がスター性はあると思います。僕自身は新木宏典という個人としてお客さんを呼べる力は弱いなと思っているんです」と打ち明けた。

「年齢に抗おうとするのはやめました」
それでも出演の機会は絶えなかった。今年1月に人気小説『Fate/Zero』の初のミュージカル化作品『Fate/Zero~The Sword of Promised Victory~』に衛宮切嗣役で主演し、9月上演の続編ミュージカル『Fate/Zero ~A Hero of Justice~』でも主演を務める。年齢を重ねても、どんなキャラクターも魅力を掘り下げて観客を魅了してきた。
「若い頃からやっていると、俳優誰もが『どう年をとっていくか?』で苦労すると思います。わざとイメージを崩す役をやってみたり、アウトローな印象を振りまいてみたり……僕の容姿でやっても若く見られるか、老けて見えるかはコントロールはできないので、年齢に抗おうとするのはやめました」
取った手段は「作品を絞る」という選択だった。
「若々しすぎず、年齢不詳に見られそうな役を狙っていきました。作品にフィットした演技も研究しながら。2.5次元は2次元の原作に僕ら俳優が新たな色をつけていくものですが、原作があるからといってほかのお芝居より楽ということでは全くないんです。そこを分かっていないと、このジャンルで長続きはできないですよね」
出演ジャンルを広げていく俳優も多い中、あえて2.5次元に比重を置き続けている。これからも多彩なキャラクターを演じていく覚悟だ。
「どれだけ頑張ってもビジュアルは崩れてきますし(苦笑)、何歳までできるか分かりません。でも2.5次元中心で頑張るという、先人のいない道を選んだからこそ今でも必要と思っていただけて舞台に立てているのだなと感じています。俳優の仕事ができる間は、こんな生き方もあるんだということを若い共演の皆にも伝えたいですし、何より『(2.5次元も)芝居は楽しいぞ』って、舞台の上で示していきたいですね」
□新木宏典(あらき・ひろふみ)1983年6月14日、兵庫県丹波市生まれ。2004年に俳優集団D-BOYSに加入し、翌05年にミュージカル『テニスの王子様』青学(せいがく)2代目乾貞治役で本格的に俳優デビュー。08年には映画『夏休みのような1か月』で山崎育三郎とダブル主演し、映画初主演を飾った。10年には音楽ユニットD☆DATEのメンバーとなり、15年にはシングル『Next Stage』でソロアーティストとしての活動も開始。17年からはミュージカル『刀剣乱舞』シリーズに、にっかり青江役として出演している。24年5月に出身地の丹波市アンバサダーに就任した。174センチ。
