『あんぱん』千尋役の中沢元紀、役作りで8キロ増量 海軍志願「理解はできました」
「役者をやっていたら1度は出てみたい夢の舞台」。俳優の中沢元紀がNHK連続テレビ小説『あんぱん』で朝ドラ初出演を果たした。演じるのは、柳井嵩(北村匠海)兄弟の弟・柳井千尋。プレッシャーと向き合いながら取り組んだ役作りや、戦争を背景にした作品への思い、共演者との絆まで。その胸中を語った。

現場では兄・嵩役の北村匠海と積極的に交流
「役者をやっていたら1度は出てみたい夢の舞台」。俳優の中沢元紀がNHK連続テレビ小説『あんぱん』で朝ドラ初出演を果たした。演じるのは、柳井嵩(北村匠海)兄弟の弟・柳井千尋。プレッシャーと向き合いながら取り組んだ役作りや、戦争を背景にした作品への思い、共演者との絆まで。その胸中を語った。
第112作目となる連続テレビ小説『あんぱん』は、“アンパンマン”を生み出したやなせたかしさんと妻・暢さんの夫婦をモデルに制作。生きる意味を失っていた苦悩の日々を送るも、夢を忘れなかったのぶと嵩が荒波を乗り越え、“逆転しない正義”を体現した『アンパンマン』にたどり着くまでの愛と勇気の物語を描く。
「朝ドラ出演は、役者をやっていたら1度は出演してみたい、夢の舞台の1つではあるので、決まった時はほんとにうれしかったです」
オーディションを経て「完璧人間」とも言える千尋役に抜てきされた中沢。喜びの一方で、「僕でいいんだろうか」という迷いもあったという。
「実際にいらっしゃった方をモデルにした役ではあるので、そこを演じる上での責任感も大きい。真摯に役と向き合って演じました」
家族にはすぐには報告できなかったが、知らせた際には「すごく喜んでくれました。おじいちゃん、おばあちゃんも1番楽しみにしてくれている人たちで、毎日今も『2回は見てる』って言ってくれて、すごくありがたいです」と笑顔で振り返る。
役作りでは柔道家という設定を生かすため、体づくりにも本気で取り組んだ。前作では細身の役柄だったため、約2か月毎日ジムに通い、8キロ増量。その後、筋肉に変えていった。
朝ドラ現場ならではのスケジュールにも、驚きがあったという。
「月曜日にリハーサルがあって、火曜日から金曜日が撮影で、土日が休みっていうのは、他のドラマとは違って。曜日感覚があるのがすごく新鮮。リハーサルも結構しっかりやるところはしっかりやるので、そこも僕の中では初めてで新鮮でした。初めての朝ドラで、結構緊張してる部分もあったので、お芝居を合わせる場があってすごくありがたかったです」
現場では兄・嵩役の北村匠海と積極的に交流を深めた。
「ほんとにいろんな話をしました。兄弟役なので、距離はもちろん近い方が空気感も出ますし、そこは僕も積極的に話しかけに行ったりとかはしていて。僕、結構アクションが好きで、匠海さんもいろんなアクション作品をやられてる方ですし、あんぱんの中でも喧嘩のシーンだったりとか、兄貴を投げるシーンもあったので、僕もいつかアクション作品やりたいんですよねっていう話をしたり、仕事関係、プライベートな話もしました。ほんとにいろんな話をさせていただきました」
千尋という人物を語るうえで欠かせないのが、主人公・のぶへの秘めた恋心だ。
「のぶさんが時代背景とかに負けずに自分の道を突き進んでいる姿を見て惹かれてから恋心に変わっていったのかなって、人としての憧れから入ったのかなと思います」
その想いが爆発するのが第54回、兄・嵩に対して全てをぶつけるシーン。
「千尋が嵩に初めて全てをぶつけるシーン。隠していたのぶさんに対する恋心もそうですし、戦争がなかったら……という想いも含め、すべてをさらけ出しました。すごい綿密に話し合って作り上げたシーンではなく、ほんとに少ない準備で本番を迎えた感じです。最小限の打ち合わせをして、その場で生まれるものを大事に作ったシーンだと思います」
母・登美子(松嶋菜々子)との関係にも、千尋ならではの葛藤がにじみ出た。
「お母さんに対しては、嵩みたいには接することはできないなっていう思いはありました。母親の生き方っていうのは、千尋は理解はできても共感できないんだろうなって。そこの嵩と千尋の違いっていうのは意識しながら演じてた部分はあります。寂しさ、怒り、本当にいろんな感情があったと思います」

祖父は陸軍にいた
本作で描かれる“戦争”というテーマにも、深い思いを抱いている。自身の祖父の体験を語った。
「祖父は陸軍にいたのですが、戦時中の写真を見せてもらったことがあって。笑顔で写っているんです。“戦争はしてはいけないもの、よくないもの”と教えられてきたので、なんで笑ってるんだろうなっていう思いがありました。若い世代にもあんぱんを見て戦争を多少なりとも感じていただいて、戦争に対する思いっていうのを考える時間を与えるきっかけになる作品になればいいなっていうのも思います」
作中で千尋は海軍に志願する。「ほかの学生が『俺も志願する』『俺も志願する』って言って、『お前はどうなんだ』って聞かれて志願するって自分の口から言ってるので、そういう時代背景もありますし、志願することがかっこいいとされてた時代。千尋としての信念はありつつも、志願する方に行くだろうなっていう理解はできました。そこにあまり疑問は浮かばなかったです」
『あんぱん』での経験は、中沢にとって役者としての転機になった。
「今回、お芝居の面でたくさん挑戦もあって。そうそうたる大先輩方の中で、自分の思ったことができた現場でした。受け止めてくださる皆さんの大きな器をすごく感じました。そういう役者になっていきたいなって目標もできましたし、今後の役者人生の中でも、このあんぱんの現場を超える作品をたくさん踏んでいきたいなって思いもあります」
「小倉の旅館で、嵩に思いをぶつけるシーンも涙は必要だったのかとか、そういう反省ではないですけど、本当にこれで良かったのか、これが本当に100パーセントだったのかっていう思いがあります。放送されて、皆さんの反応でよかったって思うのか。ずっと不安ではあります」と、どこか不安な心情も明かした。だが同時に、「全身全霊で挑んだシーンだったので、それが見てくださる方々に届けば」とも語る。
自身の“推しアンパンマンキャラ”について尋ねると、迷いなくこう答えた。
「ロールパンナがずっと好きでした。風呂敷をマントに見立てて、布団叩きにリボンつけて母と一緒に戦ってました。メロンパンナちゃんがピンチな時にやってきて助けて颯爽と帰るクールな感じが好きですし、2面性があるじゃないですか。そこが小さい頃、惹かれていたんじゃないかなと思います」
重いテーマを抱えながらも、人の温もりを丁寧に描く『あんぱん』。中沢が演じた千尋は、優しさと葛藤を抱えながら時代を生きた若者だった。作品を通じて届けられる思いは、現代の若者にも響くメッセージが込められている。
