【電波生活】『人生の楽園』西田敏行さんナレーション舞台裏 台本にない「へっへっへ」に込めた想い

西田敏行さんの「今週は何かいいことありましたか。私ね、思うんですよ。人生には楽園が必要だってね」というタイトルコールで始まるテレビ朝日系『人生の楽園』(土曜午後6時)。憧れの田舎に移住、故郷に戻るなど第2の人生を歩む人(主人公)たちの充実した暮らしぶりを紹介するドキュメンタリー。新しい生き方を提案し、時にすてきな人生の歩み方のヒントをくれる。2000年にスタートした長寿番組だが、主人公を毎回どう見つけているのか。また、昨年10月に亡くなった西田さんのタイトルコールを続ける理由も気になる。杉山かおりプロデューサーに取材すると、時代とともに変化する主人公の姿や生前の西田さんのナレーションの様子など興味深い舞台裏が見えてきた。

『人生の楽園』は2000年にスタートした【写真:(C)テレビ朝日】
『人生の楽園』は2000年にスタートした【写真:(C)テレビ朝日】

放送開始25年で「退職後60歳以降は自分へのご褒美のような時間」が変化

 西田敏行さんの「今週は何かいいことありましたか。私ね、思うんですよ。人生には楽園が必要だってね」というタイトルコールで始まるテレビ朝日系『人生の楽園』(土曜午後6時)。憧れの田舎に移住、故郷に戻るなど第2の人生を歩む人(主人公)たちの充実した暮らしぶりを紹介するドキュメンタリー。新しい生き方を提案し、時にすてきな人生の歩み方のヒントをくれる。2000年にスタートした長寿番組だが、主人公を毎回どう見つけているのか。また、昨年10月に亡くなった西田さんのタイトルコールを続ける理由も気になる。杉山かおりプロデューサーに取材すると、時代とともに変化する主人公の姿や生前の西田さんのナレーションの様子など興味深い舞台裏が見えてきた。(取材・文=中野由喜)

 まずは25年続くタイトルコールの誕生の経緯から聞いてみた。

「番組を立ち上げた2000年当時は戦後ベビーブームの世代が定年を迎えようとしている頃でした。その人たちに向けて第2の人生を提案できるような番組を作ろうという思いで始まった番組です。タイトルコールは『また、これから新しい人生が始まるよ』というメッセージ。新しい生き方を応援しようというコンセプトです。ベビーブーム世代の子ども世代がいわゆる第2次ベビーブームの世代。今その世代が50代を迎え、今度はその人たちが番組を見て第2の人生を考えるきっかけにしてくださっています」

 第2の人生に夢をはせる人たちの有り様も長く変わらないのだろうか。

「私が前任のプロデューサーから番組を引き継いだ時、改めて第1回の放送を見直してみたんです。スタート当初、いかりや長介さんの声で『頑張って人生を歩んできた人にはご褒美があっていい、それが人生の楽園』というナレーションがありました。つまり会社のため家族のために一生懸命に働いてきた人が、退職後60歳以降は自分へのご褒美のような時間を過ごしてもいいじゃないかという意味でした。今は違います。第2の人生をご褒美ととらえる人は多くはいません」

 どう変化したのか。

「たとえば現在移住を考えているボリュームゾーンは30~40代と言われています。番組も今は、60歳以降に限らず50代あるいは40代でも、これまではこんな価値観で生きてきたけれど、それは正解か? もう1回新しい人生を始めてみたい、という方を紹介しています。苦労しながらも、そこに新しい幸せの形があると信じて一歩踏み出した方が多いです。そこは様変わりしたと感じます」

 たしかに今の時代、年金だけでご褒美のような第2の人生は現実的ではない。またパワーが残る年齢でないと一歩踏み出せない。ここで、あらためて25年愛され続ける要因を尋ねた。

「番組のパッケージは変わっていませんが、登場する主人公はその時代時代を象徴する人に変わりつつ今に至っていると思います。今、どういう生き方が共感を得られるのか、どういう方が応援してもらえるのか、常に考えています。そしてナレーションの魅力ですね。掛け合いナレーションの先駆けですし、2人のナレーターが主人公と視聴者の両方に寄り添う形は唯一無二。そこが支持されていると思います」

 ナレーションで思い出すのは西田敏行さん。タイトルコールを今も使い続ける理由を尋ねた。

「亡くなられた後も西田さんの声で番組を続けてほしいという声が、番組に数多く寄せられたんです。西田さんへの『ありがとう』という感謝の声と同じくらい、本当に多くの方から『何とか西田さんの声で番組を続けてもらえませんか』という声が寄せられました。その声を受け、我々も何とか皆さんの気持ちに応えたいと考えこういう形になりました」

 西田さんのナレーションの魅力も聞いた。すると生前の舞台裏の姿が……。

「主人公の生き方に共感しつつ視聴者の気持ちにも寄り添う、そういうナレーションは実際のところなかなか難しいんです。作家や演出チームが知恵を絞り工夫して原稿を作りますが、やはり不十分なところも。すると西田さんが『こうしたら、もっといいんじゃない』と台本にすてきな味付けをしてくださるんです。たとえば台本にない『へっへっへ』という言葉。面白いね、ともとれるし、いいね、とも。すごく含みのある言葉です。『面白いね』とか『いいね』とは言えても『へっへっへ』は出てきません。逆に、ここはあえて読まなくても、と言ってくださったことも。微妙で繊細な部分を大切にされる方でした。ちょっとした足し引きでぐっと深みと温かみが増しました」

ナレーションを務める菊池桃子(左)と小木逸平アナ【写真:(C)テレビ朝日】
ナレーションを務める菊池桃子(左)と小木逸平アナ【写真:(C)テレビ朝日】

 今、ナレーションを務める小木逸平アナの魅力も尋ねた。

「誠実さそしてナレーション技術の巧みさ。安心感を与えてくれます。加えてユーモアも。報道の印象がありますが大学の落研出身で実は面白いことがとても好きな人。彼なりの味も出てきています。小さな発見を、張り切って『こうなんですよ』とアピールするような役回りがとても新鮮。視聴者の皆さんからも頑張る小木アナ、そして番組を支えてくださっている菊池桃子さんへの応援メッセージをたくさんいただいています」

 移住者や新たな人生を送る人など25年間、毎回魅力的な人が紹介されてきた。どうやって探すのかも気になる。

「自薦の方もいますが、ほとんど私たちが探してきた人たちです。専属のリサーチャーもいて、一般紙や全国の地方紙はもちろん、自治体のHPや各地のミニコミ媒体などから、幅広く新たな試みをした人の情報を収集しています。詳細はひかえますが長年蓄積したノウハウがあります」

 どんな人が選ばれているのか。

「一言で言うと『応援したくなる人』です。この人のこんな生き方を応援したい、というコンセプトでブレずにやっています」

 最後に番組の今後について尋ねた。

「生活のあり方は私たちの想像を超えていきます。コロナ禍を経て『都心の会社勤め』の価値は相当変わりました。移住のイメージも変わりました。番組に登場する主人公も様々です。女性が主人公として登場する回も増えましたし、結婚せず一人で新たな人生にチャレンジする方もいます。固定観念にとらわれず新しい生き方をしている人、一生懸命に頑張っている方を応援し、こんな生き方もあると視聴者のみなさんに思っていただけるようにしたいですし、若い人にも気付きがある番組にしたいです。もちろん土曜の夕方、この音楽、語りを聞くと心安らぐ、という温もりもずっと大事にしたいですね」

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