芳根京子が明かす“2人の先生”の存在 芝居への向き合い方に変化「メンタルも強くなりました」
俳優の芳根京子が、6月8日に東京・PARCO劇場で開幕する『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』(行定勲演出、29日まで)で約6年ぶりに舞台に挑む。昭和30年代に「先生」と呼ばれた日本映画界の名匠のある1日を描いた作品で、芳根は食堂の看板娘を演じる。主演の俳優・中井貴一らとともに、昭和の話を展開する彼女の意気込み、自身にとっての「先生」について話を聞いた。

中井貴一の主演舞台『先生の背中』に看板娘役で出演
俳優の芳根京子が、6月8日に東京・PARCO劇場で開幕する『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』(行定勲演出、29日まで)で約6年ぶりに舞台に挑む。昭和30年代に「先生」と呼ばれた日本映画界の名匠のある1日を描いた作品で、芳根は食堂の看板娘を演じる。主演の俳優・中井貴一らとともに、昭和の話を展開する彼女の意気込み、自身にとっての「先生」について話を聞いた。(取材・文=大宮高史)
本作は日本映画界の巨匠・小津安二郎監督をモデルにしたセリフ劇。映画監督の行定氏が、中井に小津さんの話を演劇作品でやりたいとオファーし実現した。鈴木聡氏が脚本を手掛ける。
時代は映画がテレビに押されつつある昭和30年代。「先生」と呼ばれる映画界の名匠・小田昌二郎(中井)のある1日を、彼の人生にかかわった5人の女性を中心に、当時の映画界の活気と人間模様を交えながらユーモラスに描く。芳根は、撮影所前にある食堂の看板娘・竹井幸子を演じる。
「幸子は明るくハキハキした女の子なので、台本を読んで感じた昭和ならではの、ぬくもりを大切にして演じたいと考えています。ちょうど『波うららかに、めおと日和』(フジテレビ系主演ドラマ、木曜午後10時)でも戦前を舞台にお芝居をしているので、今年上半期はほぼ昭和時代に生きている気分です(笑)。NHKの朝ドラヒロインをさせていただいた『べっぴんさん』(2016年後期)も昭和が舞台だったので、昭和のイメージがわきやすいですね」
演出を務める行定氏とは今回初めてタッグを組むといい、「行定さんの映画を見て、とても女性を美しく表現される方、という印象を持っていました」と話す。今作では、「先生」を取り巻く5人の女性を芳根のほか、柚希礼音、土居志央梨、藤谷理子、キムラ緑子が演じており、「行定さんの演出で、私たち5人の女性は舞台でどう表現されるのか楽しみです。今ドラマでご一緒している高橋努さんからは『優しい方だよ』とお聞きしたので、リラックスしてお話しできそうです」と前向きな姿勢を見せた。そして、「稽古で生まれる、自分の心の変化も楽しみたいです。」と明かした。
ちなみに、中井扮(ふん)する「先生」のモデルとなった、小津監督について尋ねると、「作品を拝見すると、日常の淡々とした出来事に寄り添っていて、共感できる瞬間が多いです。それに、どの作品も『きれいな空間』が印象的で、例えばカーテンのチェック柄、一つをとってもカラフルでオシャレに見えますし、細かなところまで美意識があって、こだわっていた方だったんだなと思います」と印象を述べた。
自身の舞台出演は2019年の『母と惑星について、および自転する女たちの記録』以来、約6年ぶり。実は、キムラとはその作品で共演しており、今作で再び一緒のステージに立つ。「緑子さんは『母と惑星について』ではすごく怖いお母さんの役だったんですが、実際は優しい方で頼りにさせていただきました。最近は年下の俳優さんに頼られることが増えて、より緊張する現場も多かったのですが、今作では先輩方に少し甘えられるかなとホッとしています(笑)」

「テーブルがびしょ濡れになるほど大泣きして」堤監督の信頼に感謝
さて、劇中の幸子は、小田のことを「先生」と呼んで慕っている。芳根自身にも「先生」と呼べる存在がいるかを問うと、2人の名前を挙げた。1人は、出演映画『ファーストラヴ』(2021年)のメガホンを取った、堤幸彦監督。芳根はその映画で父親殺しの容疑者・聖山環菜を演じた。現場で表現に悩んだこともあったが、芳根を信じて見守った監督の存在は大きかったようだ。
「(主演の)北川景子さんと2人のシーンで、本番前のリハーサルの時に、テーブルがびしょ濡れになるほど大泣きしてしまいました。堤さんは普段リハを繰り返すのに、その時は1回で終わってしまって……。自信がなかったので『(本番は)うまくできないかもしれません』と伝えたら、『カット割り変えちゃったし、1回で大丈夫だよ』と明るく言われて。いざ本番となったら、北川さんのお芝居に合わせていくうちに自然と環菜としての感情が出てきてすんなりできて、リハで苦戦していたのが嘘のようでした」
監督から思わぬサプライズもあった。その撮影翌日が、ちょうど監督の誕生日で、「『最高のプレゼントをありがとう』と声をかけられて、うれしかったですね。放任に見えて実は信頼してくれていたのがありがたかったですし、1人で悩むだけではなく、もっとお芝居を楽しむつもりでやってみようと思えた経験でした」
そして、もう一人の「先生」は、デビューから7年間支えてくれたマネジャーだ。
「10代の頃は大げんかをしたこともありましたが、自分が大人になるにつれて、怒るってエネルギーを使うことだと実感し、それだけ情熱をもって私と接していてくれたんだということが分かったんです。本当に感謝しています。あの頃にもらった言葉が人としてのベースになりましたし、メンタルも強くなりました」
そう明かし、さわやかな笑顔を見せた。そんな芳根には今、熱中しているものがある。
「今、南部鉄器にハマっています。南部鉄器って、使っていくうちに色合いが変わっていくんですね。まだ使い始めですが、現場と家の往復の日々の中、白みがかったところが出てきたり、ちょっとした変化を感じられるのが楽しくて。育てているような気分です」
使い込むと色合いや質感が増す南部鉄器のように、芳根自身、自分らしい色合いを出そうと努めている様子。「私、『明日やればいいや』ではなくて、やれることは先に片付けておきたい性格なんです。それで次の日、やることがなくなったらそれはそれで楽です(笑)。そんな風に生きていて、落ち着いて見られるからか『人生2周目みたい』と言われます。不器用なところはありますが、毎日を全力で過ごしたいと思っています」と熱い気持ちをのぞかせた。
一方で、「本当に心を動かされるのは何だろう」と自らを見つめる思いも生まれ、昨年思い切って長い休みを取ったという。
「海外も旅しましたし、家族や友達との時間を増やしたら、より心が満たされる感覚がありました。自分の時間を多く持つことで、健康的にお芝居に向き合えて、質もさらに上がると思います」と精神的な余裕が仕事に好影響をもたらしている。
そして「いまだに現場では緊張しいです」と苦笑いするも、最後に、芝居に対する気概を明かした。
「求められることには120%で返したいと思っています。ただ、自分が器用ではないぶん、監督や演出家の方には私がどんな人間か、全てをさらけ出した方が安心してお芝居ができるので、作品以外のことでもどんどんコミュニケーションを取ろうと思います。何でもない空き時間でも、とにかく皆さんと話をして、お互いを知れたらなって。人見知りですが頑張ります(笑)」
今作『先生の背中』でも先輩俳優たちの懐に飛び込み、カンパニーの“看板娘”として舞台に立つ――。その準備は整った。
『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』は、全国5か所で上演する。東京公演はPARCO劇場で6月8日~29日。大阪公演は森ノ宮ピロティホールで7月5日~7日。福岡公演はJ:COM北九州芸術劇場 大ホールで7月11日、12日。熊本公演は市民会館シアーズホーム 夢ホールで7月15日。愛知公演は東海市芸術劇場 大ホールで7月19日、20日。
□芳根京子(よしね・きょうこ)1997年2月28日生まれ、東京都出身。2013年にフジテレビ系連続ドラマ『ラスト・シンデレラ』で俳優デビュー。16年後期のNHK連続テレビ小説『べっぴんさん』でヒロインを務めた。18年には映画『累-かさね-』『散り椿』で、第42回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。25年は、1月期のTBS系連続ドラマ『まどか26歳、研修医やってます!』、4月期で現在放送中のフジテレビ系連続ドラマ『波うららかに、めおと日和』(木曜午後10時)と続けて主演している。
ヘアメイク:猪股真衣子(TRON)
スタイリスト:杉本学子(WHITNEY)
セットアップ 2万8600円
インナー 1万4300円/ともにAmeri(AMERI VINTAGE)
その他/スタイリスト私物
ブランド AMERI
