日本で働く外国人が見た日産“低迷の理由” 母国ではトヨタのタクシーが大人気「燃費がいいからです」

日本の産業を代表する自動車業界では、外国人も日々、働き手として奮闘している。両親共にイギリス人で、日本で生まれ、イギリスで育ち、志を持って日本で就職――。そんな異色の経歴を持つ、イギリス人自動車エンジニアがいる。カーレースと日本が大好きな、25歳のスコット・ロベルさんだ。モータースポーツ分野で幅広く事業展開する日本企業「セルブスジャパン」に勤め、サーキットを支える裏方の技術者として研鑽(けんさん)を積む。意外な国産車が愛車で、日本車ファンでもある。日本に来て2年半。独学で日本語を習得した努力の半生と、“英国人から見たニッポンの自動車産業”について聞いた。

日本で奮闘するイギリス人自動車エンジニアのスコット・ロベルさん【写真:セルブスジャパン提供】
日本で奮闘するイギリス人自動車エンジニアのスコット・ロベルさん【写真:セルブスジャパン提供】

自動車レースで「より速く走れる車両」に仕上げるキーマン 独学で日本語を習得

 日本の産業を代表する自動車業界では、外国人も日々、働き手として奮闘している。両親共にイギリス人で、日本で生まれ、イギリスで育ち、志を持って日本で就職――。そんな異色の経歴を持つ、イギリス人自動車エンジニアがいる。カーレースと日本が大好きな、25歳のスコット・ロベルさんだ。モータースポーツ分野で幅広く事業展開する日本企業「セルブスジャパン」に勤め、サーキットを支える裏方の技術者として研鑽(けんさん)を積む。意外な国産車が愛車で、日本車ファンでもある。日本に来て2年半。独学で日本語を習得した努力の半生と、“英国人から見たニッポンの自動車産業”について聞いた。(取材・文=吉原知也)

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 自動車レースにおいて勝負のカギを握るキーマンだ。日本で開催されているアジア最高峰のカーレース「スーパーフォーミュラ」に参戦している同社のチーム「TGM Grand Prix」に加え、日本のカーレース「スーパーGT」を含めた他チームのエンジニアとしても活動している。拠点となる静岡の御殿場ワークショップでは、レーシングドライバーがトレーニングで乗車するドライビングシミュレーターの調整を担当。試合本番では、車両とパソコンをつなぎ、各種データを見ながら、ドライバーの意見を聞き、使用タイヤのチョイスや燃料の計算など緻密に分析。「より速く走れる車両」に仕上げる重要な役割を担っている。

 そんなスコットさんは、音楽業界に関わる父親の仕事の関係で、日本で生まれた。1歳の時に母国に戻ったが、親日家の父の影響もあり、生来の日本好きに育った。「知れば知るほど、日本を好きになる理由があります」。アニメ・漫画よりも日本の歴史に興味を抱き、14歳で来日した時は、剣豪・宮本武蔵にまつわる史跡を巡った。

 それに、物心ついた時から自動車好き。幼少期はテレビの前で「レースが見たい!」と叫んでいた。将来は「モータースポーツ関係の仕事に就きたい」と自然と決意。日本のスーパーフォーミュラをテレビで見て、すっかり魅了された。イギリスの大学ではモータースポーツ・エンジニアリングを学び、就職へと準備を整えていった。

 しかし、いくら日本に親近感を持っているとは言え、どうして日本企業に就職して移住するという道を選んだのか。「本場イギリスには、F1チームもあって大きな組織がいくつもあります。ただ、大組織は分業制で、1年やってまた別の部署に移るといった流れが多いです。日本のチームでは、より多くの役割を任せてもらえます。自分の好きなやりたい業務もこなすことができます。スーパーフォーミュラの場で学ぶことで個人のレベルを上げて、いつかF1の舞台で働くことも見据えています。個人が成長できる、そう考えたからです」と力強く語る。大学の同級生には、同じ道を選択する人はいなかったという。日本で勝負して、一人前のエンジニアに上り詰めるという心意気にあふれている。

 ほとんど違和感のない日本語。ほぼ独学というから驚きだ。「セルブスジャパンの面接を受けた時は正直、そこまでしゃべることはできていませんでした(笑)。もともと単語は少し覚えていて、父親と日本語で話したり、アプリを使って文法のチェックをしたり、大学時代に日本人の留学生と仲良くなって、自分なりに日本語をコツコツ勉強していました。就職して、日本に来ると、周りは日本語ばかり。その環境で徐々に覚えていきました」。一方で、レーシングドライバーとのコミュニケーションは大事な仕事の一つであるが、オノマトペ(擬音語や擬態語)にひと苦労。「グッと踏み込む」「ズルッとなる(タイヤが滑る)」など、日本語特有の感覚を日々学んでいるという。

スコットさんはモータースポーツの裏方として大活躍【写真:セルブスジャパン提供】
スコットさんはモータースポーツの裏方として大活躍【写真:セルブスジャパン提供】

「本当に好きで楽しむこと、そして気合いがあってこそ続けられるものだと思っています」

 大馬力でごう音を響かせるスポーツカーに普段から接しているスコットさん。気になる愛車はと言うと……。「2017年式の三菱・ミラージュです」。ちょっと意外なコンパクトカーの名前が出てきた。「三菱のお店が家に近かったのと、まだ25歳で働き始めたばかりなので、手頃に中古で買えたからです(笑)。もちろんスポーツカーは好きですし、将来的な家族を考えて4人乗りで運転が楽しそうだなと思う日本車は、例えばホンダのシビック、アコードがいいなと思っています。トヨタのGRシリーズにも注目していて、GRカローラも乗ってみたいです」と教えてくれた。

 イギリス人の目線からすると、日本車の「燃費のよさ」は大きく注目されているといい、驚きの最新事情を披露。「イギリスのタクシーは、今や多くがプリウスになっていますよ。ハイブリッド車の燃費がいいからです。イギリスでは、タクシー車両は自分の所有で、燃料代も自分持ちになります。だから、燃費の優れたプリウスを選ぶ運転手が多いんですよ」。それに、世界的に市販車の安全性能が向上している中でも、「問題が起こらない」日本車の信頼性は高く評価されているという。

 現在、日産スカイラインGT-Rをはじめとする国産スポーツカーの旧車は、中古車市場で爆上がり。世界の愛好家・収集家の注目の的になっている。もともと「車はそのまま残す」考えを持っているというスコットさんは興味深い見解を示す。「日本では、古い車をきれいにそのまま維持するオーナーが多いです。その日本の旧車に、自分で改造したり、チューンアップしたりすることが好きなアメリカやイギリスの愛好家が注目しています。残された旧車をベース車両にしたい、自分の好きに改造したい。そういった理由で買い集めます。だから人気になっている部分はあると思います」。国産旧車の“異常人気”を分析する。

 日本の自動車業界は危機に見舞われている。グローバル市場の競争激化や、米国トランプ政権による関税政策……。ここのところ日産自動車が不振に陥っており、心配事は尽きない。

「やはりトヨタが一番元気いいですし、ホンダは安定性があると思います。日産に関して言うと、私は日産でインターンシップを経験しましたが、新しい車があまりない、かっこいい車が出てないと思います。安いものばかり売って、テクノロジーが高まっていないように思えます。新型フェアレディZが出たことはポジティブな要素です。レース業界においても日産がいなくなってしまっては困ります」。ちょっと厳しい言葉にエールの思いがにじむ。

 世界的な自動車文化はどうなっていくのか。「これからはEV(電気自動車)が世界的に増えていくでしょう。その一方で、運転席にスクリーンやパネルが導入され、どんどん単純になることで、面白くないなと思う人も増えるでしょうね。現にうちの父親はBMWが大好きなのですが、『今度買うなら1980年式の車から選ぶ』と言っています。こだわって選び抜く、というより、スーパーの商品棚から選ぶように車が買われていくようになるかもしれません。それなのに、納車は何年待ちとなってしまい、車自体に乗らなくなる人が増えることも考えられます」と見通しを語る。ただ、EVや技術革新に前向きな要素があるといい、「まず、環境にやさしい。そして、車のパフォーマンス性は高まります。AIが進化して自動運転が進み、安全性能は向上していくと思います」と強調した。

 日本で就職して3年目を迎え、「この仕事は自分の多くの時間を費やします。本当に好きで楽しむこと、そして気合いがあってこそ続けられるものだと思っています」と実感を込める。数学的な計算能力、ITの経験値も求められるといい、「チームごとで環境が異なりますし、新しい車両にも早く慣れることが大事です。自分の知識をつないで、よりいい仕事をしていきたいです」。大きな夢を胸に、これからも日本で頑張っていくつもりだ。

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