元乃木坂46・深川麻衣、アイドル時代のイメージ超え躍進「共演者に恵まれ無意識に学んできた」

俳優・深川麻衣が、京都を舞台にしたシニカルコメディー映画『ぶぶ漬けどうどす』(冨永昌敬監督、6月6日公開)に主演した。2016年に乃木坂46を卒業後は俳優業にまい進。近年、活躍がめざましい中、「演出が奇想天外すぎて、衝撃でした」という撮影の舞台裏や役への向き合い方を語った。

映画『ぶぶ漬けどうどす』でユーモアあふれる演技を見せた深川麻衣【写真:増田美咲】
映画『ぶぶ漬けどうどす』でユーモアあふれる演技を見せた深川麻衣【写真:増田美咲】

京都人の本音と建前描く『ぶぶ漬けどうどす』で主演

 俳優・深川麻衣が、京都を舞台にしたシニカルコメディー映画『ぶぶ漬けどうどす』(冨永昌敬監督、6月6日公開)に主演した。2016年に乃木坂46を卒業後は俳優業にまい進。近年、活躍がめざましい中、「演出が奇想天外すぎて、衝撃でした」という撮影の舞台裏や役への向き合い方を語った。(取材・文=大宮高史)

 同作は、映画『his』(2020年)や『そばかす』(20年)などを手掛けた脚本家、アサダアツシ氏の企画・脚本による完全オリジナル作品。本音と建前をうまく使い分ける地元“京都人”と“ヨソさん(よそ者)”主人公の攻防を面白おかしく描く。

 深川が演じるのは、京都の全てを愛するあまり京都の老舗扇子店に嫁いだフリーライターの澁澤まどか。友人のマンガ家・安西莉子(小野寺ずる)と老舗の暮らしぶりをコミックエッセイにしようと、室井滋扮する同店の女将で義母の澁澤環や、老舗料亭の女将・竹田梓(片岡礼子)らの協力を得て、老舗の裏側を取材していく。だが老舗の伝統を守ろうとした彼女の行動は気づけば女将たちのひんしゅくを買い、「本音と建て前」に翻弄(ほんろう)されてしまう。反省して、京都の良さを正しく伝えようとするものの、またも事態は思わぬ方向へ……。

 まどかの夫・真理央を演じる大友律、まどかを応援する京都の大学教授の中村航に若葉竜也、不動産業を営む上田太郎に豊原功補と共演男性陣にも演技派がそろった。深川は、本音が読めない“都人”たちに囲まれつつ京都のために奮闘する、まどかを表情豊かに演じた。

――澁澤まどかについては、どのように役作りを考えていきましたか。

「まどかは私とあまり似ていない性格だったので、台本から『なぜ彼女はこんなに京都や澁澤家に恋焦がれていったんだろう?』と想像を広げました。同時に彼女の言動にあまり意味を持たせすぎないようにしました」

――プランを固めすぎずに、芝居に余白を残して臨んでいったと。

「そうですね。普段、自分の行動に意味を考えることって少ないと思います。まどかの役作りも、『考え過ぎない方が面白くなるかな』と思ってやってみました。いざ撮影になると冨永監督の演出が意表を突くことばかりで、もしかすると『京都に翻弄されるまどかも、こんな心境だったのかも』と思えてきて。現場での私の驚きがと、まどかの戸惑いとリンクしていたと思います」

 冨永監督から、「深川さんしかいない」と熱烈なオファーをもらって出演した深川。現場では冨永監督のアレンジで、劇中の人物描写にも深みが増していったという。

――冨永監督の演出で、記憶に残っているシーンを挙げるなら?

「いつも丁寧語で話す若葉さんの中村先生の口調は、台本では普通だったんです。だけど本読みの時、冨永さんが突然、『(語尾を全部)ですよ、に』と言い出して(笑)。私も横でびっくりしたんですが、先生の変わり者ぶりが目立ってさらに面白くなりました。まどかのシーンも、どんどんアレンジされていって楽しかったです」

――では、まどかを演じていて一番楽しかった思い出は。

「『鳥居』ですね。道に立ち小便禁止の意味合いでミニチュアの鳥居が置かれていて、まどかがその鳥居を拝む場面があるんです。最初は拝むだけでした。ところが冨永さんの『持って帰りましょう』の一言で、澁澤家にその鳥居を持って帰る展開になって(笑)。おかげで、その次のお義母さんとのシーンで、鳥居がまるで『悪魔祓いの十字架』のように映っています。お家を守りたくて必死になっている、まどかの焦燥感がより強く伝わったと思います」

 笑顔でエピソードを明かし、個性豊かなスタッフや俳優との掛け合いを楽しんだ様子だ。そんな深川は、もともと芸能界に興味があり、専門学校に進学後、2011年に乃木坂46の1期生オーディションに応募し合格。約5年を過ごすうちに、クリエイティブな映像制作に惹かれ、俳優の道を志していく。

深川が演じる澁澤まどか(中央)は老舗の危機にいてもたってもいられなくなり、つい鳥居を持っていき…【写真:(C)2025「ぶぶ漬けどうどす」製作委員会】
深川が演じる澁澤まどか(中央)は老舗の危機にいてもたってもいられなくなり、つい鳥居を持っていき…【写真:(C)2025「ぶぶ漬けどうどす」製作委員会】

「もう呼んでもらえないかも」緊張していた若手俳優時代

「グループにいる間に、舞台やドラマのお芝居を経験させていただいたりミュージックビデオ(MV)の撮影も撮っていく過程含めて楽しくて。お芝居を一から突き詰めてみたいという気持ちが強くなって、卒業に向けての気持ちが固まっていきました」

――2016年8月に卒業後、10年近く俳優業に打ち込んでいますが、やりがいを感じる瞬間はありましたか?

「うれしかったのは、アイドル時代のイメージとは離れた役をいただけるようになったことです。グループにいると、メンバーの個性に応じて、『この子はこういうキャラ』と決まったイメージで見られることもあって。それは悪いことではないのですが、破っていかなければいけない殻でもあると思っていたので」

――その過程で、芝居への向き合い方は変わっていきましたか。

「お芝居の経験値は同世代の女優さんと比べても圧倒的に少なかったので、はじめは焦っていました。だから『ここで何かつめ跡を残さないと、もう呼んでもらえないかも』と、ガチガチに緊張して固くなっていました。でも、自分の心も大事にして肩の力を抜いてみたら、少し楽になったんです。その時の自分に全力で向き合えたら、反省を引きずるのではなく次に活かそうと前向きに切り替えられるようになりました」

――それは、いつ頃からでしょうか。

「4~5年ほど前からです。オファーをいただいて初めて役を演じられるという点では、本当に作品との出合いはタイミングとご縁なんですよね。せっかく関わらせていただけるなら、受け身ではなく積極的にコミニュケーションをとりたいしアイデアを出し合って作っていきたいと思うようになって。最初は意見を伝えることに怖さもあったのですが、ちゃんと話し合えた方がより豊かな時間になると実感しました。この作品でも冨永監督と話し合う中で気づいたアイデアや発見がたくさんありました。ジャンルに縛られないユニークな作品になっていると思います」

――なるほど。今作で新しく感じたことはありますか?

「『コミュニケーションの文化の面白さと難しさ』です。京都に限らず、思ったことをそのまま口にする人って少ないと思うんです。オブラートに包むのが奥ゆかしさを美徳とする日本人らしさなのかなって。だからこそ、この作品でまどかが体験したような驚きがあって、人付き合いにおいて、面白いこともしんどいことも起きると思います。今作は日常の縮図のような作品でもあるので、『世の中、いろんな人がいるな』とクスリと笑っていただきたいですね」

 そして最後に「昔から、人への関心が強いんです。作品ごとに、素晴らしい共演者の方々に恵まれて無意識に学んできたと思います」とも振り返った深川。アクの強い京都人に負けまいとたくましく生きるまどかのように、これからも感性を磨き、しなやかに歩んでいく。

□深川麻衣(ふかがわ・まい)1991年3月29日生まれ、静岡県出身。2018年に映画初出演&初主演の『パンとバスと2度目のハツコイ』で第10回TAMA映画賞最優秀新進女優賞を受賞。以後NHK連続テレビ小説『まんぷく』(2018年下半期)、大河ドラマ『青天を衝け』(2021年)、映画『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』(2023年)などに出演。2025年は1月公開の映画『嗤う蟲』に主演した。

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