「やらせないといけない」 幼児教育に月20万円 子どもは泣きわめき…習い事を「手放した」ワケ
人生100年時代を迎えたが、不景気が続く中で、お金のやりくりはどんどん厳しくなるばかり。働いて稼ぐ給与所得だけでなく、資産運用が重要性を増している。子育て世代にとっては、わが子のために教育費は惜しまず、資金を投入したいところ。一方で、「いろいろ経験させてあげないと」と習い事が過熱しがちで、どんどんかさむ教育費も悩みのタネだ。2度の貯金ゼロ・無職を経験し、投資詐欺被害にも見舞われたが、どん底から“億り人”になった金融教育家の櫻井かすみさんは、1児を育てるママでもある。一時期は幼児教育にのめり込んだが、家族関係がぎくしゃくしてしまい……。月20万円以上かけてきた習い事をすべて「手放しました」。そんなお金と子育ての“新しい発想”を聞いた。

「子どもに多くの経験を」 熱を入れ過ぎて…“習い事の送迎問題”が勃発
人生100年時代を迎えたが、不景気が続く中で、お金のやりくりはどんどん厳しくなるばかり。働いて稼ぐ給与所得だけでなく、資産運用が重要性を増している。子育て世代にとっては、わが子のために教育費は惜しまず、資金を投入したいところ。一方で、「いろいろ経験させてあげないと」と習い事が過熱しがちで、どんどんかさむ教育費も悩みのタネだ。2度の貯金ゼロ・無職を経験し、投資詐欺被害にも見舞われたが、どん底から“億り人”になった金融教育家の櫻井かすみさんは、1児を育てるママでもある。一時期は幼児教育にのめり込んだが、家族関係がぎくしゃくしてしまい……。月20万円以上かけてきた習い事をすべて「手放しました」。そんなお金と子育ての“新しい発想”を聞いた。(取材・文=吉原知也)
文字通り「波瀾万丈の人生」だ。製薬会社のMR(営業)として働いていた20代前半で1度目の結婚をしたが、1年足らずで離婚。貯金がなくなり、実家に戻ってからは心身が落ち込み、ニート生活になった。20代半ばで「このまま人生を終わらせたくない」と一念発起し、ドイツ外資系の製薬会社で再びMRとして社会復帰を果たした。
しかし、信頼していた投資コミュニティーで合計300万円の投資詐欺被害に遭い、またも資産を失った。デイトレードにハマって極度の寝不足に陥り、会社内で2回倒れるなど、相変わらず失敗を重ねたが、インデックス投資や暗号資産などを組み合わせて運用し、20代のうちに金融資産1000万円に到達した。
30歳を過ぎて、人生が好転する。現在の夫と再婚後、33歳で第1子を出産した。さらに、「やり残して人生を後悔したくない」と、起業を決意。外資系製薬会社を辞め、2022年、34歳の時に独立・起業。投資スクールを立ち上げた。親子向けの金融に関する講演会や著作など活動はどんどん充実。昨年に初めての著書『投資への不安や抵抗が面白いほど消える本』(Gakken)を出版し、今年4月、最新著書『母が子に伝えたい大切なお金と社会の話』(同)を上梓した。「どん底を経験したからこそ今があります」と振り返る。
大人に金融リテラシーを教えるだけでなく、小学校教諭免許状を持っており、子どもへの教育にも心得がある。現在4歳になる子どもに愛情を注ぐ櫻井さんだが、こんな手痛い失敗談があるという。
「『お金に困らない子に育ってほしい』と、生後6か月から習い事を始めました」。知育教室を皮切りに、英語教室、インターナショナルスクール、水泳教室、ダンス教室、かけっこ教室……。「すべては子どものため」と通わせまくった。インターの月謝は15万円、知育教室は3万円ほど。月20万円以上かかり、2歳までみっちり通わせていた。
すっかり熱心過ぎる教育ママに。「やっぱり『子どもに多くの経験をさせてあげたい』。その気持ちが強かったです。それに、習い事の相談をしていると、『できるだけ早いタイミングで』と必ず言われます。周囲のママさんもそんな雰囲気で、『やらせないといけない』という頭になっていました」。幼児教育を否定するつもりはない。プラスの経験になったと信じている。しかし、家計とのバランスを一顧だにしないのは危険だ。「投資にのめり込むのと同じ感覚で、どんどんお金を突っ込む状況になっていました」。
習い事に傾注するあまり、共働きの夫婦関係までもがぐらついた。「夫は土日も仕事があります。私も土日に忙しい時があります。そうすると、家庭内で“習い事の送迎問題”が勃発するんです。どっちが送るのか、迎えに行くのか。その“どっちが”で言い争いになって、家族関係が最悪になってしまいました」。一家はピンチに陥った。
本来は楽しいはずのお教室なのに、お父さんとお母さんはけんかしてばかり。櫻井さんの子どもは2歳になると、習い事に連れて行こうとするとイヤだと泣きわめき、明らかな拒否反応を示すようになった。
夫婦は我に返り、猛省した。「子どもに苦行を強いてしまっていました。これでは子どものためになりませんよね。私自身、資産形成と一緒だということに気付きました。投資は、安定性のある土台を固めてから、積極運用の選択肢を組み合わせていきます。家族において大事なのは、つながり・絆です。その家族のコミュニケーションを土台として固めたうえで、子どもの教育のために何が必要なのか。改めて考え直しました」。

「子どもには、人生の小さい失敗を繰り返してほしいです」
その結論は「何も通わせないこと」だった。4歳の現在、習い事は一切ない。保育園に通いながら、主に自宅で夫が、工夫を凝らしてさまざまな学習の機会を与えている。「子どもが自ら何かをやってみたいと言った時に、それを習わせてあげたいです。そうやって自ら考え、決めて、行動できる子になるように、私たち夫婦がしっかりと教育していきたいです」と力を込める。
自分で考えて、自分自身で幸せを見いだす――。「お金とウェルビーイング(幸福度)」が、現在の櫻井さんのテーマだ。法政大大学院に通い、研究を深めている。実際に最新著作では、子育てとお金の問題にどう向き合うかをつづっており、「お金に振り回されるのではなく、お金を味方につけて人とのつながりに感謝しながら幸せな人生を築く力を育てていきましょう」と説いている。おこづかいは何歳から? おもちゃ・お菓子・勉強道具を買うタイミングは? 収入・支出・家計のことを子どもに教えよう……。他にも、オンラインショップやゲーム課金問題への対応など、幅広くアドバイスを伝えている。
そんな櫻井さんは実際に4歳児に、お金のどんなことを教えているのか。
「まずは現金、硬貨を触らせることから始めています。うちの子は0歳から証券口座を開設しているのですが、時折、口座を見せて言って聞かせています。また。電子マネーでピピっと支払えることはなんとなく分かってきているようなので、この電子マネーと実際の現金は『同じなんだよ』と伝えるようにしています」。肩肘張ることなく、日常生活の中で、取り入れられるところからスタートしている。
30代中盤で純資産1億円を達成した、投資センスの持ち主。会社員時代に購入したタワマン物件を高騰ブームで売り、不動産の売却益を投資に回して資産を爆増させた成功者だ。そんな投資のプロを母親に持っていれば、“正解ばかりの人生”で、子どもの頃から投資に苦労しないだろう。
子どもに投資のノウハウを教えるのか? 最後に聞いてみた。
「いや、教えるつもりはありません。これからの時代は、自分で考えて生き抜く力が求められます。常に正解や答えを教えられていると、自分で考えず、人から言われたことをうのみにする大人に育ってしまいます。子どもには、人生の小さい失敗を繰り返してほしいです。私は大人になっていくつもの失敗を繰り返してきましたが、大人になって大きな失敗をすると、立ち上がれなくなるケースも出てきます。あえて、投資のノウハウやテクニックは教えません。自分で考える子になってほしいと願っています」。
櫻井さん流の教育論。そこには、「失敗から自分で学ぶ」人生観が貫かれていた。
