「生活保護目的の外国人が日本に殺到」のデマ…実は受給者、割合ともに減少 専門家「実態を正しく把握して」
近年、外国人の生活保護受給が大きな議論を呼んでいる。ネット上では「外国人への生活保護支給は違法」「生活保護目当ての外国人が日本に殺到している」といったデマや臆測が多数出回っており、「日本人が納めた税金を食いつぶすな」「支援が必要なら自国へ帰れ」といった批判の声も少なくない。果たして、外国人への生活保護支給は妥当なのか。社会福祉士として生活困窮者への支援を行う一般社団法人「つくろい東京ファンド」の大澤優真さんに、外国人と生活保護を巡る議論の問題点について聞いた。

外国人への生活保護は違法? 最高裁の判決は「事実上の保護対象となり得る」
近年、外国人の生活保護受給が大きな議論を呼んでいる。ネット上では「外国人への生活保護支給は違法」「生活保護目当ての外国人が日本に殺到している」といったデマや臆測が多数出回っており、「日本人が納めた税金を食いつぶすな」「支援が必要なら自国へ帰れ」といった批判の声も少なくない。果たして、外国人への生活保護支給は妥当なのか。社会福祉士として生活困窮者への支援を行う一般社団法人「つくろい東京ファンド」の大澤優真さんに、外国人と生活保護を巡る議論の問題点について聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)
つくろい東京ファンドは2014年、東京都内の生活困窮者の支援活動を目的に設立。コロナ禍以降は外国人にも支援の手を広げ、夜回りやシェルターへの誘導といった活動を行っている。
「活動は日本人、外国人を問わず行っており、現在は約60室のシェルターを運営しています。こういった支援活動にかかわる前は、私自身、生活保護には不正受給などの良くないイメージを持っていましたが、実は不正受給は全体のわすか0.5%に過ぎず、保護を利用できるのに利用していなかったり、利用の仕方が分からずできない漏給者の方がはるかに多いのです。生活保護についての議論はあって然るべきですが、前提としてまずは実態を正しく把握することが大事。事実に基づかない情報により、差別や偏見が助長されている現状は問題だと感じます」
ネット上では近年、排外主義と生活保護バッシングが結びつき、外国人への生活保護に対する根拠のないデマやヘイトスピーチが盛んに繰り広げられている。「外国人への生活保護支給は違法」「憲法違反」といった主張もそのひとつだが、そもそも外国人に対する保護は法制上どのような扱いになっているのだろうか。
生活保護法では、生活保護の対象資格を「すべての国民」と定めており、外国人は保護の対象には含まれていない。一方で、1954年に厚生労働省が出した通知では、日本国籍を持たない外国人にも「一般国民に対する生活保護の決定実施の取扱に準じて(中略)必要と認める保護を行うこと」という記載があり、今日に至るまで、在留資格を持つ一部の外国人には、準用措置として保護費が支給される状況が続いている。
最高裁は2014年7月、「生活保護法が適用対象と定めた『国民』に永住外国人は含まれない」との判決を下しているが、この判決でも「行政庁の通達等に基づく行政措置により事実上の保護対象となり得る」としており、「外国人への生活保護は違法」とまでは言えないのが現状だ。
「対象となるのは、在留資格の中でも永住権を持つ者、定住者、日本人または永住者の配偶者などに限られており、技能実習生や観光客などの短期滞在者が保護を受けることはできません。制度上理解が難しい部分もありますが、準用措置とは保護を受ける権利はないものの、一方的な行政措置として保護されている状態のこと。最高裁でも『行政措置による保護が違法』との判断はついていません」
この他、「外国人の方が日本人よりも生活保護を受けやすい」「生活保護目的の外国人が日本に殺到している」といった真偽不明の情報も数多く存在する。大澤さんはこれらも「ヘイトスピーチを目的とした明確なデマ」だと指摘する。
「生活保護の適用も準用も、運用方法は原則同じ。国籍で優劣をつけられることはありません。外国人だと扶養照会ができないという声もありますが、扶養照会の結果保護が認められないケースはまれで、支援団体としては、実効性の伴わない扶養照会はそもそも廃止すべきだと思っています。生活保護目当ての外国人が殺到しているという事実もなく、統計上、在留外国人は増加の一途をたどっていますが、外国人の受給者はむしろ年々減っています(2013年からの11年間で被保護外国人数は約1万人減少、被保護者全体に占める外国人の割合は3.48%から3.25%に低下。厚生労働省・被保護者調査参照)。
税金を払っていないのになぜ保護する必要があるのかという意見も的外れです。外国人であっても、所得税や住民税、消費税は払っていますし、それを言い始めたら働くことのできない重度障がい者は保護しなくてもいいのかということになりかねない。そのロジックはあまりいいものではありません」
2010年には大阪市で、来日直後の中国人48人が生活保護を申請し大きな問題に
2010年には大阪市で、来日直後の中国人48人が生活保護を申請、うち26人に保護費が支給され、大きな問題となった。実際のところ、日本の生活保護が外国人によって“タダ乗り”される心配はないのだろうか。
「制度に明るい行政書士の方によると、大阪の事例はそもそも入管の不手際で、本来は入国できないはずの人たちが在留資格の審査をすり抜けてしまったことが問題。現在では生活保護目的での入国を防ぐ体制はより厳しいものになっており、困窮者はそもそも入国の段階で弾かれる場合がほとんどだそうです。制度を悪用したり、不正受給をしようとする人はいるかもしれませんが、それは日本人でも同じことです。外国人の場合はさらにその後の在留資格にも影響するため、強制送還となるリスクを負ってまで不正受給をしようとする人は少ないのではないでしょうか」
本来、各国の大使館には自国民保護の原則があり、外国人が在留先で困窮した場合には大使館が率先して保護すべきとの見方もある。より率直に「自国へ帰れ」という声も根強い。大澤さんも一定程度、自国民保護の原則には同調する一方で、現実には物理的に保護が難しい事情や、そこからこぼれ落ちてしまうケースも多数存在するという。
「大使館を頼ればいいという意見については、私もその通りだと思いますが、実際には逆に大使館から我々の方に面倒を見てくれと連絡が来ることも多々あります。国名は避けますが、欧州など先進国からの依頼もある。逆の立場では、日本大使館も海外で困窮した自国民の保護を積極的に行っているとは言い難く、この辺りは日本も諸外国も同じような状況だと思います。
『自国へ帰れ』という意見については、実際のところ日本政府から帰国を命じられた外国人のおよそ9割は帰国しています。問題は、帰国したくてもできない人たちがいること。そもそもの生きる権利、生存権は国籍関係なくすべての人にあって、現状、その権利は国という単位で保障されています。ただ、このシステムは万能ではなく、中にはそこから漏れ落ちる人も必ず出てくる。最たる例が難民です。実際問題、日本の生活保護で世界中の人を保護するわけにはいきませんが、自国でも保護を受けられない人や、帰る国すらない人々は、人道上の観点から、生活保護に限らず何らかの形で保護されるべきではないでしょうか」
大澤さんが実際に関わった事例としては、母国で政治的な迫害を受け日本に逃れてきたアフリカ出身の男性が、難民申請を却下され、在留資格をはく奪されて露頭に迷ったケースがあるという。
「難民は短期滞在などのビザで入国し入管で難民申請をすることで、特定活動として正規の在留が認められる場合がありますが、その後難民申請が却下されると在留資格がなくなり、そのまま非正規滞在者となってしまう。在留資格がないためハローワークに行っても仕事につけず、どうしようもなくなり困窮してしまうのです。
その男性は電気、水道、ガスが止まった部屋の玄関で手首を切って自殺未遂を起こし、廊下に血が流れたことで発見され病院に緊急搬送されましたが、治療費や入院費用が払えず、警察からも保護できないと見放され、自主退院してその日のうちに再度自殺を図りました。外国人の生活保護について、さまざまな意見があるのも分かりますし、議論もあってしかるべきです。それでも、目の前で困窮している人がいる以上、何らかの形で手を差し伸べるべきではないでしょうか」
外国人への生活保護に対する考え方は人によってさまざまだが、デマやヘイトスピーチに踊らされ差別や偏見が助長されることがあってはならない。法や運用を巡る歴史的背景、統計など、事実に基づいた冷静な議論が求められている。
