「今の日産は、魅力ある車がない」 経営危機に愛好家がぶっちゃけ 従業員の本音…新社長の「そこは期待」

日産自動車の経営不振を受け、日産車に長年乗ってきたオーナーたちは不安に駆られている。ここにきて、神奈川県内にある2工場、追浜(おっぱま)工場(横須賀市)と、子会社「日産車体」の湘南工場(平塚市)の閉鎖が検討されているとの報道が出たことで、衝撃が広がった。他にも、横浜市にある本社売却の検討など、報道が先行する形で“リストラ案”が取り沙汰される事態に。日産の今後を危ぶむ声が相次ぐ中で、「またか、という思い」「ここだけは残してほしい」。日産車を愛するオーナーや日産関連で働く従業員に、切なる本音を聞いた。

日産自動車の経営不振を受けオーナーたちは不安に駆られている【写真:写真AC】
日産自動車の経営不振を受けオーナーたちは不安に駆られている【写真:写真AC】

「俺は日産を愛してるんだよ」“日産応援団”オーナーたちの切なる心境

 日産自動車の経営不振を受け、日産車に長年乗ってきたオーナーたちは不安に駆られている。ここにきて、神奈川県内にある2工場、追浜(おっぱま)工場(横須賀市)と、子会社「日産車体」の湘南工場(平塚市)の閉鎖が検討されているとの報道が出たことで、衝撃が広がった。他にも、横浜市にある本社売却の検討など、報道が先行する形で“リストラ案”が取り沙汰される事態に。日産の今後を危ぶむ声が相次ぐ中で、「またか、という思い」「ここだけは残してほしい」。日産車を愛するオーナーや日産関連で働く従業員に、切なる本音を聞いた。

「俺は日産を愛してるんだよ。国内工場はこれからもずっと残すべき。部品も作ってもらいたいし、ずっと乗っていきたいんだ」

 日産を代表する世界的モデルのスカイラインGT-R。その貴重な旧車に30年以上乗ってきた男性は、あふれる思いをぶちまけた。

「やっぱり、(元CEOでらつ腕をふるったカルロス・)ゴーンが来てからダメになったんじゃないか。今の日産は、ノートかセレナぐらい? それでもデザインがねぇ……。それに、GT-Rの今後はどうなるんだろう。トヨタぐらいにデザインのいい車を作らないと。とにかく、なんとか頑張ってほしいんだよ」と語気を強めた。

 取材に応じた日産関連会社の男性従業員は「過去に村山工場の閉鎖があって、またか、という思い。同じ轍(てつ)を踏んでほしくないです」と顔をしかめる。スカイラインGT-R(PGC10)「発祥の地」として知られ、多くの名モデルが生み出された日産自動車村山工場(東京・武蔵村山市、立川市)。主力工場として生産を支えてきたが、当時経営トップを務め、「コストカッター」とも呼ばれたゴーン氏の決定で、2001年に閉鎖となった経緯がある。国内工場が再びなくなってしまうのではないかという大きな不安にさいなまれているという。

 とりわけ1961年に操業が始まった追浜工場は、「日産のマザー工場」の位置付け。同社公式サイトによると、総合研究所や追浜試験場などを含めると約3900人が働いている。歴史がある主要施設だけに、「ここだけは残してほしい」と切望する声が多く上がっている。

 男性従業員も同じ思いだ。「追浜にはテストコース(追浜試験場)があります。スポーツカーやレース車両の開発を担ってきた歴史があり、追浜は日本のモータースポーツが世界に羽ばたく礎となった、発祥の地と言っていいと思っています」と強調。クラシックカーの伝承への強い思いがあるといい、「もし追浜工場がなくなってしまうと、自動車大国と呼ばれる日本なのに、『文化を大事にしない国だ』と思われてしまうことになります。日本の自動車文化として残さないといけないです」と危機感を募らせる。

「プロパー出身で自動車のことをよく分かっているイバンさんはうまくできそうだなと思っています。ただ、経営センスは未知数」

「いや、もう信じられません。ショックですよ」

 60年代の日産旧車を大切に乗る男性オーナーは肩を落とす。神奈川県警の元警察官。追浜工場と湘南工場には特別な思い入れがあるという。

「追浜工場のテストコースは、私が白バイに乗っていた頃、(ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル=NISMO=初代社長を務めた故・)難波靖治社長には本当にお世話になりました。日産の皆さんが最高の整備環境を作ってくださって。難波社長はうちの上司たちよりも厳しく、鍛えていただきました。それに、フェアレディZもシルビアも、GT-Rもパトカーとして寄贈されたんですよ。日産とはつながりが深かった。なんで神奈川の2工場なの? 閉鎖になってしまうのは本当に嫌です」と、胸中を吐露する。

 車の愛好家として、日産が抱える課題を厳しく指摘。「悪口を言うわけではありませんが、今の日産は、魅力のある車がないでしょう。ぶっちゃけて言うと、他メーカーの軽自動車のほうがいいと思うこともあります。若い世代の車離れが言われている中で、若い子が欲しがるような、もっと魅力のある車を作ってほしいです。それに尽きます。高い車じゃなくて、もっと庶民が買えるような魅力のある車。そんな車を出していかないと。新しい経営陣にはしっかり考えてもらいたいです」と注文を付ける。

 今年4月に就任したイバン・エスピノーサ社長の下で、立て直しに奔走している日産。経営から退いた内田誠前社長らの高額退任報酬に批判が殺到しており、混乱は続いている。こうした中で、エスピノーサ新社長が打ち出す経営再建案に加えて、会社がどう生まれ変わるのか。多くの注目が集まっている。

 前出の男性従業員は「日産は素晴らしい設計の車があります。それなのにアピールが下手で、足りなかった。これまでの経営陣はそこがダメだったと思います。日産は仕事のための仕事を作るような官僚的な社風があります。削減したり、見直したりするべきなのは、そこなのではないでしょうか」。

 そのうえで、「日産車のよさや魅力を伝えられるというアピール面で、プロパー出身で自動車のことをよく分かっているイバンさんはうまくできそうだなと思っています。そこは期待しています。ただ、経営センスは未知数。どれだけバックアップできるか。経営陣が一体となって取り組んでほしいです」と、日産再生への願いを託した。

 日産ブランドの収集家の80代男性は「オーナーはみんな、日産の応援団。新車を買って乗っていこう。そう話し合っています」と祈るように話す。日産に人生を注げる人たちの声は、本社に届くのか。

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