「ここまでになるとは」 老舗の作業服店でまさかのインバウンド需要 ニッカポッカまで…売れまくるワケ

都内にある老舗の作業服・業務用ユニホーム販売店に、次々と来店するのは、外国人旅行者。夏場の建設現場で重宝されているファン付きウエアをはじめ、作業用の安全靴、ニッカポッカや調理用白衣が、次々と売れているというのだ。「想定以上です」。冷却、防水、強度といった高い機能性を誇る作業服に加え、帆前掛けや地下足袋といった「日本らしさ」を感じさせる服が、“爆売れ”になっている格好だ。都内で5店舗を展開し、にわかにインバウンド需要に沸いている「株式会社三光白衣」に、驚きの実情を聞いた。

インバウンド需要について語る株式会社三光白衣の臂幸宏社長【写真:ENCOUNT編集部】
インバウンド需要について語る株式会社三光白衣の臂幸宏社長【写真:ENCOUNT編集部】

東京都内で作業服・業務用ユニホーム店を展開 安全靴や調理白衣も

 都内にある老舗の作業服・業務用ユニホーム販売店に、次々と来店するのは、外国人旅行者。夏場の建設現場で重宝されているファン付きウエアをはじめ、作業用の安全靴、ニッカポッカや調理用白衣が、次々と売れているというのだ。「想定以上です」。冷却、防水、強度といった高い機能性を誇る作業服に加え、帆前掛けや地下足袋といった「日本らしさ」を感じさせる服が、“爆売れ”になっている格好だ。都内で5店舗を展開し、にわかにインバウンド需要に沸いている「株式会社三光白衣」に、驚きの実情を聞いた。(取材・文=吉原知也)

 平日から外国人旅行者でにぎわう東京・上野。5日間の旅行中という香港出身の若い男女が、同社の上野店を訪れると、すぐさまファン付きウエアのコーナーに向かった。スマホで写真撮影し、質感などを確認している。「建設現場で働く友達から、『買ってきて』と頼まれたんだ」。同店の担当者から英語で説明を受け、サイズを合わせて、人気メーカーのベストとファンのセットを購入した。「Googleで検索したらこの店が出てきたのよ。食べ物や観光を含めて日本旅行を存分に楽しんでいるわ」と、満足した笑顔を浮かべて店を後にした。

 客足は絶えない。中国から旅行に来たという男女は、デザインやサイズを入念に選んで、作業服の上着を購入。インドネシア・ジャカルタの男性7人組も来店し、ニッカポッカや米国発祥のワークウエアブランド「ディッキーズ」のジャケットなどを買っていった。

「コロナ禍が落ち着いた2022年後半から、インバウンド客の来店が増えてきました。ここまでになるとは、本当にびっくりです」。創業62年となる同社の臂(ひじ)幸宏社長は驚きの思いを語る。

 日本政府観光局(JNTO)の資料によると、2024年の年間訪日外客数は3686万9900人を記録し、過去最高を更新した。今年4月は390万8900人となり、単月として過去最高を記録。海外からの来日ブームは熱を帯び続けている。

 同社も大きな恩恵を受けている企業の一つだ。JR上野駅前で、浅草寺から歩いて約20分に立地する上野店では、店舗売り上げの30%がインバウンド客によるもの。新宿本店、渋谷店と続き、「全5店舗の売り上げの総計は、インバウンド客が約15%を占めていて、年間3000万円ほどの規模になっています」と説明する。

渋谷店ではオランダ人親子がお買い物【写真:株式会社三光白衣提供】
渋谷店ではオランダ人親子がお買い物【写真:株式会社三光白衣提供】

「冬場はオーストラリア人の方が圧倒的に買う商品があります」

 インバウンド向けで“主力”になっているのが、ファン付きウエアだ。日本のメーカー「バートル」(広島)のブランドが人気で、東南アジアの旅行客が買い漁っていく。建設関係の仕事に就く米国人旅行客が買い求めたこともあるといい、同店の販売担当者は「夏になるとファン付きウエアを着用している作業員の方をよく見かけると思いますが、外国の方々が『みんな着ている』と興味を持つようになるみたいです」と実感を語る。作業服に関して言うと、6Lや8Lといった大きなサイズを扱う専門店ならではの品ぞろえも利点になっており、ロシア人客が買って行った事例もあるそうだ。

 つま先部分に芯を入れて強度を高めた安全靴も人気商品。アシックスブランドは1万円台で販売しており、メキシコから来た3人組が安全靴4足や作業用パンツなど合計10万円分を買い上げたことも。サイズが合わずに購入はしなかったがマレーシアの日本車工場で働いている女性が安全靴を探すなど、高い注目度を見せているという。

「購入率の高い帆前掛けや地下足袋、手ぬぐいや甚平は、日本文化を感じるという理由からお土産需要が多いです。ニッカポッカは、アニメやSNSを通じて認知度が高まっているようで、『忍者スタイル』といったイメージで購入されています。また、冬場は南半球のオーストラリア人の方が圧倒的に買う商品があります。防水加工のウエアです。みんな『ウォータープルーフ(防水)』と言って探しに来ます。スキー場に行くために買っているようです。それに、昨冬はタイの旅行客も多かったです。温泉に入るサル『スノーモンキー』の長野観光がインバウンド客に人気と聞いています。水に強い防寒着の需要があると分析しています」と臂社長。

 また、浅草・かっぱ橋道具街の買い物から流れてくるケースも多く、料理用包丁を買った欧米系のシェフが、同社オリジナル商品で、すし職人向けの調理白衣を気に入り、「すしパーティーをする時に使える」と買っていったことも。同社では、冬はスノーモンキーの店頭ポップを出したり、春節の時期は龍やちょうちんの装飾を施したりするなど、海外客が目を引きやすい店づくりに工夫を凝らしている。

海外客にアピールするために店内レイアウトなどを工夫【写真:ENCOUNT編集部】
海外客にアピールするために店内レイアウトなどを工夫【写真:ENCOUNT編集部】

積極的な接客も奏功「とにかく話しかけることを心がけていきたい」

 海外客がこぞって来店する理由とは何か。同店で扱う作業用の上着は高くても7000円前後で、デザインもおしゃれに仕上がっており、普段着としても使える。臂社長は「ディッキーズなどの作業服は一般的に、カジュアル品よりも値段の割安感があるため、買いやすいのではないでしょうか」と分析する。さらに、「弊社で販売している日本の作業服は、素材や機能表示が細かく図で表現されているため、機能性が高いことを理解して納得して購入するケースが多いです。日本のきめ細やかなクオリティーが要因に挙げられると考えています」と強調する。同社は特段SEO対策に取り組んでいないが、上野店はGoogle検索からたどり着く海外客が少なくなく、意外なところで認知度が高まってきている傾向があるという。

 同社はSNSでの口コミ効果にも注目しており、SNS施策にも注力していく方針だ。オフィス向けの事務服の需要が下がっているなど、課題も出てきている。こうした中で、今後のインバウンド戦略は重要性を増している。臂社長は「日本人向けについては四季を追いかけた商品を提供していきます。猛暑は世界共通のテーマでもあるため、インバウンド需要には、年間を通してファン付きウエアや暑熱対策商品をそろえ、日本文化を感じる商品の強化を図っていきます。それに、積極的な接客が効果を出しているので、とにかく話しかけることを心がけていきたいです。観光業を含めて、今の日本では、インバウンド客はビジネスにおいて貴重な存在です。しっかり取り込んでいきたいです」と力を込めた。

次のページへ (2/2) 【写真】想像以上の爆売れに驚愕…店内の様子
1 2
あなたの“気になる”を教えてください