羽田美智子、37年の俳優業と店主の“二刀流”で得た学び…消えた加齢の恐怖「ゆっくりでいいんだ」

俳優・羽田美智子が、6月2日から東京・新橋演舞場で上演される熱海五郎一座公演『黄昏のリストランテ~復讐はラストオーダーのあとで~』に出演する。デビュー37年の芸能生活。今も第一線で活動しているが、セレクトショップ・羽田甚商店の6代目店主も務めている。俳優業の中で日本各地を訪れ、それぞれの地域の生産者や職人によるモノづくりを見てきた経験から、「美と健康」をテーマに自身が出会った“良いもの”を伝えている。そんな羽田が、食や素材へのこだわり、生産者との出会いから受けた影響などを語った。

デビューから37年を迎えた羽田美智子【写真:舛元清香】
デビューから37年を迎えた羽田美智子【写真:舛元清香】

江戸時代から続いた屋号『羽田甚』を継承し、6代目

 俳優・羽田美智子が、6月2日から東京・新橋演舞場で上演される熱海五郎一座公演『黄昏のリストランテ~復讐はラストオーダーのあとで~』に出演する。デビュー37年の芸能生活。今も第一線で活動しているが、セレクトショップ・羽田甚商店の6代目店主も務めている。俳優業の中で日本各地を訪れ、それぞれの地域の生産者や職人によるモノづくりを見てきた経験から、「美と健康」をテーマに自身が出会った“良いもの”を伝えている。そんな羽田が、食や素材へのこだわり、生産者との出会いから受けた影響などを語った。(取材・文=コティマム)

 羽田は今回、喜劇役者の三宅裕司が座長を務める熱海五郎一座に出演し、リストランテでおいしい料理を作る美しいシェフを演じる。自身は和食好きで、「朝食はご飯とみそ汁と、お魚やお肉を焼いたり煮たり。そこに副菜がちょっとあればいいぐらいの感じです。“旅館の朝食”みたいなのがすごく好き」と語った。

 その素材選びにもこだわり、羽田甚商店では羽田が厳選した雑穀米や玄米、しょうゆなどの調味料、お茶、甘味などの食料品のほか、自身がプロデュースしたアロマミストやスキンケアグッズなども取り扱っている。羽田甚商店は、羽田が生まれ育った実家の屋号が『羽田甚』だったことに由来。宮大工をしていた高祖父・羽田甚蔵の一文字をとり、慶応元年に掲げられた。その後、家業を宮大工から商売へと変え、羽田の父が5代目の羽田甚蔵を襲名。しかし、高齢に伴って2015年に閉店し、150年の歴史に幕を降ろした。羽田は俳優活動を通して出会った日本各地の“良いもの”を伝えるため、ネット上で羽田甚商店を新装開店し、屋号を継承した。
 
「羽田甚商店のきっかけにもなるのですが、体調が悪い時期があって、当時外食しようと都内のレストランを見回したら、ファーストフードが増えて家庭料理のお店がないと思ったんですね。その時は油っこいものを体が受けつけなくて……。『おみそ汁とご飯と煮物が食べられるお店があったらな』と思い、“普通の家庭料理”を食べられる機会が、逆に『ぜいたくになってきちゃったんだ』と思ったことがきっかけでした」

 和食離れが進む中で、羽田は「私と同じように“和食難民”がいるんじゃないか」とも思ったという。

「時間がない方にも、『調味料をそろえれば家庭料理も簡単に作れるよ』と伝えたくて。調味料もいろいろあるけど、『ひとまず、これだけそろえていれば安心だよ』と分かりやすく伝えたかった。お子さんがいる方も、与えるおやつひとつとっても『これを食べたらいいよ』と提案できたらいいなと思って。それが羽田甚商店のコンセプトです」

 自身の体調や“和食難民”経験から、買い物時の食材選びも気を遣うようになった。そして、「添加物などを気にかけて買い物をすると、おしょうゆやおみそ一つを選ぶのにも『こんなにいろいろなものが入っているんだ』とショックを受けました」と明かし、「そこからは原材料が『米、塩、こうじ』のような、シンプルなものを選ぶようになりました。羽田甚商店も、そういうものを集めたショップにしています」と語った。

俳優業と店主の二足のわらじで活躍する羽田美智子【写真:舛元清香】
俳優業と店主の二足のわらじで活躍する羽田美智子【写真:舛元清香】

生産者との出会いで変わった人生観

 俳優業と店主の二足のわらじ。2つの世界があるからこそ、バランスが取れることもあった。

「ドラマの撮影に入ると、3か月間は何もできなくなっちゃう。でも、それが終わると1か月ゆっくりできる時もあります。『その間に小豆島に行って生産者さんに会ってこよう』とスケジューリングして、会いに行っています。そこは楽しんでやっています」

 日本各地の生産者や職人に会うことで、考え方や価値観にも変化が。モノづくりと芸能の仕事との共通点も見つけたという。

「生産者さんは日々、いいものを作ろうとコツコツ努力なさっている。これだけ大掛かりで手のこんだものでも、消費者の皆さんに届く時には費用が高くならないように、ギリギリの値段設定をされている。そういう努力がすごく見えて、感銘を受けました。消費者だった時は、単純にその物に対して『高い』と感じてしまう立場でしたが、企業努力を知ってから文句が言えなくなりました。『こんな思いをして作っているのに、500円で買えるの? この値段で作り上げるのは大変なこと。すごい努力だな』と思うようになりました。これは芸能の世界ともつながるというか、感覚が似ています。芸能も経験や努力を積み上げて、稽古も重ねて、『最高の物をお届けしよう』と思ってやっていることにお金いただく。本当に“良いもの”を追求する精神が似ていると思います」

 さらに生産者たちとの出会いは、人としての考え方にも影響したという。しょうゆ生産者に出会い製造現場を見せてもらった時の体験を明かした。

「おしょうゆは圧搾(あっさく)する時に、1滴1滴、布の中から生まれてくるんですね。きれいな布からポタ、ポタと何度もろかする。『えっ? おしょうゆって1滴1滴生まれてくるんですか?』と聞いたら、『そうですよ。知りませんでしたか? 水道の蛇口をひねったらジャーって出てくると思いました?』とおっしゃって。本当に手間暇かけている。そして、発酵を急がせてはいけないんです。これは別のお酢屋さんもおっしゃっていたのだけど、お酢も発酵を急かすとツーンと酸っぱい匂いが出てしまう。『発酵をゆっくり自然に任せるとツーンとしない』と」

 生産者の言葉は、羽田の人生観も変えた。「人間も、雑味が取れるまでには時間がかかるってことなんですよね。日々生きている中で熟成されていく。だから私は、年を重ねることへの恐怖が全然なくなりました」と笑顔を見せた。

「以前は年を重ねることに対する抵抗や不安があったんです。でも、先ほどの発酵の話やいろいろな生産者さんのお話に触れている内に、『いや、熟成させたものは何よりも価値がある!』と思えてきました。人間は生きていくたびに熟成されていくから、発酵食品と一緒。急いで成長しようとすると、多分、角の立つ人間になっちゃう。『ゆっくりでいいんだ』と思えたことも、大きな学びでしたね」

 さまざまな経験をして56歳になった。“生き急ぐ必要はない”と感じた羽田は、この先も「ゆっくり」と進んでいく。

□羽田美智子 1968年9月24日、茨城県生まれ。88年にデビュー。94年に映画『RAMPO』のヒロイン役に抜てき。95年に同作で日本アカデミー賞新人俳優賞、エランドール賞新人賞を受賞。96年には『人でなしの恋』で優秀主演女優賞を受賞。テレビ朝日系『おかしな刑事』『警視庁捜査一課9係』『特捜9』シリーズ、東海テレビ『花嫁のれん』、NHK連続テレビ小説『ひよっこ』など数々のドラマに出演。俳優業のほか、自身が「本当にイイ!」と思ったものだけを紹介・販売するネット上のセレクトショップ『羽田甚商店』の店主も務めている。

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