斎藤元彦知事の「秘密漏えい指示疑惑」…幕引き狙いの「カラクリ」にごまかされてはいけない【西脇亨輔弁護士】

斎藤元彦知事の疑惑を告発する文書を作成した兵庫県の元西播磨県民局長の私的情報が漏えいした問題の第三者調査委員会(以下、第三者委)は、今月27日に報告書を発表した。当時の総務部長(以下、元総務部長)による秘密漏えいを認定するとともに、これが斎藤知事らの指示で行われた可能性を指摘。「知事の指示」に踏み込んだ報告書に激震が走る中、この問題を追い続けた元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は、事実の核心を突き詰めないままでの「幕引き」に危機感を示した。

西脇亨輔弁護士
西脇亨輔弁護士

第三者委が突き付けた「重要証拠」

 斎藤元彦知事の疑惑を告発する文書を作成した兵庫県の元西播磨県民局長の私的情報が漏えいした問題の第三者調査委員会(以下、第三者委)は、今月27日に報告書を発表した。当時の総務部長(以下、元総務部長)による秘密漏えいを認定するとともに、これが斎藤知事らの指示で行われた可能性を指摘。「知事の指示」に踏み込んだ報告書に激震が走る中、この問題を追い続けた元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は、事実の核心を突き詰めないままでの「幕引き」に危機感を示した。

 逃がしてはいけない。「斎藤知事が秘密漏えいを指示したのかどうか」という事実関係をあいまいにしたままで「幕引き」させてはいけない。

 斎藤知事の側近だった元総務部長が、斎藤知事らを告発した元県民局長の私的文書を県議らに見せて歩いたという疑惑を調べた第三者委の報告書は、元総務部長の秘密漏えいを認定しただけではなかった。この漏えいが「知事及び元副知事の指示のもとに行われた可能性が高い」とも結論付けたのだ。

 県職員が秘密を漏えいすることは地方公務員法の守秘義務違反という「犯罪」で、1年以下の懲役などに処される。この規定は本来「一般職」の職員を対象とするが、知事などの「特別職」でも、一般職の秘密漏えいをそそのかすなど「共犯」になる場合は処罰されるし、地方公務員法62条は職員による秘密漏えいを「命じた」者は誰でも罰せられるとも定めている

 このため「斎藤知事が秘密漏えいを指示したかどうか」は知事に犯罪が成立するか否かにかかわる大問題だ。そして、この点について、元総務部長は第三者委に対し、元県民局長の私的情報を県議らに伝えたと認めた上でこう明かしたのだ。

「知事及び副知事の指示によるものである」

 この元総務部長の供述には信用性があると考える。その理由は「質と量」だ。

 まず証人としての「質」を考えると、元総務部長は斎藤知事に「不利なウソ」を証言する理由がないはずの人物だ。元総務部長は、斎藤知事と出会った宮城県にちなんで「牛タン倶楽部」と呼ばれる側近グループの一人なので、斎藤知事に「有利なウソ」を述べて知事をかばう動機はあるかもしれないが、逆にわざわざ斎藤知事に「不利なウソ」をつく理由は考えにくい。とすると、元総務部長が斎藤知事にとって「不利」な証言をした場合は、それはウソではなく真実の可能性が高いことになる。そして、今回の「知事の指示があった」という供述は、知事にとって違法の指摘を受けかねない「不利」なもの。それをあえて明かした側近・元総務部長の供述は、信用性がある「質」の高いものといえる。

 さらに元総務部長の供述は、同じような証言をする人が他にもおり「量」にも味方されている。第三者委の報告書によると、斎藤知事から元総務部長への指示の現場にいたというD氏は、斎藤知事が「(元県民局長の)私的情報があったということも含めて、根回しというか議会の執行部に知らせておいたらいいんじゃないか」という趣旨の発言をしたと証言した。片山元副知事も元総務部長への指示を認めるなど、元総務部長やD氏と整合する供述をした。そして、元総務部長、D氏、片山元副知事も斎藤知事の側近「牛タン倶楽部」のメンバーとされる。知事に「不利なウソ」をつく理由がない3人の供述が整合し、互いに信用性を高めているのだ。

 こうした「質と量」に支えられた元総務部長の供述に対して、斎藤知事は「指示していない」と繰り返すのみ。そして、斎藤知事には、自分の責任を免れるために「指示していない」と言い張る「動機」も考えられる。とすると、斎藤知事の一人の弁明よりも、元総務部長ら3人の供述に信用性の軍配が上がるのが自然だ。仮にこの件が裁判になっても、こうした考えで「知事の指示があった」という供述が信用されるだろう。だからこそ、第三者委の報告書は、斎藤知事の供述を「採用することが困難というべき」として信用せず、秘密漏えいが知事の指示で可能性が高いと判断したのだと思う。

「混乱の核心」…何も終わってはいない

 しかし、この第三者委の報告書を受けてもなお、斎藤知事は会見で「指示はしていない」と繰り返し、県の人事当局も「知事の指示があったということを認定できるものではない」と知事に同調するような見解を示した。だが、もしそうなら、元総務部長は独断で秘密漏えいしたことになり、処分は重くなるはず。しかし、県当局は元総務部長を停職3か月という「軽い」処分にとどめ、その理由をこう述べた。

「職員本人にしてみれば、そういう指示があったと信じている状況にあった」

 この「指示があったと信じる状況」とは一体何なのか。斎藤知事の言動をはじめ詳細はまったく説明されておらず、不明だ。そして「知事の指示」をめぐる真実が突き詰められないまま、斎藤知事は「指示していない」として自身の行為は否定し、一方で元総務部長については「指示を信じた」として処分を軽くするという「奇妙なカラクリ」がまかり通っている。

 だが、ごまかされてはならない。

「知事の指示」があったのか、なかったのか。真実はそのどちらかのはずだ。知事の側近だった3人の「指示があった」という趣旨の供述という重要証拠もある。それなのに「知事の指示」をあいまいにしたまま元総務部長の「軽い」処分と知事の「給与カット」という方針が早々に発表されると、今月28日の会見で斎藤知事はこう述べた。

「県としての対応については『一応、終わった』という形には考えてますね」

 何も終わってはいない。この内部告発者をめぐる秘密漏えい問題は、兵庫県の混乱の核心ともいえる疑惑だ。その実態を県が自ら解明しないなら刑事告発によって司法の手に委ねるしかない。しかし、どのような方法を用いても、事実があいまいなままで放置してはいけない。それだけの重みが、この問題にはあるはずだ。

□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ) 1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうまワイド』『ワイド!スクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いた。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。昨年4月末には、YouTube『西脇亨輔チャンネル』を開設した。

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