「メディアの必要性がなくなった」の真意、青木真也が連載1年で感じた潮流「ジャンクなものが必要とされる世の中」【青木が斬る】
2003年のプロデビュー以来、日本総合格闘技界のトップを走り続けてきた青木真也(41)。複数の書籍も出版し、文筆家としての顔も持つ。また自ら「note」でも発信をし続け、青木の“考え方”へのファンも多い。ENCOUNTではそんな青木が格闘技の枠に捉われず、さまざまなトピックスについて持論を語る連載「青木が斬る」が昨年5月にスタートした。今回は3月に大きな試合を終えた今と、1年たった連載を振り返ってもらった。

連載「青木が斬る」vol.9
2003年のプロデビュー以来、日本総合格闘技界のトップを走り続けてきた青木真也(41)。複数の書籍も出版し、文筆家としての顔も持つ。また自ら「note」でも発信をし続け、青木の“考え方”へのファンも多い。ENCOUNTではそんな青木が格闘技の枠に捉われず、さまざまなトピックスについて持論を語る連載「青木が斬る」が昨年5月にスタートした。今回は3月に大きな試合を終えた今と、1年たった連載を振り返ってもらった。(取材・文=島田将斗)
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今年3月の秒殺一本劇から2か月がたつ。終了後から現在まで青木の今後についてさまざまな声が聞こえてきたが現在は“自由”の身であるという。
「実質的にONEチャンピオンシップとの契約は終わる。独占交渉期間があるにしても、6月のグラップリングマッチは相手のケガでなくなったので何があっても断れるんですよ。その断れる状況がすごく大事。いままでは契約期間中だったから、断ると契約が延びる状態だった。だからいまは自由なんですよ」
試合後はプロレス大会に出場しながら、楽しみにしていた相手とのグラップリング戦に備えて練習してきた。しかし、まさかの消滅。肌を合わせたいと思っていただけにがっかりはしたが、試合がなくなった現状にも満足はしている。
「めちゃくちゃスッキリしてるし気が楽。好きな時に練習してって生活だから超楽ですよね。急に6月の試合がなくなったので『ここからどうしようか?』って感じ。『やることないなぁ』って。時間がつぶれないから『階段走りに行くか』とか。やることがねぇんですよ、それが大事」
これまで伝えてきたとおり、青木は現在、東京と静岡の二拠点生活を送っている。仕事は東京で週の前半(あるいは後半)にまとめ、静岡ではのんびりと時間が流れる生活。要するにこれまでよりも「暇」が増えた。
「案外ね、暇は楽しいですよね。こんなにいい生活はない。こっち(東京)来た時に忙しかったりするけど、向こう(静岡)では朝起きて走って、ちょっと用事して、帰りにパン屋寄って食べて、またボケーっとして散歩して1日が終わり。試合がなくなったら、『じゃあその期間どこか行こうか』って航空券探すみたいな」
フライトにかかるストレスを考えつつ、地方の惹かれる場所や知人の元を訪れる。競争のサイクルから抜け、若いころには考えられなかったような生活。「すごいのんびりしてる、それでいいんだよ」と穏やかな顔に。「仕事もやる気になればできる。ただ、もう自分でやりたいことしかやらないですね」と続けた。
格闘技の試合はいまは求めていない。試合前には、楽しいとまでは行かなくとも試合に向かう過程が好きだと明かしていた。時間が開いたいま、そのときとはまた心境が違うようだ。
「独占交渉期間の契約があるうちはONEと付き合うし、それがなくなったら(ほかでも)話は聞く。ですけど、すごくやりたい気持ちはあまりない。“暇だから”やってもいいと思うけど。強くなるとか何かを成しとげたいみたいなモチベーションで試合をしようとは思ってないですよね」
「面白いものを作るからみんな見たくなっちゃうのは仕方がない」とファンへ理解を示すも「付き合って、お付き合いしてどこまでやるんだろうって」と本音を吐露した。
RIZIN大会中の生配信が話題に
“やりたいこと”と言えばYouTubeチャンネルだ。今年2月に開設し170本以上のコンテンツを投稿してきた。決して大衆向けではないが、格闘技系YouTubeでは一線を画し青木しか言えない、青木だからこそ言える発言でここでしか見られないものを視聴者に提供している。
「自分がやりたいこと、思ったことを全部あげる(投稿する)からちょうどいいんですよ。解説とかオフィシャルで文字を書くとかそういう仕事あるじゃん? それは自分はなくていいかなと思っちゃう。そうではなくて俺はしゃべりたいことしゃべりたいって感じですね」
RIZIN大会中の生配信では的確な解説とともに、青木だからこそ知る小噺も飛び出す。Super Chat機能(スパチャ=投げ銭)が届けば、急に踊りだすなどファンとの交流も楽しんでいる。「大きくもうからなくてもいいから、それなりに成り立つみたいな感じでやっていけばいいかなと思うんです。やり続けてしばらく遊んでおけばいいし」と今後を描いていた。
そして、昨年5月から始まったこの連載も今回で1年たつ。ウェブメディアで連載することでメディアの潮流が読めたと振り返った。
「メディアってもう変わってきたなと。ある程度の腰を据えた記事とかコンテンツは“本”レベルの需要しかない。その間のものが抜け落ちてて、まさしくこのぐらいの記事とか、“コーヒーのちょっとしたお供に”とか“通勤のお供に”的な記事がほぼなくなっていて、もっとジャンクなものが必要とされる世の中になってきたなというのは感じましたね」
さらに「メディアの必要性はなくなった気がしますね。いろいろ型を変えたり、試行錯誤は必要だと思うが、より戻しになるのかガタガタと崩れてしまうのか、まだ読めていないですね。メディアの潮流がすごい見えた。ある種の客への絶望でもあるかもしれない」と続けた。
力を入れた記事や学びのある記事イコール読まれる記事では全くない。「この連載に限ったことではなくて、YouTubeもそうなんだけど、『いいものを作った』ってものが見られないんですよ」と青木も理解を示していた。
筆者はこの連載の読まれていない回があると苦しい気持ちになっていたが、青木は“逆”だという。
「自分が作ったもの、面白いと思ってるものがそんなにはまらなくても、自分はそれがいいものだと思ってるから、見られなくてもそれが気持ちいいんだよね。むしろハマっていないことに高揚感を覚えちゃう感じはあるかな。
YouTubeで飯伏幸太としゃべった回があるんだけど、あれは自分としては全部やってきたなかで一番面白かった。作った作品としても。飯伏を引っ張った俺もそうだし、飯伏も面白かった。でも再生回数ベースで見ると上の方にいないんですよ。むしろ見られてないんだけど、それが気持ち良かったっすよねぇ」
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「『こんないいもの作ったじゃん』っていうやった感があるんですよ」と青木は言う。見ようによっては自己満足かもしれない。メディアとしてはより反響のあるものを発信しなければ、収益にはつながらない。一方でメディアが乱立するいま、青木の言葉を借りれば「ジャンキー」なものではなく、他とは違うものを発信するのも大切だと改めて気づかされた。
□青木真也(あおき・しんや)1983年5月9日、静岡県生まれ。第8代修斗世界ミドル級王者、第2代DREAMライト級王者、第2代、6代ONEライト級王者。小学生時に柔道を始め、2002年には全日本ジュニア強化指定選手に。早稲田大在学中に総合格闘家に転向し03年にはDEEPでプロデビューした。その後は修斗、PRIDE、DREAMで活躍し、12年から現在までONEチャンピオンシップを主戦場にしている。これまでのMMA戦績は59戦48勝11敗。14年にはプロレスラーデビューもしている。文筆家としても活動しており『人間白帯 青木真也が嫌われる理由』(幻冬舎)、『空気を読んではいけない』(幻冬舎)など多数出版。メディアプラットフォーム「note」も好評で約5万人のフォロワーを抱えている。
