万博ユスリカ大量発生は「起こるべくして起こった」 夢洲で失われた貴重な生態系「万博推進が最優先」

開催中の大阪・関西万博でハエの一種、ユスリカが大量発生して大問題となっている。日本国際博覧会協会は対策本部を設置し、本格的な対応に乗り出したが、ネット上では「虫嫌いなので無理です」との声が上がるなど、影響は少なくない。一方で、この状況を予期し、関係各所に事前に報告していた団体がある。もともと鳥たちの貴重な生態系がある場所で、それを守ろうとの思いから環境保全の提言を行ってきたものの、万博推進に押し切られたという経緯を聞いた。

大阪・関西万博の様子【写真:ENCOUNT編集部】
大阪・関西万博の様子【写真:ENCOUNT編集部】

日本有数の生態系が…ユスリカ大量発生の原因

 開催中の大阪・関西万博でハエの一種、ユスリカが大量発生して大問題となっている。日本国際博覧会協会は対策本部を設置し、本格的な対応に乗り出したが、ネット上では「虫嫌いなので無理です」との声が上がるなど、影響は少なくない。一方で、この状況を予期し、関係各所に事前に報告していた団体がある。もともと鳥たちの貴重な生態系がある場所で、それを守ろうとの思いから環境保全の提言を行ってきたものの、万博推進に押し切られたという経緯を聞いた。(取材・文=水沼一夫)

「もともとユスリカがいたところですのでね、そこへ皆さんが行って、『ユスリカに襲われる』というふうにおっしゃっていますけども、ユスリカの中に突入しておられるので、周りをブンブンとユスリカが飛び回るのは当たり前と言えば当たり前です。起こるべくして起こったことだな、という感覚ですね」

 こう語るのは、公益社団法人大阪自然環境保全協会の担当者だ。一連のユスリカ騒動に驚きはなく、状況を冷静に受け止めている。

 万博の工事が始まる前に、人工島・夢洲(ゆめしま)の調査を実施。

「ユスリカは従来から発生していて、たまたまそこに誰も来ていなかったので、ニュースネタにもならなかった。鳥が一番増えた部分を全部すくい取るような感じで、ある一定の限界で抑え込まれてきたのが、今回そういった生物がいないという状況なので、大量発生という形にまで数が増えてしまったという見方をしております」と原因について語った。

 夢洲は絶滅危惧種の鳥たちが何種類も飛来する楽園だった。

 その様子は、大阪自然環境保全協会が公式Xに投稿した写真から分かる。「万博工事でヨシ原や水辺が失われる前の夢洲」では、湿地帯を中心に鳥類のほか、カメ、ヤゴ、ゲンゴロウ、オタマジャクシやカエルなど多様な生物が暮らしていた。「今回のユスリカ大発生は、生態系のバランスの崩れが一因と思われます」と、説明を加えている。

「大阪だけではなくて、日本全体でも有数の貴重さだったと考えています」

 鳥たちを引きつけていたのは、エサとなるユスリカが豊富なことだった。

「私どもが調査に入り始めたのは2019年です。最初コアジサシという鳥がおりまして、砂の草があんまり生えてないところにいきなり卵を産むという面白い性質の鳥なんです。絶滅危惧II類で、非常に重要な鳥だと指定されておるのですが、これが大量に群れになって卵を生んでいる状況というのを見つけました」

 珍しい鳥はほかにもいた。

「例えば、ツクシガモ(絶滅危惧II類)。従来、筑紫の、佐賀のほうに特に多かった鳥なんですが、夢洲のほうへ来て卵を産んだりということもありましたし、100羽ぐらい群れになっていたこともあります。また、ヘラシギ(絶滅危惧ⅠA類)という世界的にも有名な貴重な数少ない鳥と、ヘラサギというよく似た名前の鳥が、両方とも来てたりということで、環境省でも大切な鳥類として指定しているものが何種類もいたという場所でした」

 ところが、万博会場の建設で、環境は大きく変わる。

「非常にシンプルに言いますと、完全になくなってしまったということです。夢洲は1区、2区、3区と区分けされていて、2区で万博が行われています。(大屋根)リングの外側にもずっと水面が広がっていまして、一番南東のほうには従来、広いヨシ原があったんですけれども、その広いヨシ原も全部なくされてしまいました。ですので、従来あったものがもうゼロになっていると見ています」

「万博推進が最優先」 報告書は「影響なし」と結論

 大阪自然環境保全協会は調査結果を万博に関係する各所に報告し、生態系を守るべく環境の保全を訴えた。

「守ってほしいですし、いろんな対策も考えてもらいたいし、単に守るだけではもう大阪近辺ではダメですので、むしろ自然を復元する、あるいは作るというようなスタンスでやってもらいたいということで、何度も申し入れや協議をやってきました。残念ながら、万博推進が最優先ということで、私たちの意見というのは、聞くは聞きましたけれども、実現はしないという状況に終わりました」

 博覧会協会や大阪市、大阪府、港湾局や環境省まで当たった。

「アセスメント(評価)の報告書は影響はない、ということで結論づけています。例えば鳥は(大阪南港)野鳥園のほうへ移動するから影響がないとか、あるいは近傍の緑地でエサを取れるから影響はないとか、全項目にわたって影響がないというふうに書かれている。それに基づいて、審議会とかそういった方面でも、特段の影響はないので開発してよろしいという形で結論づけていきました」

 しかし、鳥たちが消えたことで、ユスリカの繁殖を止めるものはいなくなった。

「あそこは大きな水面、それから埋め立地の干潟のような形をした岸辺がありました。鳥たちがいっぱい歩き回って、発生してきたユスリカですとか、それ以外の昆虫類とか、あるいは魚なんかも食べておったんですが、それがもうみんな寄りつけない状態になっていますので、食べられることなしで親になっていくという状況が今あると考えています」

 大阪府の吉村洋文知事は殺虫剤大手「アース製薬」に協力を要請。大屋根リング周辺を中心に、ユスリカの発生を抑制するような薬剤や殺虫剤、スプレーなどを使い封じ込めようとしている。

 ただ、その効果については、懐疑的にみている。

「大して効果がないんじゃないかと思っています。今、薬をまくという話が出ているのは、円形の内側の部分と、それから円形の上の植栽部分ですね。ユスリカが本当に大量発生しているのは、円形の外側の水面の割と浅いところと考えております。そうすると、面積比でいっても圧倒的に外側のほうが広い場所ですので、現実にはあまり効果がないんじゃないかなという見方をしております」

 対策によって多少抑制することができても、一網打尽に駆除することは困難との見方を示した。

喪失した繁殖地 渡り鳥が降りる場所を回復していきたい

 万博は閉会した後は、すみやかな環境の回復を願う。

「場所的には、淀川を出た一番先のところ。例えば堺とか、南側には大きな大きな干潟があったわけです。そこには貝とか、ユスリカとか、いろんな生物が大量に発生していた。そこへ渡り鳥がエサ場として、あるいは休み場として、大量に飛んできていたわけなんです。そういう長い、人間の歴史の時間帯を超えた非常に長い期間、鳥がずっと行ったり来たりしていた。そこを埋立地にしたんですけれども、そのために渡り鳥のやってくる場所がなくなってしまいました。だから降りる、あるいは繁殖できる場所を回復していきたいというのが私たちの思いです。干潟を回復という話もありますし、陸上であっても、池や水たまりをうまく使うことによって、生態系を作り直していけるということはありますので、そういったこともいろいろ方法として考えていっていただけたらと思っています」と締めくくった。

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