「なぜうちの子に傘をささずに帰らせたのですか」 理不尽な保護者に困惑…教頭の対応が目からウロコ

小学生の息子を降雨の中、傘を差さずに帰宅させたとして職員室に怒鳴り込んできた保護者に対して、担任が対応に苦労していたところ、教頭が取った行動に称賛の声が上がっている。当時、担任だった元教師のこうめい|親育て先生(@yumenochikara39)さんに詳しい話を聞いた。

子どもの傘を巡ってトラブルに(写真はイメージ)【写真:写真AC】
子どもの傘を巡ってトラブルに(写真はイメージ)【写真:写真AC】

「謝罪してもらうまで私は絶対に許しませんよ」

 小学生の息子を降雨の中、傘を差さずに帰宅させたとして職員室に怒鳴り込んできた保護者に対して、担任が対応に苦労していたところ、教頭が取った行動に称賛の声が上がっている。当時、担任だった元教師のこうめい|親育て先生(@yumenochikara39)さんに詳しい話を聞いた。

「なぜ雨が降っているのにうちの子に傘をささずに帰らせたのですか 風邪をひいたら責任を取ってくれるんですか?」

 こうめい先生が5月16日にXに投稿したのは、小学校3年生の担任をしていた時に経験したエピソードだった。

「ある保護者が職員室に怒鳴り込んできた」

 状況から伝わるただならぬ様子。怒髪天を突く保護者は、息子への学校の対応に不満をぶちまけた。

 こうめい先生は、心の中で叫んだ。

「昼から雨の予報なんだから傘を持たせてくれ!!」

 しかし、その保護者はこう主張したという。

「息子は先生に傘を忘れたと言ったそうじゃないですか。そのまま帰らせるなんて信じられません。だいたい普通に考えたらわかると思うのですが。これだから子どもを持ったことがない人は親や子どもの気持ちが分からないんですよ」

 強い言葉に、こうめい先生も引けなくなった。

「確かに当時僕は独身で子どもをもった経験はなかった。けれども子どもの気持ちや大切な子を持つ親の気持ちを可能な限り考える努力はしてきたつもりだった」

 そして、言った。

「私は親になった経験はないですが、親の気持ちに寄り添う努力はしているつもりです。それに子どもたちには忘れ物や何か問題が起こったときに自分たちで考えて行動するように指導しています。今回○○君は傘を忘れたようだったのでどうするかを聞いたら走って帰ると自分で決めました。私は彼が自分で決めたことだったのでそれ以上は何も言っていません」

 保護者は言い返されたと感じたのか、さらに興奮。

「だいたい先生は声が大きいんですよね。そんなふうに威圧的に言われると子どもたちも萎縮します。だからうちの子も何も言えなくなったんじゃないですか? とにかく今回のことをちゃんと謝罪してもらうまで私は絶対に許しませんよ」

 けんか腰の保護者は収まる気配がなく、こうめい先生は困惑した。

 だが、ここで思わぬ展開が訪れる。保護者とのやり取りを心配した教頭が、割って入ってきた。

「お母さん、お子様が雨に濡れて帰ってきたことにとても心配されたのですね。確かに子どもが風邪をひくといろいろと予定が崩れるので大変ですよね。その気持ちはよくわかります」

 優しい語り口に、緊張した場の空気が変わった。

「保護者の表情が一瞬で緩んだ」とこうめい先生は驚く。

「そうなんですよ。うちの子は風邪をひくと長引くので大変で。仕事もそんなに休めないじゃないですか」。保護者は理解者が現れたことに安堵(あんど)し、振り上げた拳を下ろし始めた。

 そして教頭は続けた。

モンスター親に悩まされる学校は多い(写真はイメージ)【写真:写真AC】
モンスター親に悩まされる学校は多い(写真はイメージ)【写真:写真AC】

モンスターペアレントに苦しめられている教員も多い

「本当に毎日お子様のことやお仕事など忙しくされて○○君にもきっとそれは伝わっているのでしょうね。この間、担任の彼(僕のことだ)もこう話しておりました。○○君はすごく優しいし自分で決めたことに芯を持っていてすごいと(たぶん通知表の所見欄に記入したこと)。お母様の愛情と彼の指導が◯◯君のそんな姿につながっているのでしょうね。ぜひ傘のことも◯◯君なら持っていくかどうかも自分で考えて決めることができるはずです。次からはお母様の方で一声かけて送り出してあげてくれませんか?」

 保護者の表情から険しさが消え、笑顔も見えるようになった。

「はいそうします。こうめい先生すみませんでした」

 保護者の口からはおのずと謝罪の言葉も飛び出していた。

「僕は、心の底から驚いた。教頭は全員分の通知表のチェックをするので確かに子どもの頑張りの様子を記載したものに目を通している。小さな学校とはいえその内容を覚えて子どもの姿として保護者に伝えたのだ。それにまず保護者の気持ちを受け止めることで話を聞いてもらう信頼関係を一瞬にして作り上げたのだ。僕はこの教頭の姿を見て僕もこうなりたいと心の底から思った」

 その後、こうめい先生は子どもや保護者への接し方を改め、教頭が取った行動を模範に、まずは相手を受け止め、認める努力をした。

 すると、学年の最後にこの保護者から声をかけられた。

「こうめい先生のクラスで本当によかったです。ありがとうございます」

 こうめい先生は、教員を退職した後、学習塾を運営。現在は在宅育児をしながら、オンラインフリースクールで働いている。教育一筋20年という専門家だ。

 当時の状況について改めて聞くと、「学校には貸し傘が置いてあります。そしてそれを借りるかどうかを子どもたちが決めることができるのですが、今回は雨も小雨だったので子どもは借りずに帰りました。ただ、その後、雨がひどくなったのでそれで保護者が心配したという感じです」と説明。

 このタイミングで投稿をした理由については、「この時期、教員もゴールデンウイークが明けてしんどくなる時期だからという意図はあります。モンスターペアレントに苦しめられている方も多いと思うのでこういった投稿をさせていただきました」と話した。

担任以外の第三者が動くことの意味

 教師の数が不足している一方で、モンスター親は問題化している。心を病んで休職する教員も後を絶たない。

 こうめい先生は解決策の一助にしてほしいと願う。

「一つ考えてもらいたいことなのですが、モンスターペアレントと言われる人たちにも根底には子どもを思う心があるということです。ここを無視して理不尽なクレームと流してしまうと今後、その人は先生の敵として攻撃をしてくることになってしまいます。とはいえ本当に理不尽なものもあるので取捨選択をして担任以外の第三者が見極め動くことも必要だと感じます。この教頭のように不安な気持ちの根本にある部分を引き出し、それを一緒に正しい方向で解決していこうと寄り添うことで味方にしていくことが可能です。

 ただ、投稿へのコメントでもありましたが、当事者同士だとどうしても感情の矛先が相手に向いているので受け止めが難しいことが多いです。だからこそ、この教頭のように第三者がしっかりと受け止め、担任も保護者も学校も向かう方向は同じだということを伝えていくことが大事だと思います。子どもに幸せになってほしいという思いはみんな同じなので。この教頭のように向かうべきベクトルをそろえてあげる調整役のような人が必要なのだと思います。ベテランや管理職がこういったスキルを身につけていくことで若手の先生もやりやすくなる。この初動を間違えると、どんどん保護者は教員を攻撃していくようになるので問題が大きくなり、教員の休職や教員のなり手不足へとつながってしまうなと」

 モンスター親と決めつけ、敬遠するのは簡単かもしれない。しかし、それでは問題ある生徒を放置するのと同じだ。投稿には、「本当に素晴らしい話で、最後まで見ると自然と涙が込み上げてきました」「やっぱり相手の立場を考えて共感することって大事ですね、小さな火種でも事によっては大事になりますから」「教頭先生のすごさを認め、自分に取り込もうと努力なさったこの先生も素晴らしいなぁ」「そんなに大事な子どもなら、毎朝、天気予報確認して、傘を持たせればいい」「教員志望がなぜ減少するのかがよくわかるエピソード」など多くの声が寄せられ、教頭の対応に称賛が集まっていた。

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