温水洋一、大地真央と2019年の舞台以来の共演も「えっ…大地さん…?」と思った理由

俳優・温水洋一が、大地真央の初主演映画『ゴッドマザー~コシノアヤコの生涯~』(5月23日公開、曽根剛監督)で重要な役を務めている。本作は、激動の昭和・平成を駆け抜けた伝説のファッションデザイナー、コシノアヤコの生涯を描くもので、主人公アヤコの臨終に立ち会う天使役を演じた。

『ゴッドマザー~コシノアヤコの生涯~』で天使役を演じる温水洋一【写真:増田美咲】
『ゴッドマザー~コシノアヤコの生涯~』で天使役を演じる温水洋一【写真:増田美咲】

『ゴッドマザー~コシノアヤコの生涯~』で重要な天使役

 俳優・温水洋一が、大地真央の初主演映画『ゴッドマザー~コシノアヤコの生涯~』(5月23日公開、曽根剛監督)で重要な役を務めている。本作は、激動の昭和・平成を駆け抜けた伝説のファッションデザイナー、コシノアヤコの生涯を描くもので、主人公アヤコの臨終に立ち会う天使役を演じた。(取材・文=平辻哲也)

『ゴッドマザー』はユニークな作品だ。尾野真千子主演の連続テレビ小説『カーネーション』(2011年)のモデルにもなったコシノアヤコの生涯を117分で描き、舞台歴50年を超える大地が15歳の女学校時代から晩年の92歳まで1人で演じきる。

「最初にお話をいただいた時、コシノアヤコさんの物語というだけで興味がわきました。朝ドラの主人公になるような方で、その娘さんたち三姉妹もまた個性が強くて。この人の人生を描くなら、そりゃ面白くなるに決まってると」

 温水の役はアヤコとともに生涯を振り返る天使役。脚本を読み進めるうちに、役の意味と重みを徐々に感じていったという。単なるファンタジー的存在だけではない。その人生を、最期の瞬間まで見届ける案内人なのだ。

「観ているお客さんと一緒に、117分かけてこの人の人生を見届けて、最後に『さあ、どうしますか?』と問いかけるような存在。『この人は天国に行くのか、それとも…』って。結末をはっきり示さない。観る人がそれぞれに答えを持って帰る。とにかく脚本がすてきでした」

 天使のセリフに、「この人生を面白いと思った人なんだ」というものがある。温水はそこに、本作がただの伝記ではないことを見出していた。

「コシノアヤコさんは波乱万丈で、自分にまっすぐに生きた人。時には娘たちの功績を自分の手柄のように見せかけたり、不倫したり、親子関係もぶつかったり……。でも、信念を曲げないって、そういうことなんですよね」

 面白い人生とは、清く正しく真面目な道だけではない。時に矛盾を抱え、人を傷つけ、自分を貫くこと。それすらも含めて人間であり、そしてそれを「面白い」と受け止められるかどうかが、この映画の問いになっている。

 撮影で最も印象に残っているのは病室でのシーンという。

「アヤコさんが臨終を迎え、そのベッドのそばで2人きりの世界になる場面は、とても緊張感がありました。照明も、演出も、きっと最小限のものになるだろうと想像できたので、撮影の直前はすごく身が引き締まる思いで、セリフにも気持ちを込めました」

大地真央との共演は2019年ぶり。驚きの再会になったという【写真:増田美咲】
大地真央との共演は2019年ぶり。驚きの再会になったという【写真:増田美咲】

大地真央から受け取った「ジン」とした言葉

 実は大地と温水は、2019年に明治座の舞台『ふるあめりかに袖はぬらさじ』でも共演している。「お久しぶりです」と言葉を交わすのは久しぶり…のはずだったが、今回は少し違った。

「最初に再会したのが、もう90歳の特殊メイクをされた大地さんだったんです。だから『お久しぶり』というよりも、『えっ…大地さん…?』って。でも、撮影が終わって帰る時に、2人で写真を撮ったんです。その時の大地さんは『私は旅立つ時は50代の自分でいたいから』って言って、すごく素敵な洋服を着てらっしゃった。その時に『温水さんが天使をやってくれて、本当によかった』とおっしゃっていただいて。とてもうれしくて、ジンとしました」

 天使という存在は、時に誰にも見えず、時に誰か1人にだけ見える。「演じる上では面白い存在」と語る温水だが、それだけに“どう見せるか”には繊細な工夫が必要だった。

「舞台でも幽霊とか、見えない存在はよくやってきましたけど、今回はよりファンタジーに寄っている。でもリアルさもある。“現実の延長線上の天使”という感じです。本当にファンタジーとしても面白くて、ちょっとユーモラスで、それでいてぐっと来るところもある。まだ全部は観ていないけれど、間違いなくすごい作品になってると思います」と温水。

『ゴッドマザー』は、人生の終わりを描くことで、逆に“どう生きるか”を観る者に問う作品だ。温水は、この役に誠実に向き合い、コシノアヤコという“誰よりも自分にまっすぐな人”を見送る存在として、映画に深い奥行きをもたらしている。

□温水洋一(ぬくみず・よういち)1964年生まれ。宮崎県都城市出身。1988年より小劇場を中心に俳優活動をスタート。唯一無二の個性派俳優として幅広く活躍。2017年に舞台『管理人』で第52回紀伊國屋演劇賞・個人賞受賞。現在、舞台ケムリ研究室no.4『ベイジルタウンの女神』(2025年5月9日~6月15日公演)に出演中。近年の主な出演作には、ドラマ『天城越え』(25年)、映画『ウラギリ』(22年)など。フジテレビのバラエティー番組『ぶらぶらサタデー タカトシ温水の路線バスで!』にレギュラー出演中。25年8月31日からBunkamura Production 2025『アリババ』『愛の乞食』の舞台公演も控えている。

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