三浦瑠麗さんが語る“離婚の理由” 結婚制度にも持論「本質的には友情や信頼でつながっているべきもの」
国際政治学者・作家の三浦瑠麗さんが、6年ぶりとなるエッセー『ひとりになること』(KADOKAWA)を刊行した。本書でつづったのは「夫と離れて生きること」、そして「妻・母・女性」としての自己を問い直した時間だ。自身の結婚生活、離婚、家族との関係、そして“ひとりであること”の意味を静かに見つめている。

6年ぶりエッセー『ひとりになること』を刊行
国際政治学者・作家の三浦瑠麗さんが、6年ぶりとなるエッセー『ひとりになること』(KADOKAWA)を刊行した。本書でつづったのは「夫と離れて生きること」、そして「妻・母・女性」としての自己を問い直した時間だ。自身の結婚生活、離婚、家族との関係、そして“ひとりであること”の意味を静かに見つめている。(取材・文=平辻哲也)
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本書はWEBテレビジョンでの連載「男と女のあいだ」(2023年12月~24年3月)をもとに、大幅な加筆修正を加えて書籍化されたもの。元夫とは東京大3年からの付き合いで、2003年に結婚したが、23年に実業家である夫が刑事事件に関連して逮捕・勾留される中、三浦さんは24年4月に離婚に踏み切った。
「離婚の理由はひとつではありません。“強制的な別居”という外的な出来事があったからこそ、初めて見えた風景もあったということ。私は若くして結婚して、ほとんど1人暮らしを経験せずに家庭に入ったんです。だから、事件をきっかけに別居して、初めて大人が1人でいる時間を持った。その中で、私は『家族のために土日を空けておくのが当たり前』と思ってきたけれど、失ってきた時間もあったな、と気づいたんです」と明かす。
本書は自身の離婚を経て感じた『ひとりになること』をテーマにしたことから始まった。
「不思議なほど順番に、自然に書いていきました。書くという作業は、自分自身と対話する作業でもありました。書きながら“愛”や“結婚”といった言葉の意味が揺らいでいって、まるで螺旋階段を下るように、自分の深い部分へ降りていくような感覚でした」
三浦さんは、「離婚」を結婚生活から「卒業」と表現する。
「卒業って、単に終わったという意味じゃなくて、『通過した』というニュアンスがあるんです。女性同士の連帯みたいな感覚もあって、仲の良い友人が離婚した時に『いいじゃない、卒業だね』と言ったんですね。私自身も、その言葉に励まされましたし、どこかで自分の中にあった区切りを表すのにぴったりだったと思います」
その中で浮かび上がったのは、自身の「面倒見の良さ」が相手の成長を妨げていたかもしれないという気づきだった。
「家事も育児も仕事も全部できちゃうと、つい全部やってしまう。でも、それが結果的に相手の自由や自立の機会を奪っていたのかもしれません。それって一種の支配だったかもしれないな、と今は思います」

元夫との関係は友人として継続
本書では、夫婦の関係を“もやい綱”という比喩で表現している。もやい綱とは、ボートなどを岸につなぎ留めておくロープのことだ。
「夫婦って同じ船に乗っているようで、実はそれぞれが別々の船に乗っていて、もやい綱でつながっているだけかもしれない。その綱が外れた時に、こんなにも違っていたんだって気づくことがあるんです」
離婚後も、元夫との関係は完全に途切れたわけではなく、友人として続いている。
「中2の娘と一緒に食事をしたり、必要があれば子どもを預かってもらうこともあります。“家族”のかたちは変わったけれど、消えてしまったわけではないんです」
中2の娘との関係にも大きな変化があった。
「事件のあと、娘と2人で語り合う時間が増えました。義母がアメリカ人ということもあり、我が家は比較的、“子どもを1人の個人として扱う”方針だったんですが、それでも思春期になっての対話は驚くほど成熟してきました。大人同士のように、本音を交わせるようになったのは、この時間のおかげだと思っています」
また、妹と娘の3人で過ごした時期もあり、新たな発見を得た。
「女性だけの空間がこんなにも穏やかで、思いやりにあふれているとは思いませんでした。競争も圧力もなくて、もっと柔らかい家族のあり方ってあるんだなって実感しました」
三浦さんは結婚という制度そのものにも疑問を投げかける。
「結婚というのは、民法上いろんな“独占権”や“制度的なメリット”がありますけど、本質的には友情や信頼でつながっているべきものだと思います。私が夫にしていた“助け合い”も、最初は自然だったけど、いつの間にか無意識の“所有”になっていたのかもしれない。だからこそ、もやい綱をほどいて、お互いが本来の自分として生きていくという選択は、勇気のいることだったけど、必要だったと今は思います」
『ひとりになること』は、“別れること”を語っているようでいて、実は“どうつながるか”を問い直す本でもある。事件を経た今だからこそ語れる言葉が、静かに息づいている。
□三浦瑠麗(みうら・るり)1980年10月3日、神奈川県茅ヶ崎市生まれ。山猫総合研究所代表。東京大農学部卒業後、同公共政策大学院及び同大学院法学政治学研究科修了。博士(法学)。東京大学政策ビジョン研究センター講師などを経て現職。主著に『シビリアンの戦争』『21世紀の戦争と平和』『孤独の意味も、女であることの味わいも』など。2017年、正論新風賞受賞。
