松岡充「日本で俺以外にできない」 デヴィッド・ボウイ遺作に主演「運命的。燃焼したい」
ロックバンド・SOPHIAのボーカリストで俳優の松岡充が、デヴィッド・ボウイの遺作ミュージカル『LAZARUS』(脚本共作・エンダ・ウォルシュ氏)に主演する。同作の日本初演。ウォルシュ氏の作品を4回手掛けてきた白井晃氏の演出で、5月から6月にかけて神奈川、大阪で上演される。松岡にとって今年はSOPHIAデビュー30周年、役者デビュー23周年。憧れのボウイが誕生させた名作の主演オファーを心底喜び、「燃焼したい」と話している。

日本初演で今月31日初日、ミュージカル『LAZARUS』
ロックバンド・SOPHIAのボーカリストで俳優の松岡充が、デヴィッド・ボウイの遺作ミュージカル『LAZARUS』(脚本共作・エンダ・ウォルシュ氏)に主演する。同作の日本初演。ウォルシュ氏の作品を4回手掛けてきた白井晃氏の演出で、5月から6月にかけて神奈川、大阪で上演される。松岡にとって今年はSOPHIAデビュー30周年、役者デビュー23周年。憧れのボウイが誕生させた名作の主演オファーを心底喜び、「燃焼したい」と話している。(取材・文=Miki D’Angelo Yamashita)
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『LAZARUS』の世界初演は、2015年に米ニューヨークのオフブロードウェイだった。ボウイ主演の1976年に公開された『地球に落ちてきた男』の続編的な作品だ。地球にやってきて故郷に帰れなくなった宇宙人のニュートンが、突然現れた謎の少女とともに運命を模索するストーリーが展開される。日本初演の今回、主演の松岡は「自分がロックスターになりたいと思ったきっかけがデヴィッド・ボウイ。当時の自分に伝えたいぐらいうれしいオファーだった」と喜びを表現した。
「一時休止していたSOPHIAの活動を2022年に復活してからとても忙しかったので、役者の仕事はセーブしていたんです。それでも、いろいろお話はいただいていて、突然、斜め上ぐらいから降って来たのがこの作品でした(笑)。オフブロードウェイやウエストエンド、ドイツでも盛んに公演が行われていることは知っていましたが、『日本に来たら誰がやるんだろう』と密かにうかがっていました。正直、お話をいただいた時は『そうですよね』でした(笑)。本当におこがましいんですが、『これ、今の日本で俺以外できないでしょう』と、僕が一番待ち望んでいた作品でしたし、喜びもひとしおです。個人的には『役者としての表現とミュージシャンとしてのクリエイションが一つに結合される時がやっと来た』。そう、確信しました」
ボウイは、ミュージシャンとしての松岡に多大な影響を与えてきた。「クリエイションの源はボウイ」と言っても過言ではないという。
「『デヴィッド・ボウイはロックスター』と僕らは思っているけど、本人はロックというジャンルにはとらわれていないんです。『デヴィッド・ボウイ』という人生を演ずる役者、というのが一番しっくりくる。音楽を通して生まれてから死ぬまでの人生を演じる。その表現方法は自分も近いのかと思います」
ボウイの勝手な偶像を作りながら音楽を作ってきた。ローリング・ストーンズやエルヴィス・プレスリーではなく、ビートルズでもない、「デヴィッド・ボウイなんだ」という熱い思いが、その後のビジュアル系と呼ばれるスタイルへと導いた。
「10代後半の頃、『誰が好きなの』と聞かれた時に『デヴィッド・ボウイ』と言うと、ちょっと軟派に思われました。『デヴィッド・ボウイ=骨太なロックじゃない』みたいなイメージがあったんですよね」
ボウイとは何者なのか? 曲調は毎回大きく変わっていく。それでもひかれる何かがあった。
「お金がない学生だから、レンタルレコードを聴いていたのですが、当時は本当の良さを理解しているわけではなかったんですよね。きっとみんなが群がってるものが嫌で、サイドカウンターにいくことのカッコよさみたいなことをデヴィッド・ボウイに感じていた。そういう意味でも大きく影響をもらったと思います」
『ラザルス』のオフブロードウェイの舞台では、ボウイが演じた主人公ニュートンの40年後を描いた。ポップな色使いやサイケで近未来的といったボウイの一番の魅力を一切排除し、演劇だからできる表現方法を用いていた。だからこそ、松岡は白井氏の演出にも期待を込めた。
「ウォルシュ作品を日本で全て手がけていて、白井さんならではの空間的な心象風景の作り方など、デヴィッド・ボウイを超えたデヴィッド・ボウイを創り出してくれるのではないでしょうか」

全曲を英語で歌唱「ハードでも突き詰めたい」
ただ、日本語になった台本を読んで「こんなに淡泊だっけ」と感じたという。ドラマチックな事件があり、場面が変わるわけではない。まるで、曲を絵画的なものとして説明していく、ミュージックビデオのように流れていく。今回の舞台では17曲もの楽曲を歌うが、ミュージカルに何本も出演してきた松岡にとっても、「これまでになくハード」に感じているという。
「通常、ミュージカルの歌の役割は、芝居の中で感情が高まり、言葉で会話をするより曲を使った方が、『よりそのシーンの思いを伝えることができる』というのはあります。つまり、芝居ありきで楽曲が作られている。でも、この作品はデヴィッド・ボウイの楽曲ありきでストーリーが作られている。だから『この歌詞は、ストーリーに関係ないな』ということが起こるんです。でも、ウォルシュとデヴィッド・ボウイが、その歌詞に込めた意味は絶対あるし、それは彼らのインナーワールドです。それを僕らは追い求めなければいけない。『ここまできたら次は歌だ』と機械的に次のシーンに入ると、物語は成り立たないです」
ボウイの感覚と自身の価値観がリンクするところも多々あるという。『LAZARUS』は、ボウイがそうであったように「いろいろな顔があり、限りなく可能性が広がる作品」と松岡は分析する。
「全曲、英語で歌わなければならないので苦戦していますね。デヴィッド・ボウイの英語を100%理解しているわけではない。でも、僕らの心に届いているんですよ。それが音楽と歌の力だし、ボーカリストの表現力だと思うんですね。そんな音楽を回り回って、お芝居の方から入っていくことができるということは、僕にとっては運命的。だからこそ、どんなにハードでも突き詰めたいと思って稽古に臨んでいます。『デヴィッド・ボウイがなぜこれを最後に作ったのか』を探る長い旅です」
松岡へのインタビューは「後編」へと続く。ミュージシャンとして「ビジュアル系」を歩んだ道のり、趣味を含めたプライベートを語っている。
□松岡充(まつおか・みつる)1971年8月12日、大阪・門真市生まれ。ロックバンド・SOPHIAのボーカルとして、95年、ミニアルバム『BOYS』でメジャーデビュー。2013年8月、活動休止後、22年、9年越しにバンドが復活。俳優として、映画『仮面ライダーW FOREVER AtoZ / 運命のガイアメモリ』、フジテレビ系連続ドラマ『人にやさしく』、TBS系連続ドラマ『山田太郎ものがたり』、舞台『キサラギ』『キャッチ・ミー・イフ・ユーキャン』などに出演。血液型B。
<ミュージカル『LAZARUS』>
脚本:デヴィッド・ボウイ、エンダ・ウォルシュ、演出:白井晃、音楽:デヴィッド・ボウイ
キャスト:松岡充、豊原江理佳、鈴木瑛美子、小南満佑子、崎山つばさ、遠山裕介、栁沢明璃咲、渡来美友、小形さくら、渡部豪太、上原理生
○公演日程
5月31日~6月14日:神奈川・KAAT神奈川芸術劇場 ホール
6月28日、29日:大阪・フェスティバルホール
