声優デビューの前は舞台女優 松本梨香のマルチに活動する原動力「『もうダメだ』って時にふっと別の道がやってくる」

アニメ『ポケットモンスター』(テレビ東京系)シリーズの主人公・サトシ役などで知られる声優、松本梨香が、観光ロールプレイングゲーム(RPG)型コンテンツ『音時トリップ;江の島編-響く島、龍の秘宝-』(音声ARアプリ「SARF」で配信中)で龍の声を演じている。今作は神奈川・江の島を訪れた参加者が音と物語でリアルなRPGを体験でき、「江の島だけじゃなくて全世界に広げたい」と松本。2023年にサトシ役に終止符を打ってから2年。声優、歌手、さらには舞台俳優、演出家として幅広く活動する中、今作や芸能活動でのモチベーションの源などについて話を聞いた。

インタビューに応じた松本梨香【写真:増田美咲】
インタビューに応じた松本梨香【写真:増田美咲】

江の島が舞台のARコンテンツに出演

 アニメ『ポケットモンスター』(テレビ東京系)シリーズの主人公・サトシ役などで知られる声優、松本梨香が、観光ロールプレイングゲーム(RPG)型コンテンツ『音時トリップ;江の島編-響く島、龍の秘宝-』(音声ARアプリ「SARF」で配信中)で龍の声を演じている。今作は神奈川・江の島を訪れた参加者が音と物語でリアルなRPGを体験でき、「江の島だけじゃなくて全世界に広げたい」と松本。2023年にサトシ役に終止符を打ってから2年。声優、歌手、さらには舞台俳優、演出家として幅広く活動する中、今作や芸能活動でのモチベーションの源などについて話を聞いた。(取材・文=大宮高史)

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 同コンテンツは「江の島まるごと音声化プロジェクト」の一環として企画され、参加者がGPSを駆使して江の島の謎解きスポットをめぐり島内のゴールを目指す体験型音声冒険アトラクション。江の島を訪れた主人公(参加者)がエノシマの地で出会った可愛らしい龍(松本)が本来の姿を取り戻すために必要な「守護の宝」を見つけ出していき、さらに江の島の様々な謎(トリビア、名物など)を解いていくことでエノシマを冒険しながら、その土地の文化や歴史を知っていくという内容だ。松本は、龍の声を演じながら、参加者をゴールに導くナビゲーターを務めている。横浜市で育った、ちゃきちゃきのハマっ子、松本にとって、江ノ島は身近な場所でもある。

「江の島にもよく遊びに行きました。江ノ島水族館で絵を描いたりもしましたし、海の家でたっぷり遊びました」

――今回、江の島ゆかりの龍を演じてみての感想は。

「すごく楽しいコンテンツになりました。小さな龍から大きな龍まで私が声を吹き込みました。小さな龍は素の松本に近い感じでやってみて、大きな龍にはいかにも壮大なドラゴンというイメージを抱いて演じました。映画の『ネバーエンディングストーリー』(1984年製作)のファルコンのように、寄り添ってくれるキャラクターです」

――生まれ育った横浜では何か思い出などはありますか?

「父が大衆演劇の座長でしたから芸事は身近でした。それに近所の方や友達とは『人類みな兄弟!』のような近い距離感で過ごしていた子ども時代だったので、江ノ島に行けば新しい友達を10人作って帰ってくるような感じでした(笑)」

――では、ここから芸能活動について伺います。1988年のアニメ『おそ松くん』(フジテレビ系)で声優デビューされるまでは、舞台に立たれていたそうですね。

「病気で舞台を諦めなないといけないときが一時期ありましたが、その後体調は戻りました。声優業はゼロからのスタートだったので、隣にいる先輩方にメモのやりかたから教えてもらいました。ページの端を折ったら台本がめくりやすいとか、そんなことも全部現場で覚えていきました」

――そこから快進撃が始まります。声優、歌手、ミュージカルや朗読劇にも挑戦、さらには舞台演出も手がけるなど、表現者として幅広く活動されます。

「私の人生って、『もうダメだ』ってなりかけた時にふっと別の道がやってくるんです。舞台を諦めて声優業に出会えた時もそうでしたし、身体が回復して俳優もできるようになって原点だった舞台の仕事も順調になってきた時に父が亡くなって……。その時は生涯役者だった父のスピリットを受け継いでいきたくて、演技の講師の仕事も始めました」

家族愛について語った【写真:増田美咲】
家族愛について語った【写真:増田美咲】

地方で世界で、エールを送り続ける原点

――この3月には長崎・南島原市を舞台にした絵本『ブルー・ビーと太陽のひまわり』を出版し、16日には南島原で朗読イベントも開催しました。

「以前『ゆめらっちょ!』という絵本を作ったのですが、その反響が今回につながりました。前の絵本のとき、友達が子育てに忙しくしていたので、『私が本を読んであげられたらいいな。でも直接行けないから絵本に私の声でナレーションを入れたらいいのでは』と思い出版しました。そしたら、南島原市の職員さんから『絵本を書きませんか?』ってお話をいただいたんです。ふるさと納税のコラボ企画として、新しく絵本を作って南島原でも披露する機会をいただきました」

――海外でのアニメソングのイベントにもたくさん出演されました。

「すごい経験をたくさんしました(笑)。ブラジルのイベントで歌った時、機材がおかしくてハウリングがすごかったから、自分でポルトガル語でミキサーさんに手取り足取り説明したんですが、やっぱり解決しなくてそのまま最後までイベントで歌いました。もちろん素敵なこともありました。難病を抱えていたファンの方が何百キロも離れたところから家族の運転する車でイベントに来てくださったときはうれしかったですね。私に会えただけで家族皆で号泣した光景を見たら、私の悩みなんて大した事ないなって思えました。そういうことも活力につながります」

――ひとつのジャンルにとどまらず活動を続けられている理由は。

「私が頑張ることで笑顔になってくださる人がたくさんいるから、に尽きます。イベントで今でも『ゲットだぜ!』って言うだけで子どもたちが楽しんでくれますし、経験してきたどのお仕事でも、人々の反応が直球で返ってきます。それに、皆さんの笑顔を増やすためなら、どんなアイデアも浮かんできます。今絶版の『ゆめらっちょ!』もまた出したいので、誰か力を貸してください(笑)」

――そんな精力的なモチベーションの原点は、地元で育まれた家族愛でしょうか?

「そうですね。父のことは役者の大先輩として一番に尊敬していますし、もう1人、19歳で亡くなった兄のことを思うと、どんなに辛くても自分で選んだ表現の道を諦める訳にいかないんですね。ずっと身体が弱くて、『私が兄ちゃんを守る!』って双子のように寄り添っていた兄でした。将来私が一生を終える時が来たとして、父や母や兄から『よく頑張ったな』ってほめてもらいたくて頑張っている気持ちもあります」

――最後に今作品について伺います。今月10日から配信がスタートした新感覚のコンテンツで、また松本さんの声を楽しめる機会が増えました。

「私の声ひとつで多くの方が喜んでくれるのは、とてもありがたいことです。海外のアニメファンって、日本の声優さんの演技も聞きたいから、吹き替えよりも字幕を好むんですって。だからこのコンテンツも江の島だけじゃなくて全世界に広げたいです。アニメの『ポケモン』は卒業しましたが、寂しがらないで欲しいです。またサトシの声と一緒に冒険ができるって。今度は現実の世界で私と一緒に冒険していきましょう!!」

□松本梨香(まつもと・りか)横浜市出身。幼少期からミュージカルや2.5次元舞台に立つ。 名作アニメや海外映画に声優として多数出演。アニメ『ポケットモンスター』(1997年~2023年)で主人公・サトシ役を26年にわたり演じ、自身が歌う主題歌はダブルミリオンを記録。初めて女性シンガーとして仮面ライダーシリーズやスーパー戦隊、ウルトラマンのオープニングやエンディングを担当した。絵本『ゆめらっちょ』やエッセー 『ラフ&ピース』(宝島社)を出版する一方で、音響監督や舞台演出もこなし、クールジャパン広報大使として世界に日本文化を発信しつづけている。

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