元宝塚トップの女優・紅ゆずる、実は劣等生だった過去 入団5年目によぎった退団「与えられない苦しみを分かっている」
1994年、英国で初演されたアラン・エイクボーン氏による戯曲『あなたに会えてよかった』が5月に東京、大阪で上演される。主演のプーペイ役を紅ゆずる、ジェシカ役に綾凰華、ルエラ役に珠城りょうと3人のメインキャラクターに宝塚OGがそろった。紅が演じる売春婦・プーペイが巻き込まれた事件から、ある共通項で結ばれた女性たちがつながり合う物語。作者のエイクボーン氏は、日常からユニークなシチュエーションを作り出し、隠れた面白さを引き出す喜劇作家だ。宝塚きってのコメディエンヌとして人気を博した紅が、コメディーの難しさや劣等生だった宝塚時代を語った。

戯曲『あなたに会えてよかった』に出演
1994年、英国で初演されたアラン・エイクボーン氏による戯曲『あなたに会えてよかった』が5月に東京、大阪で上演される。主演のプーペイ役を紅ゆずる、ジェシカ役に綾凰華、ルエラ役に珠城りょうと3人のメインキャラクターに宝塚OGがそろった。紅が演じる売春婦・プーペイが巻き込まれた事件から、ある共通項で結ばれた女性たちがつながり合う物語。作者のエイクボーン氏は、日常からユニークなシチュエーションを作り出し、隠れた面白さを引き出す喜劇作家だ。宝塚きってのコメディエンヌとして人気を博した紅が、コメディーの難しさや劣等生だった宝塚時代を語った。(取材・文=Miki D’Angelo Yamashita)
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「紅さんにぴったりのコメディー」。演出家の野坂実氏からオファーを受け、紅はすぐに台本を読み、セリフの多さにたじろいだという。挑戦するのは、未経験のセリフ劇で初めての娼婦役だ。
「『コメディー』と言っても、吉本新喜劇のような一発芸で笑いが起こるというのではなく、『クスッ』という笑いをお客さまから引き出したいんですよね。ホテルの一室というワンシチュエーションで、セリフのみの人間描写で舞台を進めていく。歯車が一つでもかみ合わないと全てが狂ってしまう。怖いもの見たさで挑戦したいと思いました(笑)」
宝塚のトップ時代は、数々のコメディー作品に主演し、評価を受けてきた。『タイムトラベルコメディー』と副題がついている『あなたに会えてよかった』に関して、イメージしたのは『バック・トゥ・ザフューチャー』だという。
「コメディーは好きですが、実はそんなに得意でもないんです。コメディーを何回も経験している宝塚のトップさんを見たことがなかったので、『宝塚歌劇という世界観がしっかりとある中で、宝塚のコメディーをやってみたい』とお願いし、何度も挑戦させていただいたんです。『トップスターはカッコいいだけが正義ではない』と証明したかったんですね」
紅は「物語の中で、観客を笑わせるための計算をきちんとしていないと登場人物の関係性が破綻してしまう」と分析。深く掘り下げて、セリフを一字一句考えないと成り立たない難しさに四苦八苦している。
「3人の女性の1人、ジェシカ役の綾凰華さんは、宝塚時代、星組で一緒だったこともありますが、以前、野坂さんの作品で一度ご一緒しています。ルエル役の珠城りょうさんは、星組と月組で同時期にトップだったので、今回初めて一緒にお芝居させていただきます。珠城さんの役は、私の役と対照的なところに共通点が隠れていて、笑いを絡めながら次第に共感していくという役作りを模索しています」
野坂と紅がタッグを組むのは4回目になる。「こんなに大量のセリフを回していくことが可能なのか」と不安で、野坂以外のオファーであれば受けられなかっただろうと振り返る。2人はアガサ・クリスティの『ゼロ時間へ』で高い評価を受けるなど、強い信頼関係を築いてきた背景もある。
「アドバイスが的確なんです。野坂さんがイメージされているものを超えたい。オファーして良かったと思っていただきたい。それを裏切りたくないんです。この作品は会話が命なので、お互いリズムよく自分の色を出していかなければなりません。空気感が命だと思うんですよね。宝塚OG同士でしっかりとコミュニケーションを取って稽古に励みたいです」

宝塚音楽学校には一発合格、入団5年目に「絶望的な気持ち」
振り返ると、紅が「宝塚ファン」になったのは、テレビで偶然見た雪組公演『雪之丞変化/サジタリウス』。すぐに「ここに入る」と決めたという。
「何を始めてもすぐ辞めてしまう飽き性だったため、両親に宝塚を受けたいといっても取り合ってもらえなかったんです。宝塚音楽学校を受けられるのは中学3年から高校3年までの計4回。両親は、毎回落ちて落胆する娘の姿がありありと想像できたんでしょうね。娘を思う親心から、受験を諦めさせようとしていたのでしょう」
それでも、連日テレビ録画をした宝塚歌劇の映像を食い入るように見る娘の様子を見て、両親も遂に受験を承諾。紅は一発合格を果たした。順風満帆に思えたが、星組の所属になってからは「実力のなさ」で、ラインダンスにも入れてもらえない日々が続いた。そして、入団5年目の作品では最下級生と同じ場面にしか出場できなかった。この時は、存在すらも否定されているかのような絶望的な気持ちになり、初めて「退団」という文字が脳裏によぎったという。
その経験があったからこそ、役がつかない、場面にすら出場できない人の気持ちが痛いほど分かるようになった。自身がトップになった時は、まず香盤を確認。プロデューサーに「場面に出してもらえていない下級生に出られない訳をきっちり伝えてあげてほしい。理由が分かれば、それを補う努力ができるから」と伝えていた。
「ただ、原因が分かって反骨精神で上がってこられる子もいれば、そうでない子もいる。与えられない苦しみを分かっているからこそ、その子たちを見守り支えることも私の役目だと感じていました」
自身の大きな転機は、バウホール公演『アンナ・カレーニナ』の二番手男役に抜てきされた時だった。「こんなチャンスは2度とない。自分の宝塚人生を懸ける」と強く思ったという。「新人」と言われる7年目までは「どんなに辛いことがあっても退団しない」と決めていたが、ラストの7年目に海外ミュージカルの大作『スカーレット・ピンパーネル』の新人公演で主演に抜てきされた。
「まさか主演をさせていただけるなんて思ってもいませんでしたが、(重圧で)うれしさなどはなく、大ピンチの崖っぷちでした」
裏を返せば、このピンチは飛躍への大チャンスだった。紅はそれを生かし、スター路線に乗ってトップの座まで上りつめた。
「周りに恵まれていました。私のトップ時代を支えてくれた礼真琴さんの武道館コンサートを先日観劇させていただきましたが、こんなに素晴らしい下級生たちに支えてもらっていたんだなと改めて実感しました」
そんな紅は「異端児と呼ばれる程のインパクトのあるタカラジェンヌになりたい」と宝塚歌劇に新風を巻き起こした。今回の作品でも“新しい姿”が期待される。
<戯曲『あなたに会えてよかった』公演情報>
5月2日(金)・7日(水) 東京・三越劇場
5月10日(土)・11日(日) 大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール
□紅ゆずる(くれない・ゆずる)1982年8月17日、大阪府生まれ 2002年宝塚歌劇団88期生として入団。16年、星組トップに就任。19年退団。以降はタレント、俳優として活動。近年は『新生!熱血ブラバン少女。』『ゼロ時間へ』『FOLKER』など、コメディーからミステリーまで幅広く舞台作品に出演している。今後は7月に舞台『Only1,NOT No.1』、9月にディナーショー『以心伝心~パッサァの軌跡~』を控えている。
