【あんぱん】脚本家・中園ミホさんが語るやなせたかしさんの素顔 小学生時代に文通「グチっぽいことも」
脚本家・中園ミホさんが、NHK連続テレビ小説『あんぱん』(月~土曜午前8時)の取材会に参加し、少女時代から交流があったという漫画家・やなせたかしさんの思い出やセリフに込めたやなせさんへの思いを明かした。作品は、やなせさんと妻・暢さんをモデルに、苦難に面しても夢を忘れず荒波を乗り越え“逆転しない正義”を体現した『アンパンマン』にたどり着くまでの愛と勇気の物語。俳優・今田美桜が主人公・朝田のぶを、北村匠海が柳井嵩を演じる。

意識したのは戦後80年「やなせたかしを描くということは戦争を描くということ」
脚本家・中園ミホさんが、NHK連続テレビ小説『あんぱん』(月~土曜午前8時)の取材会に参加し、少女時代から交流があったという漫画家・やなせたかしさんの思い出やセリフに込めたやなせさんへの思いを明かした。作品は、やなせさんと妻・暢さんをモデルに、苦難に面しても夢を忘れず荒波を乗り越え“逆転しない正義”を体現した『アンパンマン』にたどり着くまでの愛と勇気の物語。俳優・今田美桜が主人公・朝田のぶを、北村匠海が柳井嵩を演じる。
「朝ドラの脚本はしんどいので半分、断ろうかと思っていました(笑)。けれども、やなせ夫妻について書けるなら、絶対に私が書きたい、頑張ろうと思って引き受けました」
朝ドラの脚本執筆は2014年『花子とアン』以来。どうしんどいのか。
「毎日、起きたら息つく暇もなく書かないといけないんです。私、お酒が大好きなのですが、飲みに行けないくらい忙しくなります。24時間朝ドラ漬けの感じ。1日1話書かないと間に合わないから二日酔いになれないんです」
作品には、やなせさんの詩を思わせるセリフがしばしば登場する。詩は脚本にどんな影響を与えているのか。尋ねると中園さんの少女時代まで話が遡った。
「10歳で父を亡くし落ち込んでいたときに、やなせさんの『愛する歌』という詩集を読んで励まされて、やなせさんにファンレターを送り、それから文通が始まったんです。今回、改めて詩集を開いてみたら、そのほとんどを覚えていました。それぐらい繰り返し読んでいました。覚えている言葉がたくさんあるので、脚本を書いていても自然に出てきますね。やなせさんは69歳でブレイクしましたが、その前にもすてきなお仕事をたくさんなさっています。できるだけ多くの方にやなせたかしワールドを知っていただきたいんです」
第4回にも詩の一節「たったひとりで生まれてきて たったひとりで死んでいく 人間なんてさみしいね 人間なんておかしいね」から生まれたセリフがあった。
「『人間なんてさみしいね』という詩の一節ですが、まさに私が父を亡くしたとき、その詩を読んでやなせさんにお手紙を書こうと思ったんです。索漠(さくばく)とした詩ですが、逆に父を失った悲しみから救われたんです。最初からこの詩を使おうとは思っていませんでしたが、脚本を書き始めたら自然と詩が降りてきた感じです」
10歳で文通を始め、長年交流のあったやなせさんにどんな印象を抱いたのか。
「お手紙を読んでいると、グチっぽいことも書いてあるんですよ。小学生の私に『またお金にならない仕事を引き受けてしまいました』とか(笑)。私の当時のやなせさんのイメージは失礼ですけど、“へなちょこ”。でも小学生にそう思われてしまうくらいとても正直でまっすぐな方。その後は、お会いしたときに『おなかすいてませんか』『元気ですか』と声をかけてくださり、優しいおじさんという印象です」
意識したのは戦後80年「やなせたかしを描くということは戦争を描くということ」
あらためてやなせさんが中園さんに与えた影響を聞いた。
「『不思議な縁』というだけでは説明のつかないくらいの深いつながりを感じます。私は子どもの頃に詩を書いていたのですが、それはやなせさんの影響です。そこから物を書くことが好きになり、今があると思うので、脚本家・中園ミホを作ってくださった方だと思っています。この頃毎日、やなせさん夫妻のことを考えていると、やなせさんをすごく身近に感じるときがあります。包まれているような……。書いているときの記憶がなく、気付いたらあるシーンを書き終えていたということがあります。多分、やなせさんが書かせてくださった感じ。やなせさんに導かれて書いていたんだと思います」
作品を通じて感じてほしいことは。
「伝えたいのはやなせさんの精神、全部です」
意識したのは戦後80年。
「やなせたかしを描くということは戦争を描くということだと思っているので、そこは時間をかけてしっかり描きます。やなせさんが戦地で体験した飢えのつらさが『アンパンマン』につながったのだと思いますし、飢えがどんなにつらいかをやなせさんはいろんな本に残しています。だからお会いすると私に『おなかすいてない?』と言ってくださったと思います」
今田と北村の印象も聞いてみた。
「2人ともすごくすてきです。青春期をたっぷり描きますが、ずっと見ていたいですね。今田さんは『ドクターX』からご一緒していて、本当に性格がよくて、それが画面にも表れています。のぶは気の強い役なので演じる方によってはうるさくなってしまう危険もありますが、今田さんだから大丈夫、と信頼して書いています。北村さんは第1回の冒頭のシーンを見て、気配がやなせさんそのものだと思って鳥肌がたちました。なぜ、のりうつったようにできるのか……ひょっとしたら現場にもやなせさんが降りてきているのかなと思いました」
第1週のサブタイトルは「人間なんてさみしいね」、第2週は「フシアワセさん今日は」。生きる厳しさをしっかり描く姿勢を感じるがナーバスな視聴者もいるはず。
「何も失わない人生はないですよね。のぶと嵩も、お父さんを早くに亡くします。つらい別れがたくさんあり、深い悲しみを何度も乗り越えてきたから、『アンパンマン』が生まれたのだと思います。人間は深い悲しみを味わわなければ、喜びも幸せも分からない……その思いを大切に脚本を書いていますし、それがやなせさんの作風であり、人生だと思います」
最後に物語のラストのヒントをお願いした。
「ラストのことはまだ言えません。ただ、前半は資料が少なく想像を膨らませて物語を書きましたが、後半になるにつれてどんどん史実に忠実になっていく作品ですので、どのように『アンパンマン』が生まれるのか、最後まで楽しんでいただきたいです」
