内野聖陽、俳優人生を変えた瞬間 若手時代に浴びた“オッサン俳優の一言”「芝居は勝ち負けだ」
テレビ朝日系連続ドラマ『PJ ~航空救難団~』(4月24日スタート、木曜午後9時)で主演を務める俳優・内野聖陽。航空自衛隊の精鋭レスキュー部隊・航空救難団に所属する救難員、通称「PJ(パラレスキュージャンパー)」の活動を描く本作は、極限の現場で命を救う男たちの姿をリアルに切り取る完全オリジナル作品だ。内野が限界突破を感じた時とは?

連続ドラマ『PJ ~航空救難団~』で鬼教官役も実年齢では定年「でも、年齢を理由に線は引きたくない」
テレビ朝日系連続ドラマ『PJ ~航空救難団~』(4月24日スタート、木曜午後9時)で主演を務める俳優・内野聖陽。航空自衛隊の精鋭レスキュー部隊・航空救難団に所属する救難員、通称「PJ(パラレスキュージャンパー)」の活動を描く本作は、極限の現場で命を救う男たちの姿をリアルに切り取る完全オリジナル作品だ。内野が限界突破を感じた時とは?(取材・文=平辻哲也)
2009年の『臨場』以来、15年ぶりとなるテレ朝の連続ドラマ主演。演じるのは、救難教育隊で訓練生たちを鍛える主任教官・宇佐美誠司。熱血でクセのある、しかし心の奥には強い思いを抱えた男だ。
「癖のある役は今までもありましたが、今回は“理解に苦しむ系の変わり者”ですね(笑)。ただ、若者たちの夢に火をつけたいっていう気持ちが根底にある男。そこはとても共感できます」
そう話す内野は、実際に航空救難団が本拠地を置く小牧基地を訪ね、訓練生たちの姿に強く心を打たれたという。
「訓練生たちが、どうしてここまで厳しい訓練に耐えられるのか、それは『人を助けたい』という純粋な思いがあるからなんですよね。その姿があまりにも清らかで、真剣で……『こういう人たちが本当にいるんだ』って、感動しました。粗探ししようにも、粗が一切ないんです。生活も折り目正しくて、靴もピカピカで、学生日誌を読むと『今日の失敗を反省し、明日はもっと良くなるように頑張りたい』などと書いてある。真剣に人生を切り開いていかんとする魂がそこにあると感じました」
“人を助けたい”というピュアな思いが、訓練生たちの厳しい日常を支えている。そのリアルな現場に触れたからこそ、「フィクションだからこそ、真実を伝える責任がある」と語る。
「この作品で描きたいのは、“人を救うために、ここまでやる人がいる”ということ。それは自衛官だけでなく、すべての仕事に通じる姿勢でもあると思います」
そんな内野自身にも、“限界を超えた瞬間”があった。
「正直に言うと、若い頃、僕の中に『限界』っていう言葉、あまりなかったんです。もちろん、苦しいことや壁にぶつかることはたくさんありましたけど、『これは限界だ』と自分で決めてしまうようなことはなかったと思います。でも、あるとき……ある俳優のオッサンと出会って、その方の芝居への向き合い方が、自分の中の何かを大きく変えました(笑)」
それは「芝居も勝負なんだ。勝ち負けが必ずある」という言葉だ。その精神が胸に突き刺さった。誰に言われたのかと尋ねると、「言いたくない(笑)」と笑いつつ、「オッサン」と呼ぶ口ぶりには、どこか敬意とユーモアがにじんでいた。
「聞いた瞬間、ハッとしました。『あ、このオッサン、すげえな』って(笑)。それまでは、“いい芝居ができたらそれでいい”とか、“作品に貢献できればそれで満足”っていう気持ちがどこかにあったんです。でもそのひと言で、『ああ、自分はまだ“戦って”いなかったんだ』って気づかされました」
以来、内野の意識は大きく変化した。
「それからは、“食うか食われるか”が基本だと思ってるふしがありますね(笑)。主役であっても脇役であっても、同じ舞台に立っている以上、勝負してるんだって。たとえば、舞台やドラマの中で、ある場面を『持っていかれる』ことってありますよね。あれって、まさに勝ち負けですよね。観客の心を動かした方が、そこでは勝ってる。それを強く意識するようになりました」
現代にはそぐわない“厳しさ”…内野が持論「本気の厳しさには、優しさがあるんです」
それは、今回の役づくりにも生かされている。
「これまで積み重ねてきたすべての経験が、今回の宇佐美という役につながっている気がします。たとえば『臨場』で、自分の職域を越えていく検視官を演じたことで、“役者も時に自分の領分を踏み越えてでもモノを申さねばならん時がある”ことを学び、今回もたくさん踏み越えています(笑)」
現場で共演する若手俳優たちからも、刺激を受けている。
「彼らの瞳がとてもいいんです。“これから自分の未来を切り拓くぞ”っていうエネルギーに満ちていて、この年になった人間でも学ばされるような瞬間が多々あります」
作品のテーマでもある“厳しさと優しさ”。今の時代、“厳しさ”は時にネガティブに捉えられがちだが、内野はこう語る。
「本気の厳しさには、優しさがあるんです。本当に相手を思っているからこそ、厳しくする。そういう意味での“しごき”が、このドラマにはあります」
年齢を重ねた今、自分を「オッサン」と認めながらも、そこに線を引くつもりはない。
「僕はもう“オッサン”です。自然に受け入れてます(笑)。今回は実年齢より少し若い役なんですけど……、実年齢で言ったら、自衛官は定年(2曹・3曹は55歳、1曹・曹長・准尉・3尉・2尉・1尉は56歳、2佐・3佐は57歳、1佐は58歳)なんですよ。でも、年齢を理由に線は引きたくない。いくつになっても挑戦したいし、挑戦していいんだと思っています」
“変わり者”の教官に全力で挑み、若手と真剣に向き合いながら、自らの限界を更新し続ける内野。年齢を超えてなお進化を続ける“オッサン俳優”の背中は、きっと誰かの心に静かに火を灯すだろう。
□内野聖陽(うちの・せいよう)1968年9月16日、神奈川県生まれ。『(ハル)』(96)で、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。演技派俳優として映画やドラマ、舞台と幅広く活躍。主な出演作には、テレビドラマでは、大河ドラマ『風林火山』(07)、『真田丸』(16)、『臨場』(09/EX)、『JIN-仁-』(09/TBS)、『とんび』(13/TBS)、『きのう何食べた?』シリーズ(19/TX)、『ブラックペアンシーズン2』(24/TBS)『阿修羅のごとく』(25/Netflix)『ゴールドサンセット』(25/WOWOW)がある。映画では『家路』(14)、『罪の余白』(15)、『海難1890』(15)、『初恋』(19)、『鋼の錬金術師』(22)、『春画先生』(23)『八犬伝』(24)『アングリースクワッド公務員と7人の詐欺師』(24)などがある。
スタイリスト:中川原寛(CaNN)
ヘアメイク:佐藤裕子(スタジオAD)
