『御上先生』で注目の吉柳咲良が描く理想の女優像 生理の貧困→摂食障害…難役への挑戦続く

俳優の吉柳咲良が17日から東京・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAで上演される舞台『リンス・リピート ―そして、再び繰り返す―』に摂食障害を患うレイチェル役として出演する。吉柳にとって初となるストレートプレイの舞台で挑む難役。どのような思いで作品と向き合っているのだろうか。

インタビューに応じた吉柳咲良【写真:藤岡雅樹】
インタビューに応じた吉柳咲良【写真:藤岡雅樹】

『御上先生』に続く難役挑戦には「覚悟が必要でした」

 俳優の吉柳咲良が17日から東京・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAで上演される舞台『リンス・リピート ―そして、再び繰り返す―』に摂食障害を患うレイチェル役として出演する。吉柳にとって初となるストレートプレイの舞台で挑む難役。どのような思いで作品と向き合っているのだろうか。(取材・文=中村彰洋)

 同作は摂食障害を患った娘とその家族のいびつな関係を描いた作品。自分自身の本当の気持ちと現実の中でどのように折り合いをつけていくのかを繊細でリアルな会話を通じて、観客に問いかけていく。

 そんな舞台で摂食障害を患う難役に挑む吉柳に出演の話が舞い込んだのは、1月期に放送されていたTBS系連続ドラマ『御上先生』を撮影している最中だった。

「マネジャーさんから『見てほしい台本がある』と言われて送られてきたのが今回の作品でした。『御上先生』では、生理の貧困をテーマにした難しい役を演じていたので、『今度は明るい作品がくるのかな?』と思っていたら、摂食障害がテーマだったので『また難しい役を背負うのか』と覚悟が必要でした(笑)。

 でも、台本を読んでいて共感できる部分もたくさんあって、レイチェルが自分を写す鏡のように思えました。椎葉(『御上先生』で吉柳が演じた役名)を乗り越えたタイミングで『もう1つ先のステップに進みなさい』と言われたような気がして『頑張ります!』と挑戦を決めました」

 複雑な家族愛を描いた本作。「台本を読んだ時に『向き合うことから逃げないで』と言われている感覚でした」と率直な思いを明かす。

 これまで、ミュージカル経験はあったものの、ストレートプレイでの舞台には初挑戦。「今回は、どこにでもありそうな家族の断片を見ているような作品だと思いました。ミュージカルほどの分かりやすいキャラクター像もありません。かといって、テレビドラマのようにナチュラルに演じてしまうと観客に伝わりづらくなってしまうので、表現の塩梅が難しいです」。

 母親役の寺島しのぶとは今回が初共演となるが、良い関係性で稽古に臨めている。

「寺島さんは、ご家族のことや母親目線での思いなどを赤裸々にお話してくださるんです。実体験を交えながら、台本の理解を深める作業を一緒にやらせていただけるのは本当にすてきなことだと思います。

 大先輩に自分の意見を伝えることは勇気が必要ですが、気を遣ったお芝居をすることのほうが、私は無礼だと思っています。そんな私の意見にも耳を傾けてくださって、すごくありがたいです。とにかく優しい方で、一緒に作品を作らせていただいていると実感できています」

舞台『リンス・リピート』では摂食障害の難役に挑む吉柳咲良【写真:藤岡雅樹】
舞台『リンス・リピート』では摂食障害の難役に挑む吉柳咲良【写真:藤岡雅樹】

ストレートプレイ初挑戦で広がる可能性「今は自分の力を底上げしている時期」

「反抗期が強かった」と明かす吉柳にとって、家族に自分を理解してもらおうと必死に頑張り続けるレイチェルの姿には共感できる部分も多いという。

「ちょうど今回の台本をもらう直前ぐらいに、よく家族のことを考えていました。たとえ家族でも分かり合えない部分があって、それが悪いことだとは思いません。血がつながっていても、されど他人なんだよなって。そうやって思考を整理できた瞬間に『家族に分かってほしい』というエゴがなくなったというか、少しだけ楽になれた気がしたんです。それと同時に、母への思いやりが欠けていたなということをすごく感じました。

 レイチェルは逆に理解してもらおうと必死に頑張っているんです。たとえ自分がどれだけしんどくなっても、どうにかして伝えようとしています。本当に生命力にあふれているんです。そんな姿を演じていて、『彼女の苦しさを理解できるのは私なのかもしれない』と使命感のようなものを感じました」

 今回、ストレートプレイに初挑戦することで演技の幅が広がっていくことを確信している。

「音楽が好きでミュージカルがとにかく好きなので、今後の活動の主軸になるといいなと思っています。そのためにも、生の舞台に足を運んで見たいと思っていただけるように、もっともっと知名度を上げていきたいです。

 ミュージカルはどこか形から入らないといけない感覚が私の中にあるのですが、ドラマやストレートプレイは、中身から作り上げていくイメージがあります。その両立ができるようになることで、どちらにも良い影響を与えることができると思っています。今は自分の力を底上げしている時期だと感じています」

 12歳でミュージカル『ピーター・パン』で10代目ピーター・パン役に抜てきされ、役者人生がスタート。以降18歳までピーター・パンを務め続けるなど、吉柳にとっての原点となるミュージカルへの思いは深い。

 話題作への出演が続くなど、着実に経験を重ねてはいるが、まだまだ20歳。伸びしろたっぷりなこの先の成長が楽しみな存在だ。

□吉柳咲良(きりゅう・さくら)2004年4月22日、栃木県出身。16年に「第41回ホリプロタレントスカウトキャラバン PURE GIRL 2016」でグランプリを受賞。17年にミュージカル『ピーター・パン』の10代目ピーター・パン役に抜てきされ、22年まで同役を務めた。24年にはNHK連続テレビ小説『ブギウギ』、TBS系『御上先生』などの話題作に出演。ソロ歌手としての活動もスタートさせた。

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