王位戦解説 藤井王位誕生で最年少二冠&八段昇格の偉業 真田八段が見た勝負の分かれ目
勝ちの展開を作られたことには藤井も危機感をもった
逆転のテクニックは噛み砕いて言えば、相手の選択肢を増やして間違いやすくする、技術的なテクニックと、メンタル面にプレッシャーをかけて平常心を失わせる方向と2種類あります。
実際の対局では、複雑な要素が絡み合うためそう簡単ではありませんが、棋士の才能が出やすいのは確かです。藤井二冠の場合、終盤力に自信があるのできわどい展開に持ち込むことで、逆転の機会をうかがう傾向があるように思います。
言葉にするとそんなに難しくないようですが、実際に逆転勝ち、特にタイトルホルダー相手にひっくり返してみせるのは並大抵のことではありません。木村王位も相当な「圧力」を感じたのでしょう。勝利目前で勝利を逃してしまいました。
が、負けて尚木村強し。そもそも藤井二冠相手に勝ちの展開を作ることが、ほぼ誰もできていない中でのいい内容だったのです。「戦いようはある」と思えれば、棋士はいかようにも力を発揮できるものです。危機感は藤井二冠自身が一番感じていたのではないでしょうか。
第3局は辛くも逃げ切り、第4局は快勝
そのことは第3局に表れました。将棋自体は藤井良しでずっと展開したものの、木村王位の粘りに手を焼いて慎重に持ち時間を使った結果、最終盤でミスが出ました。結果的に、一瞬訪れたチャンスを木村王位が逃してしまったために、辛くも藤井二冠の逃げ切り勝ちとなりました。
七番勝負自体は、この藤井三連勝で決定的となりましたが、三局の内容をみれば1勝2敗とも言えます。このことは藤井二冠も大いなる反省材料になったのではないでしょうか。
少し間隔が空いての第4局。これまでの不出来さを吹っ切るように積極的な指し回しが目立ちました。この将棋は相手との間合いを間違えない藤井二冠の特徴が出て、木村王位に粘らせることなく快勝となりました。
終わってみれば4連勝。二冠獲得は名実共に超一流棋士の証明となりました。今後は、タイトルの防衛戦という、選ばれた棋士しか体験できない未知の領域が待っています。ここを順調に乗りきれれば、いよいよ全冠制覇への道も開かれてくると思います。