オーディション0勝10敗スタートから飛躍 『御上先生』出演の20歳が悔しさ、尊さを知った“先輩”からの金言

TBS系連続ドラマ『御上先生』が終了して3週間がたった。文部科学省から出向となった官僚・御上孝(松坂桃李)が進学高校3年の担任教師になり、生徒たちに考えることを伝え、導き、ともに権力に立ち向かう物語。生徒役の29人は結束し、議論を重ねながら、成長を遂げた。元生徒会長・村岡渉役を演じた山田健人は、キャリア1年足らずで同作のオーディションに合格。経験豊富な同世代もいた中で、感じたこと、学んだことを語った。

『御上先生』に生徒役で出演した山田健人【写真:増田美咲】
『御上先生』に生徒役で出演した山田健人【写真:増田美咲】

元生徒会長・村岡渉を演じた山田健人

 TBS系連続ドラマ『御上先生』が終了して3週間がたった。文部科学省から出向となった官僚・御上孝(松坂桃李)が進学高校3年の担任教師になり、生徒たちに考えることを伝え、導き、ともに権力に立ち向かう物語。生徒役の29人は結束し、議論を重ねながら、成長を遂げた。元生徒会長・村岡渉役を演じた山田健人は、キャリア1年足らずで同作のオーディションに合格。経験豊富な同世代もいた中で、感じたこと、学んだことを語った。(取材・文=柳田通斉、薦田真実)

 『御上先生』の撮影終了から1か月半。山田は実感を込めて言った。

「真剣にもの作りをする尊さを学びました。たくさんの職人さんがこだわりを持って仕事をされていました。僕は俳優部の1人でまだまだの存在でしたが、皆さんの姿がとてもかっこよく感じました。その思いを得られたことが一番大きかったです」

 29人の生徒役には、物語のキーマン・神崎拓斗を演じた奥平大兼をはじめ、蒔田彩珠、窪塚愛流、吉柳咲良、高石あかりらドラマ、映画で実績を残している面々がズラリ。日向坂46を卒業した影山優佳も、帰国子女役で存在感を示していた。その中で山田に与えられた台詞は「えっ、何」(第1話)、「理由は」(第4話)、「でも、それだけが原因かな。実際、学力が下がっている実感、俺はないよ」(第8話)などに限られていた。

「顔合わせの時は、有名な同世代を前にしても『絶対、負けねえぞ』と思って斜に構えていました。ただ、撮影が進むうちにそれぞれの真剣さが分かり、打ち解け合っていきました。29人全員の仲間意識が強くなり、『自分の役はこうだから、このリアクションはどうだろう』などと意見を出し合うようになりました。その雰囲気がそのまま作品に出ていたと思います」

 悔しさや嫉妬はあったが、「その人がその役を演じることには理由がある」と思い、自分に何が足りないのかを自問自答していたという。冷静に考えると、『御上先生』が制作に入った時点で山田のキャリアは1年。話題作のキャストに選ばれたこと自体が“奇跡”だった。2年前までは、芝居経験はゼロに等しい大学生だったからだ。

「高校時代に『何かに秀でていきたい』と思い、大学生のやっている自主制作映画に出たことはあります。その後、TikTokの映画祭に自分で作った縦型ショートドラマを送りましたが、全くダメでした。そして、大学生になって見つけたのが、磯村勇斗さんが主催する沼津での舞台のオーディションでした」

 2023年7月、磯村は故郷である静岡・沼津市の市制100周年記念事業で1日限りの舞台『プロポーズ』を企画し、主演した。自身が高校時代に所属した沼津演劇研究所の恩師2人、学生キャスト4人との作品。山田はその4人に選ばれ、初舞台を踏んだ。

「磯村さんと対面した時、『受かったら、大学を辞めて沼津に住みます』と言ったりして、空回りをしていました(笑)。受かってからは何をしていいのか分からず、台本を1日中読み込む日々を過ごしました。稽古が始まると、磯村さんからは『演じる時は自分にこもらず、相手に委ねた方がいい』とアドバイスをいただきました」

 山田は約1500人の観客を前に70歳の役をやり切った。何の打算もない「ピュアな青い時間」だったという。そして、湧いてきた充実感。気付くと、「事務所に入れてください」と売り込んでいた。

「高校の時から『表現で生きていきたい』と思ってきた中で、『芝居を続けたい。この道で生きていきたい』と心から思えました。磯村さんには言えなかったのですが、チーフ・マネジャーさんには真剣に相談しました」

 2週間後、事務所の全マネジャーと面談。あふれる情熱を言葉にし、「合格」をつかみとった。

「『救われた。道が開ける。最初はどんな作品に出られるのかな』と思いました。ものすごく、甘い考えでした」

 始まったのは、作品オーディションに落ちる日々だった。

「0勝10敗です。プロ野球の先発投手だったら、大批判にさらされかねない事態です。『こんなに準備をしたのに何で受からないのか』『自分のエネルギーを認めてくれる人は出てくるのだろうか』と悩みました」

 どれだけ演技に向き合っていようと、簡単に役をつかめないのが芸能界。1つの役を求めて数十人、100人以上が審査を受けている。「落ちて当たり前」の状況で、山田はもがき続けた。

「落ちた時は考えこみながら、駅周辺を1時間ぐらい歩いてしまいます。帰宅したらダメだったところ紙に書き出して、『次のオーディションまでこうなる』と書く。あとは、有名俳優の方々のインタビュー記事を読み漁ります。どうやって、つらい時期を過ごし、道を切りひらいてきたのか。そのヒントを得るためにです」

 そんな日々を過ごし、11回目のオーディションにトライ。ついに役をつかんだ。3月20日からFODにて先行配信、今月10日から地上波放送のFOD連続ドラマ『HEART ATTACK』(木曜深夜0時45分)の晴人役だ。

真剣な表情で質問に答える山田健人【写真:増田美咲】
真剣な表情で質問に答える山田健人【写真:増田美咲】

現在は7勝38敗「この先が怖い」

「作品が近未来の設定で、不条理な現実にもがく野生児のような役です。合格の知らせを聞いた時は『キタ~』と思い、公園で叫びました。サドンデスみたいなオーディションで、進んでいくうちに自分のタガが外れ、芝居で自分の限界を超える瞬間を感じられました」

 最初に受かったオーディションの作品が今、視聴者に届いている状況だが、山田は勢いに乗ってMVや他のドラマでも役をつかみ、遂には『御上先生』のオーディションも突破した。

「オーディションでは神崎を演じました。受かりたい一心で紙に神崎拓斗、神崎拓斗と繰り返し書いて、気持ちも作りこみました。いただいた役の村岡は元生徒会長でクラスのバランサー。真面目だけど、ふかんして物事を見て、おちゃらけることも、一歩引くこともできる設定でした。僕が受かった理由は熱量だと思います。神崎を演じながら、その要素を見ていただけたのかもしれません」

 駆け出しの山田にとって、同作への出演は大きな一歩。窪塚、影山、野内まる、青山凌大と共演したTikTokのスピンオフ動画は話題になった。今後も映画2本の出演が決まっているが、「まだ7勝38敗。『御上先生』に出演できたことも過去の話ですし、この先が怖くて仕方ないです」と正直に言った。

 ただ、『御上先生』の現場で、松坂から受けた言葉は「うれしかった」と振り返った。

「僕が『自分の映りのことを意識し過ぎて、受けの芝居が上手くできないんです』と言ったら、松坂さんは『相手からプレゼントをもらえば、自然に感情も動いて表情も変わる(受けの状態になっている)』と言ってくださいました。磯村さんが話された『相手に委ねる』と共通していると思い、心に刻むことができました。今、お2人の言葉が僕の基盤になっています」

 7勝38敗でも周囲には「この世界の厳しさを考えると、受かっている方です。期待できる」と言わしめている。常に演技のことを考え、自宅でも妄想し続ける20歳。有名な同世代との差を痛感した今、悔しさ、負けん気を抱えながら成長を期す。

□山田健人(やまだ・けんと) 2004年09月20日、埼玉県生まれ。大学入学間もない23年春、磯村勇斗が主宰した舞台のオーディションに合格し、初舞台。これまでの出演作は、日本テレビ系『若草物語』、カンテレ『あの子の子ども』、TBS系『アンチヒーロー』、『御上先生』、フジテレビ系『恋愛戦略会議』、FOD連続ドラマ『HEART ATTACK』など。168センチ。

※高石あかりの「高」の正式表記ははしごだか

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