【スターダム】引退試合の本命は私…『鬼レンチャン』で大バズした上谷沙弥が挑む、中野たむとの『ラストダンス』への思い
前編では闇落ちした不死鳥・上谷沙弥に激動の数か月間を振り返ってもらったが、後編ではスターダムから“女子プロレス界の顔”のきっかけとなったテレビ番組の話をお届けする。そしてもちろん忘れてはいけないのが、4.27横浜アリーナで行われる中野たむとのワールド・オブ・スターダム選手権。敗者は引退という過酷なルールで行われるこの一戦についても語ってもらった。

プロレス界を背負って出るからには『鬼レンチャン』では絶対に優勝したかった
前編では闇落ちした不死鳥・上谷沙弥に激動の数か月間を振り返ってもらったが、後編ではスターダムから“女子プロレス界の顔”のきっかけとなったテレビ番組の話をお届けする。そしてもちろん忘れてはいけないのが、4.27横浜アリーナで行われる中野たむとのワールド・オブ・スターダム選手権。敗者は引退という過酷なルールで行われるこの一戦についても語ってもらった。(取材・文=橋場了吾)
上谷沙弥は2019年8月にデビューし、昨年12月にデビュー5年強でスターダムの最高峰王座ワールド・オブ・スターダム(別称・赤いベルト)を中野たむから奪取した。
「ヒールになって赤いベルトを巻くなんて想像してなかったよ。数年前には思ってもいないことが今現実になっていて、しかも想像以上のことがどんどん起きて。12.29両国国技館で中野たむに挑戦したときには、自分が脱臼したのはたむがプランチャを透かしたからだという因縁をつけてね。だからこそ、たむの雪崩式タイガースープレックスを食らったときにわざと“死んだふり”をしたんだ。私が動かなくなったら、たむは絶対に“あの時”を思い出して動揺する……それがわかっていたから。その隙をついてフィニッシュまで畳みかけたんだよ」
その上谷が、世間に“バレて”しまう。2月23日に放送されたフジテレビ系列『千鳥の鬼レンチャン スポーツ3時間!女子300mサバイバル&パリ五輪金vs筋肉芸人』の中で、プロレスラー代表として限界まで走り続ける意地を見せて、そのスピリットがプロレスを知らない視聴者にも届いたのだ。
「もちろん普段のトレーニングの中でダッシュはしているんだけど、300mはきつかったな……精神面もかなり追い込まれたね。周りにはフルマラソン完走者や100キロマラソン経験者……みんな強いんだよ。それぞれが自分の職業を背負って、人生賭けて挑んできている。その中で私プロレス界を背負って出るからには絶対に優勝したかった(結果は決勝で敗退)。崖の上にいるような心境だったよね、ここで爪痕残せなかったら後はないみたいな(笑)。(同行していた刀羅)ナツコと琉悪夏には、本当に助けられたよね」
当の刀羅はこう語る。
「私は基本的に試合でもテレビでも、上谷が何かに出るときは自分が行けるときはセコンドみたいな感じで行くようにしているんで。今回も暇つぶしじゃないけど(笑)、それぐらいの気持ちでは行く予定だったんだ。まあ、日頃から上谷だけじゃなくて一生懸命頑張っている人は、ユニット問わずいい試合をするし、いいものを見せてもらうと感動もするし。今回のテレビもプロレスラーが宣伝の延長で出たみたいな感覚だったかもしれないけど、上谷は優勝するために本気で取り組んでいたからこそ自分たちも熱くなれたというか」

挑戦者が引退を賭けてまで赤いベルトをほしいと…私も覚悟を示したかった
その翌日。2.24宇都宮大会で事件は起こった。COSMIC ANGELSの玖麗さやかの争奪と、中野たむの要求を飲むことを賭けた試合で上谷は敗北。たむはなんと上谷に「敗者退団マッチ」を要求する。3.3後楽園ホール大会で二人は対戦し、上谷が勝利。たむは退団しフリーとなったが、上谷はそのたむに塩を贈る形で4.27横浜アリーナで“引退”を賭けて戦うことになった。
「控室にいても異様な空気なのは伝わってきたよ。後楽園にいる皆が“壊れている”ような感覚だった。(フィニッシュは)旋回式スタークラッシャーをした上で手を掴んで、あの数秒間の間に中野たむは色々な表情をしていたんだ。私はこいつを退団させるという思いはもちろんあったんだけど、アイドル時代から一緒にやってきたことが走馬灯のように思い出して、ドロドロとした愛情なのか憎しみなのかわからないぐちゃぐちゃな感情だった。ただただあいつを地獄の底に落としたいのか……それもわからないくらいだったけど、最後にたむの顔を見て足で叩きつけて奈落の底に沈めてやるという気持ちで。だから、顔が見えるあの技(カミゴエ式ビッグブーツ)だったんだよ」
刀羅はそんな上谷をどう見ていたのだろうか。
「(たむ戦に退団を懸けたことは)自分にとってこいつにだけは負けたくないという感情は個々にあると思っているし、それを第三者が理解するのは正直難しいと思うよ。いろいろな見方がある中で、私はそれも上谷の個性だと思うし、そこまで人に熱くなってしまう上谷を受け入れて見守るしかない。それがH.A.T.E.の自由さというか、自分で考えたことを最大に見せられる場所だと思っているから、そのための協力は惜しまないし。今日は勝負の世界で、上谷が勝ったということだよ」
勝利した上谷はたむに救いの手を差し伸べる。たむの退団が決まって完全決着と思われたが、上谷から再戦を促すようなマイクをしたのだ。
「うーん……まだ足りないって。あれだけ激しい試合をしたけど、まだ足りないと思ってしまった。だから、もう一回叩き潰してやるぞと。改めてあいつから引退って言いだしたけど、退団よりももっと大きなものを賭けてやりたいと思ったのは素直な気持ちで、本当にこれが最後だと思って横浜アリーナに臨むよ。チャンピオンとしては、たむには連勝しているし正直引退を賭ける理由はないのかもしれないけど、挑戦者が引退を賭けてまで赤いベルトをほしいって言っているんだから、私も『プロレスに人生を賭けている』という覚悟を示そうと思ったんだ」
そして上谷は、たむと引退を賭けた試合を「ラストダンス」と表現した。
「舞踏会では色々な人とダンスをするんだけど、最後に誘うのは本命の相手なんだ。『ラストダンス』は本命との踊りのこと。だから、たむが引退を賭けて戦う本命の相手は私、上谷沙弥しかいないでしょ?と。セコンドも誰もいない、二人きりの戦い。中野たむにとっての『ラストダンス』の相手は、私しかいないという意味なんだよ」
