【べらぼう】市原隼人が感じた検校の妻への決意「最終的に人道まで踏みにじれなかった」
俳優・市原隼人が、鳥山検校を演じるNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(日曜午後8時)の取材会に出席し、役への思いを明かした。作品は18世紀半ばに江戸のメディア王として時代の寵児(ちょうじ)となった“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)を軸に描く。検校は盲人に与えられた最高位の官位。鳥山は高利貸しで多額の資産を築き金の力ですべてを手に入れたが、妻・瀬以(小芝風花)の心だけは自由にできず蔦重を感じ取る設定。6日に放送された第14回では離縁が描かれた。

白濁コンタクトで視界は20%以下に「視覚を全く頼りにしてなかった」
俳優・市原隼人が、鳥山検校を演じるNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(日曜午後8時)の取材会に出席し、役への思いを明かした。作品は18世紀半ばに江戸のメディア王として時代の寵児(ちょうじ)となった“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)を軸に描く。検校は盲人に与えられた最高位の官位。鳥山は高利貸しで多額の資産を築き金の力ですべてを手に入れたが、妻・瀬以(小芝風花)の心だけは自由にできず蔦重を感じ取る設定。6日に放送された第14回では離縁が描かれた。
まず鳥山検校を演じると知った際の心境を尋ねた。
「今回で大河ドラマの出演は3回目となります。毎回、個人的に演じさせていただく人物の血縁の方にお会いしに伺ったり、さまざまな史料を読ませていただいたり、お墓参りをさせていただいたりしてまいりましたが、今回の鳥山検校は特に史料も少なかったので、いろいろな物からヒントを得て役を作り上げていきました。本当に、難しかったです。役に携わるすべての事に失礼のないよう、真摯に向き合おうと覚悟を決めてから入りました」
盲目の鳥山検校を演じるため、ある場所を訪ねたという。役に向きあう姿勢は常にストイックだが、あらためて覚悟を感じさせた。
「役作りのために視覚障害者生活支援センターにうかがい、利用者の方やサポートされる方とお話させていただきました。またもう一つ純度100%の暗闇を体験するイベントにも参加し、孤独と寄り添うということも感じました。普段、会話の中で返事がなくとも、目が合ったり、うなづくなどでコミュニケーションがとれますが、真っ暗な中では、声や音を出して返事をされたり、相槌を打ってくれないと誰もいないのと一緒で、自ら周囲の声を拾ったり、手を伸ばし人や物に触れたり、風や匂いを感じようとしていかないと何もないに等しい。鳥山検校もまさに手探りのような、そんな人生を続けなければならない孤独と寄り添っていたのではないかと。だからこそ人の機微を感じる。それが分かるからこそ、良くも悪くも相手のすきに入ることもできてしまう。それが恐ろしいところだと」
瀬川(瀬以)の心の中に蔦重の存在があると気付いた鳥山検校をどんな思いでどう演じようと心掛けたのかも聞いてみた。
「よく嫉妬をしているのでは? と言われますが、私自身は嫉妬ではないと思っています。抗うことのできない、添い続けなければならない人とは違う自分の人生に悶え、もどかしさを常に感じているからこそ、自分への憎悪だと思っています。息をすればするだけ敵が増えるような感覚で生きてきて、結局、瀬川の心までは自分のものにできなかった。惚れた、はれたの簡単な話ではなく、瀬川の人間力、人間愛に惹かれ、男女であるからこそ複雑に感情が絡み合ったということだと思います。鳥山検校は衣擦れの音、声色で人の感情をよめてしまい、すべてを見抜いてしまうがゆえに、生きていくことさえ苦痛になっていく人生。瀬川はそこで初めて見えた一筋の光。だからこそ瀬川を自分の方に向けられない状況に苦しみ、蔦重の存在自体はあまり気にしていなかったと思います。誰かを責めるのではなく、あくまで自分との葛藤であったと」
ここで瀬川を演じた小芝風花の魅力も聞いてみた。
「尊敬してます。一緒に芝居ができることを幸せだと感じさせていただける方でした。ちょっとした声、動きですべてを魅了してくれます。視聴者も現場も含めて空気を一気に自分に向けるような魅力のある方。『あなたのお芝居のファンです』とお伝えいたしました。(気持ち的に)重いシーンが多かったのですが笑顔が多い方で現場は救われました」
鳥山検校を演じるため白濁のコンタクトレンズを装着した。感覚が鋭敏になるなどの変化はあったのだろうか。
「演じているとき、視覚をまったく頼りにしていませんでした。常に周りのさまざまな音や、感覚、空気が変わる雰囲気だけを頼りにしていましたので、普段とはまったく違う芝居の仕方になったと思います。実はコンタクトをすることで視界が20%ほどしか見えなくなり照明を当てられると完全に見えなくなくなる中での芝居で、周囲のすべてを感じとり、見透かし、もしや目が見えているのでは、と思わせる所作をする、それがすごく難しかったです。禅の行いの様に悩み続けることが役作りそのものなのかなと。決して答えに辿りつかない迷いを映像に残したいと思っていました」
迷いというワードが印象的。演じる上で最も迷ったことは?
「瀬川との距離です。すべてを受け入れ、向き合うのではなく、何かを疑いながら、それでも寄り添いたいという自分の中の矛盾、殻を壊そうとしながら瀬川に近づく。それを表現するため、ぎこちない距離感が出るように心掛けました。視覚を失った鳥山検校として定められた人生の難しさを悩むことが一番いいかなと。悩み続ける様が役と重なり、その様をお客さまに感じていただけることを心がけました」
鳥山検校の瀬川への思いは本物の愛に感じる。第14回で描かれた離縁の決意をどう理解して演じたのか。
「より自分と向き合う時間が長い人物です。その中で人道までは崩せなかったということ。非道なこともやってきたと思いますが、人とは違う生き方を強いられた分人の痛みが分かるからこそ、最終的に心の中に残ったものは人道だったのでは……。鳥山検校も人に救われたこともあると思うんです。境遇、(検校という)立ち位置を与えてくれた人もいる。生きていく術として悪と言われる道にも進んだ人間ですが、最終的に人道までは踏みにじれなかった。それが本質だと思います」
