「人間・斎藤元彦」が浮き彫りに…第三者委報告が明かした斎藤知事の「怒り」と「理不尽」【西脇亨輔弁護士】
斎藤元彦兵庫県知事の疑惑告発文書問題を調べていた第三者委員会が、今月19日に調査報告書を公表した。斎藤知事のパワハラを認定し、告発者への対応を違法とする内容は大きく報じられる中、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は、報告書に書かれた斎藤知事の「肉声」に注目した。

元テレビ朝日法務部長「重い真実を白日の下にさらした」
斎藤元彦兵庫県知事の疑惑告発文書問題を調べていた第三者委員会が、今月19日に調査報告書を公表した。斎藤知事のパワハラを認定し、告発者への対応を違法とする内容は大きく報じられる中、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は、報告書に書かれた斎藤知事の「肉声」に注目した。
その報告書に隙はなかった。
斎藤元彦知事を巡る第三者委員会の報告書は、元裁判官の藤本久俊委員長が「厳しい意見を言っているつもりはない」と説明した通り、パワハラや公益通報者保護などについて裁判の判決のように、冷静に認定していて内容に異論の挟みようはないだろう。一方、私が報告書を読んで驚いたのはその本論とは別の部分だった。
それは第三者委の聴取に対する斎藤知事の「弁解」の数々。その不合理な内容が斎藤知事の「人間性」を浮き彫りにしていたのだ。
例えば県立考古博物館を訪れた際に「約20メートル歩かされて激怒した」というパワハラ疑惑。この件については、知事の車が玄関から離れた場所までしか入れなかったのはその先が歩行者用通路だったためで、「怒る方がおかしい」と判明したはず。だが、斎藤知事は第三者委にこう述べたという。
「歩行者用通路が車両通行禁止であると知らされていない当時の認識の下では(中略)不適切であると考えたことは誤っていない」「自分はその認識のもとにロジ(運営)のあり方を注意し指導したものであるから、その行為は適切である」
「自分の認識」が間違いだったと判明したのに、「オレが知らなかったんだから、悪くない」という姿勢だ。こうした弁解に対して第三者委は「斎藤知事は、公用車が車止めの前で止まると事情を聞くことなくX氏らを叱責した。知事が誤った認識に陥ったのは、事情を聞かずに叱責を始めたためである」と認定し、こうも書き添えていた。
「注意・指導が必要かは、事情を聞いて初めて判断しうるものである」
これはもう「法律論」以前の「当たり前」の話だ。しかし、こんなことまで書く必要があると第三者委が考えたことは納得できる。というのも、この「事情を聞かずに怒る」斎藤知事の姿は他のパワハラ事案にもたびたび登場するからだ。
県立美術館の修繕による休館に「聞いていない」と激怒した件でも、この修繕はすでに前年度の予算で決められていて、約3か月前には改めて知事に資料も送られていた。それなのに美術館を所管する教育委員会側を激しく叱責したことについて斎藤知事は「予算の細目までは熟知できないし、覚えてもいない」などと弁明したが、第三者委は「事情を聞くことなく、最初から教育長を叱責し、教育長が事情を説明しようとしても、その説明を聞こうとしなかった」と指摘した。
大阪万博に向けた「空飛ぶクルマ」事業の新聞記事に怒ったとされる件についても、第三者委は「担当職員に対し、事情や説明を聞くことなく、この記事は何なのかと問い詰めた」と認定した上で、こう断じた。
「感情的に怒りをぶつけることは指導ではない」
この第三者委報告書からは「自分の意に沿わないことが起きると、担当者が悪いと決めつけ、事情を聞かずに、怒りをぶつける」という斎藤知事のパワハラのパターンが浮かび上がる。だがそれは「成熟した大人」の振る舞いなのか。もし、そうでないなら「成熟した大人」ではない人に「公権力」という武器を預けることは、安全なのか。
報告書は「すべて受け入れる」ことが大前提のはず
報告書の最後には「調査を通じ、最も述べたいところ」として次のように書かれている。
「組織のトップと幹部は、自分とは違う見方もありうると複眼的な思考を行う姿勢を持つべき」「組織の幹部は、感情をコントロールし、特に公式の場では、人を傷つける発言、事態を混乱させるような発言は慎むべきということである」
学校の先生が生徒を諭すような「当たり前」すぎる内容が書かれていることに私は驚いたが、さらに驚いたのはこの報告書への斎藤氏の反応だ。斎藤氏は報告書公表から2日後の今月21日、「読み続けている」とした上で、こうコメントしたのだ。
「受け入れるべきところは、受け入れていく」
この発言は論理上、こう読み替えることができる。
「受け入れるべきでないところは、受け入れない」
そして、それを決めるのは斎藤氏自身ということか。しかし、厳しい認定だろうと耳が痛い指摘だろうと、斎藤氏自身が設置を表明した第三者委である以上、結論はすべて「受け入れる」のが大前提のはず。それなのに「受け入れない」可能性を示す発言は、第三者委が指摘した「事情を聞こうとしない」斎藤氏の姿そのものなのではないか。
170ページにおよぶ報告書は「斎藤元彦」という人物を浮き彫りにしている。そこに政治家としての資質をどう見るか。報告書は重い真実を白日の下にさらしたと思う。
□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ) 1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうまワイド』『ワイド!スクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いた。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。昨年4月末には、YouTube『西脇亨輔チャンネル』を開設した。
