憧れの浅野忠信と共演 実力派女優が節目の10年目に出会った運命の作品「信じられない気持ちだった」

俳優の瀧内公美が、映画『レイブンズ』(28日公開、マーク・ギル監督)で浅野忠信と夫婦役を演じた。本作は伝説の写真家・深瀬昌久(1934~2012年)の波瀾に満ちた人生を実話とフィクションを交ぜて描くフランス・日本・ベルギー・スペイン合作。憧れの先輩である浅野との共演、初の海外監督の撮影現場について語った。

インタビューに応じた瀧内公美【写真:増田美咲】
インタビューに応じた瀧内公美【写真:増田美咲】

映画『レイブンズ』で浅野忠信と夫婦役を演じる

 俳優の瀧内公美が、映画『レイブンズ』(28日公開、マーク・ギル監督)で浅野忠信と夫婦役を演じた。本作は伝説の写真家・深瀬昌久(1934~2012年)の波瀾に満ちた人生を実話とフィクションを交ぜて描くフランス・日本・ベルギー・スペイン合作。憧れの先輩である浅野との共演、初の海外監督の撮影現場について語った。(取材・文=平辻哲也)

 瀧内は映画『火口のふたり』(2019年)で第93回キネマ旬報ベスト・テン主演女優賞を受賞、『由宇子の天秤』(2021年)では第20回ラス・パルマス・デ・グラン・カナリア国際映画祭最優秀女優賞などを受賞した実力派俳優だ。昨年はNHK大河ドラマ『光る君へ』では藤原道長の妻の1人、源明子役も印象深い。

 本作は、ハリウッド製作ドラマ『SHOGUN 将軍』で、ゴールデングローブ賞助演男優賞(テレビドラマ部門)を受賞した浅野の最新主演作。深瀬は、森山大道らとニューヨークMoMA“New Japanese Photography”展(1974年)で絶賛を浴びた伝説の写真家。1970年代の東京を中心に、天才の狂気と深瀬に寄り添い続けた妻・洋子との交流を虚実交えて描く。監督・脚本は『イングランド・イズ・マイン モリッシー、はじまりの物語』の英国人監督マーク・ギルが務めた。

 オファーが届いたのは2021年。ちょうど俳優10年目の節目であり、「ご褒美のような出来事でした」と振り返る。瀧内は大妻女子大4年の時に小学校教員の実習に向かう道で、映画のエキストラ募集を見かけて、俳優の道を歩んだ。

「浅野さんは俳優を志した頃から、強く憧れてきた特別な存在でしたので、『こんなにうれしいことがあるの?』と信じられない気持ちでした。青山真治監督の『Helpless』や岩井俊二監督の『PiCNiC』などを見て、その演技や存在感に衝撃を受けてきた方です。『ただそこに立っているだけで、説得力がある』――。そんな姿に『こんなふうに演じられたら』と思い続けてきました」

 撮影は2023年に行われたが、浅野は気さくに振る舞い、ハリウッドでの経験や海外進出に必要なスキル、契約に関することなども相談したという。

 本作で演じたのは写真のモデルを務めた妻・洋子。自由奔放で、作品のミューズとして存在感を放つ。しかし、深瀬は自分の作品よりモデルの洋子が注目を集めることに葛藤を抱くようになり、二人の間にはすれ違いが生じていく……。実際の洋子さんは「私の映画を3回観たわ」と喜んでいるという。

「映画の中で息づく洋子さんは非常に革新的で、時に破壊的な一面も持つ女性です。一方、能など伝統への思いもあり、保守的な思想も混在する方でもあります。人を愛するがゆえに、自分自身が壊れてしまいそうになる…そうした部分には共感しました。ただ、私は彼女のように感情を表に出すタイプではなく、内に秘めてしまうタイプ。心の中でぐるぐると考え続けることが多いです」と笑う。

 本作は、ギル監督が2015年にイギリスの新聞で深瀬の写真と夫婦の物語を知って、浅野主演での映画化を企画。『火口のふたり』を観たことが瀧内抜てきの決め手になった。初の外国人監督との仕事はどうだったのか。

「マーク・ギル監督は日本文化にとても造詣が深く、日本人が撮った映画と言われても違和感がないほど、時代性を映し出すことにおいて、作品に説得力がありました。事前に絵コンテを作るなど、ショットごとの計算が非常に綿密で、映像演技におけるお勉強になった現場でもありました」

 撮影現場もシステム、スタッフ、キャストの職能のすみ分けにも違いを感じた。

「時間管理も厳格ですし、小耳に挟んではいましたが、ギャランティーもどこの大学で学んだのか、どのエージェントとパートナーシップを結んでいるか、などでランク付けされていることも知りました。海外では、契約によって監督が俳優の演技に踏み込みすぎないように定められていることが多く、俳優領域と演出領域がくっきりと分けられているそうです。しかしその一方で、結果が出せないとすぐにキャストが交代になるという厳しさも当たり前にあります」

休日は映画館をハシゴしている【写真:増田美咲】
休日は映画館をハシゴしている【写真:増田美咲】

立て続けにドラマや映画に出演

 最近、出演作が立て続いている。Netflixオリジナルドラマ『阿修羅のごとく』(1月9日から配信)を始め、テレビではTBS『クジャクのダンス、誰が見た?』(2月7日?)、NHK連続テレビ小説『あんぱん』(25年前期)、映画では『敵』(1月17日公開)、『ゆきてかへらぬ』(2月21日公開)、主演『奇麗な、悪』(2月21日公開)がある。

「やりたいと思う作品が次々と現れて、気づいたらこうなっていました(笑)。忙しく見えるかもしれませんが、ちゃんと休んでいますよ」

 休日には、ミニシアターを中心に映画館をハシゴし、1日4~5本観ることもある。

「最近は配信で映画を観ることも覚え、ここ1年は特にU-NEXTにハマっています。最近よかったのはエマ・ストーンが主演・プロデュースしたブラック・コメディー『THE CURSE/ザ・カース』。エマ・ストーンのプロデュース作には外れがない。彼女が主演した『哀れなるものたち』もよかったし、ご自身は出演されていないですが、ジェシー・アイゼンバーグが監督した『リアル・ペイン~心の旅~』も素晴らしかったです」

 俳優の演技を観ることで多くを学び、自身の演技の引き出しにもなっている。

「『レイブンズ』の洋子さんはマーゴット・ロビーさんを参考にしました。『バビロン』や『ウルフ・オブ・ウォールストリート』を観た時に、存在感の強いパワフルな女優さんだな、と思っていて、あの豪快さ、ロングショットでも『私はここにいる』と伝わってくるような大胆不敵さがいいなと思って、そんな要素を引っ張れたらいいなと思いました」

 作品選びのポイントは「規模や予算の大小ではなく、自分が心からひかれる作品に出演したいという思いが強いです。最も個人的なことを描いていること、”自主性”というものは惹かれがちですね」と瀧内。

『レイブンズ』出演をきっかけに、海外への意識がこれまで以上に高まり、映画俳優組合「SAG-AFTRA」への加入や、米国のエージェントとの契約も視野に入れている。

「昨年独立して、自分で決めることが増えて、大変な部分もありますが、楽しくやっています。海外進出については日本で積み上げてきたものを大切にしながら、慎重に考えていきたいです」。これからもインディーズからハリウッドに飛び出していった世界のアサノの背中を追いかけていくつもりだ。

□瀧内公美(たきうち・くみ)1989年10月21日生まれ、富山県出身。内田英治監督『グレイトフルデッド』(2014年)で映画初主演。19年公開の主演作『火口のふたり』で、第41回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞・第93回キネマ旬報ベスト・テン主演女優賞、21年公開の主演作『由宇子の天秤』で、第31回日本映画批評家大賞主演女優賞・第31回日本映画プロフェッショナル大賞主演女優賞など、国内外で多くの賞を受賞。

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