俳優・尾美としのりが、平沢常富（朋誠堂喜三二）を演じるNHKの大河ドラマ『べらぼう～蔦重栄華乃夢噺～』（日曜午後8時）の取材会に出席し、演じる役の魅力や撮影の舞台裏などを明かした。作品は18世紀半ばに江戸のメディア王として時代の寵児（ちょうじ）となった“蔦重”こと蔦屋重三郎（横浜流星）を軸に描く痛快エンターテインメント。

　尾美の演じる常富は秋田佐竹家・留守居役を務める一方、戯作などを手掛ける流行作家・喜三二という顔も併せ持つ。尾美はどんな人物と解釈して演じているのか。

「とても頭が良くて、しゃれていて楽しんで生きている人だなと思いながら演じています。すごくインテリなんだと思います。仕事もできるし、趣味もめいっぱい楽しみ、充実した生き方をしている人。だから演じていて楽しくなっちゃうし、憧れでもあります。あまり思い詰めて仕事をしていないところは似ている気がします」

　常富はこれまで劇中ちらりと登場するケースがほとんどだった。オープニングに出演者名がしっかり表示されながらもあまりの瞬間的登場にSNSは、どこに登場したのかと「ウォーリーをさがせ」ならぬ「オーミーをさがせ」と盛り上がっている。尾美はどう思っていたのか。

「台本を頂いて読んだとき、僕のシーンは1行にもならないんです。書いてあるのは『大門を通っていく平沢』とか。読んだときにすごくうれしくて。こんな出し方をさせていただきありがとうございますという感じです。しゃれているなぁと思って。友人や親戚は大河に出ることを喜んでくれるんです。多分、ドラマは見ていると思いますが、僕を見つけられないのか今のところ何の連絡もないです（笑）。僕も親戚や友人が僕を探すと面白いなとは思っていたんです。でもSNSで騒ぎになっていると聞き、ちゃんと出たときにつまらない、探すぐらいがちょうどいいと思われたら悲しいなとプレッシャーです」

　異例の出演形態にあたり制作サイドから何か説明はあったのか。

「全然ありません。僕は喜んでいましたし、なるべく映らないようにした方がいいですよねという感じでいました」

　出演時間は数秒でも舞台裏は大変だったようだ。

「ふん装は大変なんです。2時間もかかるんです。でも、なるべく映らないようにというのを楽しんでやっていました。吉原の人たちと話してはいますが撮られているかどうかも分からないです。だからセリフを話すようになったときは緊張しました（笑）」

　今後、視聴者にどう楽しんでほしいと思っているのか。

「もう“さがせ”は終わりました。“さがせ”の方が面白かったと思わないでほしい、という感じですかね」

　尾美は民放の時代劇『鬼平犯科帳』に出演し、同心・木村忠吾役で視聴者に親しまれた。『べらぼう』には若き日の長谷川平蔵宣以が登場している。

「若き平蔵さんと吉原でお会いしたかったですね。忠吾さんみたいなのがいたらおごってやろうかな。平蔵さんがいたら面白いですね。会いたいです」

『鬼平』をきっかけに時代劇に出演する際の舞台裏の気遣いも紹介してくれた。

「『鬼平』のときからふんどしをはいているんです。衣装にパンツのラインが出てはいけないので。朝ふと冷静にオレふんどしはいて何をやってんだと思ってはいています（笑）」

　ふんどしは妻が作ってくれたものだという。

「時代劇をやっているときはうちの物干し場にはふんどしがひらひらしています。中村吉右衛門さんに時代劇に出演するときはふんどしにした方がいいと言われ、お弟子さんもしていたので、僕もまねをさせていただきました。20代の頃からです。ふんどしのメリットは通気性がいいこと。でも普段はつけようとは思わないです（笑）」

　12月に60歳になる。節目の年の抱負を問うと「還暦は全然意識してないです」。この自然体が尾美らしさ、尾美の味。これまで見る者を和ませてくれる役が多かったが、『べらぼう』でも尾美の味を楽しめることを期待したい。