香川照之、主演ドラマで1人6役挑戦「モノマネする感覚」 現場での「昨日までの役とはまったく違う」の評価

俳優の香川照之がWOWOW『連続ドラマW 災(さい)』(4月6日スタート、午後10時)でドラマ主演を務める。本作は、罪なき6人の主人公たちが無慈悲な災いに巻き込まれる姿を描く全6話のサスペンス。香川は、登場人物たちの人生に突如現れ、“災い”をもたらす謎の“男”を演じる。

インタビューに応じた香川照之【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じた香川照之【写真:ENCOUNT編集部】

『連続ドラマW 災(さい)』で“災い”もたらす謎の“男”演じる

 俳優の香川照之がWOWOW『連続ドラマW 災(さい)』(4月6日スタート、午後10時)でドラマ主演を務める。本作は、罪なき6人の主人公たちが無慈悲な災いに巻き込まれる姿を描く全6話のサスペンス。香川は、登場人物たちの人生に突如現れ、“災い”をもたらす謎の“男”を演じる。(取材・文=平辻哲也)

 本作の監督・脚本は、『八芳園』(2014年)でカンヌ国際映画祭に正式招待されるなど、国際的に評価の高い監督集団「5月(ごがつ)」の関友太郎氏と平瀬謙太朗氏が担当。香川は、彼らとは14年ぶりの単独主演映画『宮松と山下』(2022年)でもタッグを組んでいる。

「『5月』の監督たちは信頼しているので、再び声をかけてもらえてとてもうれしかったです。彼らが書いた脚本には、僕が興味を引かれるような、まるで触手が動くような不思議な魅力がありました。『5月』はもともと東京藝術大学の佐藤雅彦さんを含めたユニットです。今回は佐藤監督がいらっしゃらなかったので、少し寂しさを感じましたが、それでも2人でしっかりと新しいものを作り上げていました」と振り返る。

 香川が演じるのは、6人の登場人物(中島セナ、松田龍平、内田慈、藤原季節、シソンヌ・じろう、坂井真紀)の人生に突如現れ、“災い”をもたらす謎の“あの男”。1話では塾講師として登場するが、その後はヘアスタイル、服装、顔つきを変え、性格や所作まで変え、まったくの別人となって現れる。神奈川県警の刑事ら(中村アン、竹原ピストル、宮近海斗)は、事件の影に正体不明の男の存在に気づき、捜査を進めていく。

 一人で6役を演じ分けるのは、ドラマでは例のないチャレンジとなった。

「監督たちは、ある程度キャラクターごとに職業や性格を設定していましたが、細かい部分は僕に委ねられていたように感じます。人間は本質的にそこまで大きく変わるわけではありませんから、僕が意識したのは、話し方のトーンやスピード、所作を少しずつ変えることです。『このキャラクターなら、少し低めの声で話そう』とか、『この人物は早口で話すほうが合うかな』といった工夫をしました」と語る。

 役作りにおいては、モデルとなる人物を見つけたことが演技の土台になった。

「ある種、モノマネをするような感覚で演じていました。ただ、1話のキャラクターはあまり似ていなかったかもしれません。2話以降は、僕が意識して演じた通りに近くなったと思います。3話や4話のキャラクターは、僕しか知らない人物を参考にしていたりもします」

 撮影は、ほぼ順撮り(時系列順の撮影)。これも、各キャラクターを演じる際に新鮮な気持ちで現場に臨めた要因だという。

「衣装やメイクによって外見が大きく変わることもあり、スタッフや共演者から『昨日までの役とはまったく違いますね』と言われることが多かったのが印象的でした。6人のキャラクターを単に演じ分けるのではなく、共通する『一本の軸となる視点』を意識しました。1話の塾講師を演じているときにふと閃いたアイデアだったのですが、監督たちと相談しながら、それを作品に反映させることになりました。それが、物語のトリガーとなるような要素になったと思います」

タイトルは「65点」、「『5月』の作品では、タイトルの重要性はそれほど高くない」

 香川は『災』というタイトルについて、それほど強い印象は受けなかったと語る。

「タイトルの評価は65点くらいですね(笑)。『5月』の作品では、タイトルの重要性はそれほど高くありません。前の『宮松と山下』も元は違う題名でしたから」と笑う。
香川は、本作のテーマを哲学的な視点で捉えている。

「この作品では、『人間が人間を殺す』という形で『災』が描かれていますが、それだけにとどまらないテーマがあると感じています。僕たちは、目に見えない何かに9割以上支配されながら生きているのではないかと思います。人間の一生は、物質の世界に閉じ込められながら、精神的な影響を受けつつ生きているものです。その中で、最大の悲劇とされるのが『死』や『災い』です。本作の『あの男』は、単なる悪ではなく、人間が目に見えない力に翻弄される象徴として描かれているのではないか」

 さらに、過去の映画作品のオマージュについても言及した。

「例えば、別の映画の要素を意識的に取り入れています。監督たちも映画好きなので、撮影現場で『あの作品のこの演出を取り入れてみましょう』という会話が頻繁にありました」

 本作は、男の不気味さが強く印象に残る作品だが、「2025年だからこそ、新しいドラマの形を提示できる作品になったと思います。見る人によって解釈が異なる作品なので、それぞれの視点で楽しんでいただければと思います」と香川。このドラマでも、異様なオーラと圧倒的な存在感を放っている。

□香川照之(かがわ・てるゆき)1965年12月7日、東京都出身。大河ドラマ「春日局」(89/NHK)で俳優デビュー。主な出演作は『赤い月』(04/降旗康男監督)、『北の零年』(05/行定勲監督)、『ゆれる』(06/西川美和監督)、『キサラギ』(07/佐藤祐市監督)にて日本アカデミー賞優秀助演男優賞受賞、『剣岳 点の記』(09/木村大作監督)で第33回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞。

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