「私の人生、失敗だらけ」女性ソロキャンパーの激動半生 9歳息子と離別、一度きりのディズニーが「最後の思い出」

ソロキャンプという趣味を楽しむ人々は、生い立ちも経歴もさまざまだ。コロナ禍での空前のブームが去った今も変わらずキャンプに興じる人たちは、胸にどんな物語を秘めているのか。たき火明かりに照らされたその素顔に迫っていく。

おしゃれな柄のブランケットなど、女性らしいアイテムも並ぶ小野寺さんのサイト
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離婚を機に当時9歳だった息子と離別、東京で1人で生きていくことを選択

 ソロキャンプという趣味を楽しむ人々は、生い立ちも経歴もさまざまだ。コロナ禍での空前のブームが去った今も変わらずキャンプに興じる人たちは、胸にどんな物語を秘めているのか。たき火明かりに照らされたその素顔に迫っていく。(取材・文=佐藤佑輔)

 神奈川のとある河川敷でソロキャンプを楽しむ56歳の小野寺明美さん(仮名)は、32歳のとき、離婚を機に生まれ育った岡山を離れ上京。以来20年以上、1人の生活を謳歌(おうか)している。

「相手は大学の先輩で、結婚は24歳のとき。離婚の理由は……何てことはない、向こうに好きな人ができたから。ある日いきなり『もう愛想が尽きた、離婚してくれ』と言われ、何を聞いてもその一点張り。離婚したいならそれでもいいから、専業主婦だった私の生活が安定するまでは扶養に入れてくれと頼み、夫の仕送りで東京で職探しを始めました。後から知ったときには相手の女性はすでに妊娠していて、もう後の祭り。『再婚したいから籍を抜けてくれ』と言われ、潔く身を引きました」

 元夫との間には、離婚当時9歳になる息子がいた。地元に残り子どもを引き取るという選択肢もあった中で、小野寺さんはあえて単身での上京を決断。親権を取らず、東京で1人で生きていくことを選んだという。

「30歳を過ぎて、『離婚しました』と実家に出戻りするのも嫌だった。再就職する上で、地元に残るよりも都会の方が選択肢が多かったのもあります。息子本人の希望もあった。夫は医者で、私も男の子には経済的な理由で苦労をさせたくなかったし、東京で1人で子育てしていく自信もなくて……。向こうが再婚して、新しいお母さんができたのなら、そっちで仲良くやりなさいと。私がドライだったのかもしれない。一度だけ、東京に会いに来てくれて、一緒にディズニーランドに行った。それが最後の思い出です」

 上京後はウェブ関係の会社に就職。30代の頃は毎日終電まで飲み歩くという生活が続いた。夜の街では新たな出会いもあったが、結局、再婚に至ることはなかったという。

「何人かお付き合いもして、それなりにそういう話もありましたが、段々めんどくさく感じたり、1人の方が気楽でいいなと思うようになってしまって。40代になって同世代で付き合うと、相手もそれなりに難がある人しか残ってない。だったらもう1人でもいいかなと」

 趣味は一人旅、週末の度にレンタカーで遠出する生活も、都内ではマイカーを持つことはかなわなかった。キャンプを始めたのは、5年前に横浜に引っ越し、念願の車を購入したのがきっかけだという。

「友人が横浜に越してきて、家に招待されたんです。調べたら都内よりずっと家賃が低いエリアで、今より安い賃料で駐車場つきの物件まであって。車はもう諦めようと思ってたけど、東京を離れれば生活のクオリティーは上げられるんだと、20年もたってようやく気付いた。上京したばかりの頃は都会のキラキラした生活に憧れもありましたが、今は何の未練もありません」

 愛車は納車1年待ちだったという人気車種のスズキ・ジムニーJB64。当時はまだキャンプに興味はなかったものの、たまたま街で見かけて、一目ぼれで即決した。レンタカー時代同様、温泉地を巡る旅行の道中で、旅館をやめて車中泊デビュー。今は毎週のようにテントで1人の時間を満喫している。

「ソロキャンプは我流も我流。テントの立て方もたき火のコツも、全部ネットから教わりました。1人は1人で、気楽でいいもんですよ。外で飲み食いするのがただ楽しい。異性のキャンプ仲間もいますけど、男性はもう友達だけで十分です」

 離婚、上京、我が子との離別と、激動の半生を経てたどり着いたソロキャンプという趣味。これまでの人生であり得たかもしれないさまざまな選択肢には、今何を思うのか。

「世間一般の感覚からすると、一番遠い選択肢を選んじゃった。どこで何が違ったのかな。あのとき子どもを引き取っていればと考えることもあるけど、何が何でも自分が育てるというのは、あまりにも現実が見えていない気がして……。今にして思うと、私の人生、失敗だらけの選択ばかりだったのかも。それでも、東京を離れ、車を買って、キャンプを始めた。それだけは唯一の正解だったのかなって思います」

 寒空の下、たき火の火をいじりながら、小野寺さんはそう結んだ。

次のページへ (2/2) 【写真】テントサイトに横付けされた愛車のスズキ・ジムニーJB64
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