義父母が勝手に出生届を提出、母子にかけられた“呪い” 「母は私の名前を言ってくれません」

人の名前は、人生において重要な要素の1つだ。しかしながら、家族関係や代々の習わしによって、ときに影を落とすこともある。出産時に母親が心身共に疲弊していた中で、義父母に娘の名前を「勝手に」付けられてしまった――。義母と義父が一方的に進めた行為が、孫のその後の生き方にまで大きな影響を及ぼしてしまったのだ。30年以上にわたって娘の名前を呼ぶことのできない母。名前を付けられた当事者である30代の女性は「悲しい事実は消えない」と言葉を絞り出す。当事者が抱え続ける苦悩とは。

「勝手に付けられた」名前は人生に影響を及ぼした(写真はイメージ)【写真:写真AC】
「勝手に付けられた」名前は人生に影響を及ぼした(写真はイメージ)【写真:写真AC】

「うちの場合は『第一子は祖父母に当たる人間が付ける』だったそうです」

 人の名前は、人生において重要な要素の1つだ。しかしながら、家族関係や代々の習わしによって、ときに影を落とすこともある。出産時に母親が心身共に疲弊していた中で、義父母に娘の名前を「勝手に」付けられてしまった――。義母と義父が一方的に進めた行為が、孫のその後の生き方にまで大きな影響を及ぼしてしまったのだ。30年以上にわたって娘の名前を呼ぶことのできない母。名前を付けられた当事者である30代の女性は「悲しい事実は消えない」と言葉を絞り出す。当事者が抱え続ける苦悩とは。

「これは母と私だけの『呪い』です。母は私の名前を言ってくれません」

 父方の祖父母から名前を付けられたという女性は、自らの人生をこう表現する。

 出産当時、母親は21歳。実家から離れた場所に嫁ぎ、周りには相談できる友人もいなかった。出産で体調が不安定になり、休養していた。ところが、義父母が子どもの名前を呼んでいたことに驚がくしたという。義父母が見知らぬ間に、出生届提出などの手続きを行っていたのだ。

「人によっては、『うちの家系は代々〇〇と付けるんだ』などのしきたりがあると思います。うちの場合はそれが『第一子は祖父母に当たる人間が付ける』だったそうです。よくなかったのは、母にそれを最後まで内緒にして祖父母が名前を付けてしまったことです。父も『当時は』そのやり方に賛成していたのでしょう。だから出生届を提出できたのだと推測します」。女性は自らの名前の過去について明かした。「私は自分の名前について誰にも話したことはありません。とてもナイーブなことだと思っています」。誰にも言えない悩みを抱えているという。

 母親は当時、“これは普通ではないと考える自分がおかしい”と自らを責め続けた。「母のつらさについて言いますと、母本人が自分の名前が古めかしく、娘にはかわいい名前を付けてあげたいと昔から願っていたそうです。その楽しみがあったのに、だまし討ちで付けられてしまったことがあると思います。当時母は、これが普通なのか、自分が名前を付けられないことを憎むことはおかしいのか、と葛藤していたと聞いています。それに、名付けの祖父母は私について『お前の名前はたいして考えてなかったんだ』と笑っていました。ありがたいことに今はいろんなSNSを通して情報が得られるようになり、母は自分の考えることはおかしくなかったと、ようやく自覚することができたそうです」。女性は母の気持ちを代弁するように教えてくれた。

 自分の名前に対する疑問。一般的に、家庭裁判所への申し立てを通じて、改名を試みるということが選択肢の1つとして挙げられる。

 女性は過去に考え抜いたことを明かす。「改名ですよね。私の名前はごくありきたりです。例えばですが、『まりこ』みたいな感じだと思ってください。おかしな名前ではないですよね。私の名前が明らかなキラキラネームだったら改名していたと思います。母以外は私のことを『まりこ』と普通に呼んでくれています。社会生活を送るうえで、面接の場などでも困る名前ではありません。『日常生活に支障がない』というのが最もやっかいですよね」。

 悩んで悩んでたどりついた結論がある。

「自分の名前を変えるということは、のちにどうなるかということです。日常生活で大きな影響や負担が出てきてしまうのです。誰かから『何で名前を変えたの? 普通の名前なのに』と言われた際に、『祖父母に付けられたから、母が付けたかった名前にしたんだ』と毎回会う人に伝えることを想像してほしいです。

『母が付けたかったから』。そういう理由で改名することについて、社会的な他のデメリットをてんびんにかけて考えた結果、やめました。そして、私の1番の考えは、改名したとしても、『祖父母が勝手に名前を付けてしまった』という悲しい事実は母と私の中で消えないということです」。もどかしい本音を吐露した。

「一石を投じる意味で、他の方に考えてもらうきっかけになればと思っています」

 女性はさらに言葉を紡ぐ。「ここまで話して分かると思いますが、これは母と私だけの『呪い』です。母が私の名前を呼べない呪い、私が母から名前を呼ばれない呪いです。その呪いの中で、たくさん母と話し合って、『まりこ→まっちゃん、まぁちゃん』といったように、母だけが呼んでくれる名前にしました。そこに私たちは落としどころを見つけました」。母と娘で苦悶を重ねた結果、ニックネームの呼び方をすることを決め、現在の生活を送り続けているという。

 今も生きている祖父母に、会いに行くつもりはないという女性。祖父母に対しては複雑な思いを抱き続けている。

「名前一つでこういうことになってしまった親子もいる。そのことを伝えたいです。『納得せず』祖父母が名前を付けた末路をたどった人たちは、いつまでもその呪いから抜けられないんです。『勝手に名前を付けたら、こういうことになってしまった親子もいるんだよ』。こうした注意喚起と言いましょうか、一石を投じる意味で、他の方に考えてもらうきっかけになればと思っています」。誰かのためになれば――。深く考える女性は真摯(しんし)なメッセージを寄せた。

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