「それは少子化にもなるだろう」大学生の半数が奨学金の衝撃…企業が返済支援するプラットフォームに脚光
いまや大学生の半数以上が利用している奨学金制度。若者の進学の夢を支える一方、卒業と同時に実質的な多額の借金を背負う仕組みは、大きな社会問題にもなっている。昨年3月、そんな奨学金の返済を企業側が支援する仕組みが誕生した。奨学金を借りている学生と企業をつなぐ人材紹介プラットフォーム「奨学金バンク」を設立した、株式会社アクティブアンドカンパニーの大野順也社長に、これからの奨学金制度の在り方について聞いた。

大学生の奨学金利用率は55% 平均借入総額は310万円、返済期間は14.5年にも及ぶ
いまや大学生の半数以上が利用している奨学金制度。若者の進学の夢を支える一方、卒業と同時に実質的な多額の借金を背負う仕組みは、大きな社会問題にもなっている。昨年3月、そんな奨学金の返済を企業側が支援する仕組みが誕生した。奨学金を借りている学生と企業をつなぐ人材紹介プラットフォーム「奨学金バンク」を設立した、株式会社アクティブアンドカンパニーの大野順也社長に、これからの奨学金制度の在り方について聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)
自身は奨学金とは縁がなかったという大野社長。大学卒業後は人材派遣大手のパソナで営業職を務めた後、大手外資系コンサルを経て、約20年前に人事コンサルサービスを専門に提供する同社を立ち上げた。
「パソナでは営業を経験後、関連会社の立ち上げにも携わりました。人材派遣事業を通じて主婦層が働く機会を作り、女性の社会進出を支援できたことは、社会貢献という面でも非常にやりがいを感じていました。ただ、就業機会の提供にとどまり、就業後の活躍までを支援できないビジネスモデルには限界も感じていた。人を流通させるだけではなく、今いる人のパフォーマンスを上げることが必要だと感じ、コンサルの道に進みました」
人事評価や給与計算などのコンサル事業を行う同社が、奨学金支援の事業を興すことになったきっかけは、大野社長の個人的な人脈にあるという。
「ちょうど今から5年ほど前、僕が45歳のときに、プライベートで知り合った35歳の男性から『まだ奨学金を返してるんですよ』という話を聞いて、大きな衝撃を受けたんです。30年前には成績優秀な上位15%が無利子で借りるものだった奨学金ですが、今では大学生の2人に1人が奨学金を利用していて、平均借入額は300万円以上にものぼります。大卒新社会人の半分が借金を抱えていて、仕事やプライベートのモチベーションが上がるはずがないし、それは少子化にもなるだろうと。遠からず、自分たちの事業にも直結する問題でした」
すぐに行動を起こした大野社長は、3年前に事業計画を文部科学省に提案。日本学生支援機構や三井住友信託銀行とも連携し、昨年3月1日、奨学金返済を支援する企業と学生を結ぶプラットフォーム「奨学金バンク」を立ち上げた。ローンチから1年あまり、参加企業は約150社に上り、1500人ほどの学生にリーチが可能だという。奨学金バンクのスキームについて、大野社長は次のように説明する。

人材紹介料の一部を奨学金の返還原資とし、入社から3年間、月々の返済を代行
「まず、企業に奨学金を返済している求職者を紹介します。採用となった場合、成功報酬として新卒であれば90万円、中途であれば年収の35%の紹介手数料を受け取り、そのうち36万円を奨学金の返還原資としてプール。入社から3年間、月々の奨学金返済を弊社が代行して行います。弊社の取り分が減るのではと思われるかもしれませんが、人材紹介業は広告費の占める割合が高く、大学側と協力することで経費を大幅に削減ができ、その分の利ざやを返済金にあてることができるのです。
奨学金の滞納は大学にとっても切実な問題なので、仕組みを説明すれば理解を得られやすい。学生からすると企業が奨学金を負担してくれる、企業にとっては採用者の定着率が増す。さらに、返還金の管理に三井住友信託銀行の口座を使うことで、返還原資が弊社から完全に独立した日本学生支援機構の信託財産になる。まさに三方よしのビジネスモデルとなっています」
奨学金利用者が増えている背景には、過去30年間、労働者の年収が横ばいにもかかわらず、学費が増加の一途をたどっているという現実がある。文部科学省によると、大学の学費は1987年から21年の34年間で、私立で54%、国立では82%も上昇。反面、大学進学率は年々増加しており、長らく少子化が叫ばれる時代にも、大学進学者数に大きな変化は訪れていない。大野社長は、奨学金問題の責任の一端は、採用者を大卒に絞る企業側にもあると指摘する。
「奨学金制度自体が悪だとは思っていません。ただ、大学進学率が6割という時代に、返す側のソリューションが確立されていないことは大きな問題。企業が大卒者しか採用せず、学歴インフレが加速している現状では、高卒を採用しない企業の側にも奨学金問題に対する責任があると思います。奨学金を借りるのが当たり前という時代であるなら、無理なく当たり前に返せる仕組みが必要。民間企業も当事者意識を持ち、産学官が連携して取り組まないといけない課題だと感じます」
日本学生支援機構によると、2022年度の大学昼間部における奨学金利用率は55%。平均借入総額は310万円、平均返済期間は14.5年にも及ぶ(いずれも23年、労働者福祉中央協議会調べ)。16年までの過去5年間の奨学金の負債を含む自己破産者数は1万5338人で、なかには返済に苦しみ自ら命を絶ってしまった人もいる。大卒新社会人の半数以上が奨学金を借りている時代。奨学金問題を“自己責任”とせず、社会全体で解決していく仕組みが求められている。
