抱っこひもでスノボ、管理区域外滑走も…スキー場での危険行為、規制はできない? 管理者団体の見解は
抱っこひもで乳児を抱えたままスノーボードを行う子連れ客の動画が拡散、波紋が広がっている。ネット上では「抱っこひもでのスノーボードは禁止にしてほしい」「スキー場は子供年齢制限かけたほうがいい」との声も広がっているが、スキー場では一般的に、抱っこひもでの滑走は禁止されていないのが実情だ。危険な滑走や近年問題となっている管理区域外での滑走を規制することはできないのか。スキー場管理者による全国組織、一般財団法人日本鋼索交通協会に見解を聞いた。

抱っこひもで幼い赤ちゃんを抱えた男性が、ゲレンデでスノーボードを楽しむ動画が拡散
抱っこひもで乳児を抱えたままスノーボードを行う子連れ客の動画が拡散、波紋が広がっている。ネット上では「抱っこひもでのスノーボードは禁止にしてほしい」「スキー場は子供年齢制限かけたほうがいい」との声も広がっているが、スキー場では一般的に、抱っこひもでの滑走は禁止されていないのが実情だ。危険な滑走や近年問題となっている管理区域外での滑走を規制することはできないのか。スキー場管理者による全国組織、一般財団法人日本鋼索交通協会に見解を聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)
日本鋼索交通協会は、全国のスキー場経営者により組織された団体。鋼索とはワイヤーロープのことで、ロープウエーやリフト、ゴンドラ、ケーブルカーなどの交通機関は総じて鋼索交通と呼ばれる。同協会にはリフトを管理する全国ほぼすべてのスキー場が加盟しており、全国スキー安全対策協議会を組織、スキー場での安全啓発活動を行っている。
問題の動画は先月27日にSNS上で拡散。抱っこひもで幼い赤ちゃんを抱えた男性が、ゲレンデでスノーボードを楽しむ様子が収められている。後ろ向きにのけ反った赤ちゃんの頭が激しく揺れ、危うく抱っこひもからずり落ちそうになる場面もあり、ネット上では「首すわってないじゃん」「ガチ虐待」など批判の声が相次いだ。投稿者は施設側に問い合わせを行うも「基本的には自己責任」という内容の回答があったとし、問題提起の意味を込めて動画を投稿したとつづっている。
日本鋼索交通協会の担当者は「結論から言うと、実務的にも、法の建てつけとしても、規制は困難」と実情を語る。
「前提として、スキー場は遊園地などの入場制のテーマパークとは違い、リフトやロープウエーなどの鋼索交通を管理している鉄道事業者というくくり。リフトの乗車券という形でお金を取ってはいますが、スキー場という施設を定義する法律はなく、いわばリフトがあるだけの自然の山という位置づけになります。
スキーヤーやスノーボーダー同士の衝突は交通事故と同じ当事者間の問題で、施設側が介入することもなければ、責任を問われることもありません。管理者権限として、ペットを放さない、飲酒した状態で滑走しない、立ち入り禁止区域には入らないなど社会通念上のお願いはしていますが、子どもを抱えての滑走は保護者責任の範ちゅう。子どもをおんぶした登山者を規制できないのと同じで、禁止しようにも根拠となる法律がないのです」
鋼索交通について定めた鉄道事業法では、降りたのち速やかに滑走を開始するリフトは、スキーやスノーボードなど滑走具を携行しない状態での利用が禁じられている。一方、ロープウエーやゴンドラなど、乗客の周囲が囲われており、乗降に時間がかかる乗り物の場合はその限りではない。また、リフトであっても、滑走具を持たない子どもが抱っこひもや背負子などで保護者に固定されている場合は、「自己責任と言われると何も言えない」と黙認されている部分があるという。
近年では、バックカントリーと称し、スキー場の管理区域外を滑走し遭難する事例も問題となっている。報道では「スキー場のコース外滑走」と報じられるなど、メディアの側が混同している事例も多く見受けられるが、両者にはどんな違いがあるのだろうか。
「バックカントリー、いわゆる山スキーは、登山届を出し、適切な装備を携行して入山し、自己責任でスキーを楽しむスポーツです。スキー場には滑走コースの他、コース外として立ち入りを禁止している場所がありますが、バックカントリーはスキー場とは何の関係もない管理区域外での滑走。本来我々には管理権限も救助義務もなく、自己責任で行う以上、何か発言をできる立場にはありません。ただ、実際にはスキー場の管理者が地域の遭難対策協議会に入っているケースも多く、近くの山から救助要請があれば人道的にも見捨てるわけにはいかない。本来の業務外のところで捜索に人手を割かれたり、二次被害のリスクを負っているのが現状です。
我々の中にもバックカントリーを趣味とする仲間はおり、適切な準備のもと自己責任で行うバックカントリー自体を否定するつもりはありません。ただ、安易にスキー場から管理区域外に出る行為が横行することは問題。『○○スキー場のコース外で遭難』のような誤った報道がなされると、スキー場の風評被害にも関わってきます。山もスキーも、本来とても自由なものです。あまりガチガチにルールで縛ることはせず、各々が良識とマナーを持って安全に楽しんでもらえればと思います」
交通ルールや速度制限のような決まりがなく、大自然の中を自由に滑走できるのがスキーの魅力でもある。規制が難しい以上、スキーヤー、スノーボーダー一人ひとりのマナーが問われている。
