戸田恵子、アンパンマン役は「奇跡という宝物」 歌手→声優…転機は『ガンダム』と“恩人”との出会い

俳優で声優の戸田恵子が11日、ラサール石井とのデュエットCD『笑かして』をリリースした。楽曲は、2人が共演する舞台『星屑の町』シリーズの役、キティ&イッちゃん(キャラクターボイス:戸田&ラサール)としてお届け。歌手としては6年ぶりの作品となる。そこでENCOUNTでは俳優、歌手、声優と半世紀以上にわたりエンターテインメントの世界で活躍してきた戸田の足跡やエンタメへの思いに迫った。

戸田恵子がこれまでのキャリアを振り返った【写真:藤岡雅樹】
戸田恵子がこれまでのキャリアを振り返った【写真:藤岡雅樹】

歌手としては6年ぶりにラサール石井とのデュエット曲『笑かして』をリリース

 俳優で声優の戸田恵子が11日、ラサール石井とのデュエットCD『笑かして』をリリースした。楽曲は、2人が共演する舞台『星屑の町』シリーズの役、キティ&イッちゃん(キャラクターボイス:戸田&ラサール)としてお届け。歌手としては6年ぶりの作品となる。そこでENCOUNTでは俳優、歌手、声優と半世紀以上にわたりエンターテインメントの世界で活躍してきた戸田の足跡やエンタメへの思いに迫った。(取材・文=福嶋剛)

 新曲『笑かして』は、舞台『星屑の町』シリーズのスピンオフ企画として制作された。もとは、デュオの“相方”、石井からのオファーで実現し、作曲とコーラスを歌手で俳優の中村中が担当しているのも注目だ。2月14日にデジタル配信も始まっており、戸田にとっては、歌手・植木豪とのユニット、BackGammonとして2019年に出した『Show Must Go On』以来、6年ぶりの音楽作品となる。

 この『星屑の町』シリーズは、石井や小宮孝泰らが結成した「星屑の会」の代表的作品で、1995年から約四半世紀にわたりファンに愛されてきた。2020年には、俳優・のん主演で映画化され、戸田は歌手、キティ岩城役で出演。26年には新作舞台『星屑の町~忘却篇』にも同役での出演を予定しており、新曲は、その役名でのリリースとなった。

「『星屑の町』は、(脚本家で演出家の)水谷龍二さんの作、演出による売れないムード歌謡コーラスグループ『ハローナイツ』のメンバーとその仲間の珍道中を描いたお話です。私はキティ岩城というベテラン歌手の役で、ラサール石井さんが演じる『ハローナイツ』のメンバー・市村敏樹(イッちゃん)とキティのもう1つの世界を歌ったのが今回の楽曲になります。ちょっと複雑な設定ですよね(笑)」

 ダメな夫のお尻を叩いて鼓舞する妻――。人情味あふれる昭和初期の男と女を描いたデュエット曲は作品のワンシーンを思い起こさせる。

「昭和の古き良き時代のワンシーンですけど、今時グダグダな男に惚れて耐える女性なんていませんよね。私はキティのように強くはないので、さっさとサヨナラしちゃいます(笑)」

 そんな戸田も1974年に芸名「あゆ朱美(あけみ)」でレコードデビューしている。昭和世代とっては懐かしいアナログレコード。当時の思い出を振り返った。

「どっぷりレコード世代です。でも私がデビューした昭和49年はオイルショック(原油価格の高騰)があった年でレコードの原料になっている塩化ビニールが不足して、あまりレコードを作れなかった時代でした。その影響であの頃は歌番組が減ってしまい、私も不遇の時代を送っていました。その後、80年代に入ってCDが登場しましたけど、私は好きなレコードジャケットを飾って楽しんだり、今でも愛着があります」

 声優、俳優とマルチな活躍の出発点でもある歌へのこだわりについて聞くと「やっぱり舞台やミュージカルとは違って、歌だけのお仕事は私にとって特別なんです。自分の言葉でしゃべったり歌ったりする自分発信の場所が好きなんです」と話した。

 各分野で着実に実績を重ね、キャリアは半世紀を超す。その中で、もっとも大切にしてきたことを聞くと「出会いです」と即答した。

「続けたくても続けられない世界で子役の頃から、一度も辞めずに続けてこられたのは、いつも誰かに助けてもらったからです。芸能界を川にたとえると、何度もおぼれそうになった時にいつも誰かが私に手を差し伸べてくださり、なんとか立ち泳ぎでまた川の流れに沿って泳ぐことができたからなんです」と明かし、周囲の支えに感謝した。

 忘れられない出会いのひとつが、10代の時の地元名古屋のテレビプロデューサーだ。当時、アマチュアバンドのボーカルをしていた時に出会ってスカウトされ、上京した。

「歌手になるなんて考えてもいなかったんですが、15歳の時に名古屋から上京して歌手デビューしました。でも、やっぱり甘くはなかったです。全然売れなくて『地元に帰ろう』って思いました」

ラサール石井(右)とのデュエットCD『笑かして』のMV撮影現場【写真:藤岡雅樹】
ラサール石井(右)とのデュエットCD『笑かして』のMV撮影現場【写真:藤岡雅樹】

「声優を続けよう」という気持ちにさせてくれたガンダムの先輩

 そんな時、手を差し伸べてくれた人が、舞台演出家でアラン・ドロンの吹き替えなどでも知られた声優の野沢那智さんだった。

「『せっかく東京に来たんだからもったいないよ』って声をかけてくださり、野沢さんには声優のお仕事を紹介していただきました。ただ、台本だけもらってスタジオに入り、『どんな声でしゃべればいいの?』って何一つ分からない世界でした。テイク20(20回録り直し)は当たり前で何が正解なのか誰も教えてくれないし。『いつ辞めようかな』って思いながらやっていましたが、4、5年ほど我慢して続けていたら少しずつ慣れてきました」

 次に手を差し伸べてくれたのが白石冬美さんや井上瑤(よう)さんら、アニメ『機動戦士ガンダム』で出会った声優の先輩たちだったという。

「ガンダムのマチルダ(・アジャン)役をいただいた時、優しい先輩たちに出会いました。特にミライ(・ヤシマ)役の白石さんとセイラ(・マス)役の井上さんのお二人には公私にわたってお世話になり、『声優を続けよう』という気持ちになりました。今は野沢さんも白石さんも井上さんも旅立ってしまい、本当に寂しい限りです」

 その後、日本を代表する声優となった戸田はアニメや映画の吹き替えなど次々と担当。中でも『それいけ!アンパンマン』(日本テレビ系)は、88年の番組開始以来、今もアンパンマン役を演じている。

「これはもう原作者であるやなせたかし先生の功績です。もちろん、私たちは番組開始からずっと愛情を注いでいますけど、長くそのキャラクターをやりたいと思ってもできるものじゃないので、これは奇跡という宝物以外にありません」

 30代は声優、舞台俳優などを中心に活動。40代に脚本家の三谷幸喜氏との出会いがあり、テレビドラマに進出した。

「最初は面識がない中でオファーをいただいて、舞台だと思って期待したらテレビの連ドラ(94年のフジテレビ系『総理と呼ばないで』)でした。40代から新しいことをやるのは勇気がなかったので一度はお断りしたんですが、三谷さんに『大丈夫です。安心してください』と説得され、お受けしました」

 多忙を極める日々の中、気持ちの切り替え方を聞くと「一番聞かれます」と笑いながら「スイッチの切り替えをしないというのが私にとって一番の方法です」と答えた。

「役者も声優も歌もエンターテインメントのお仕事の1つというくくりで考えています。その場で考えて行動する現場集中型なので、あまり考え込むタイプではないですね」

 プライベートはのんびり派。ドライブや旅行が趣味だといい、「休みがあればどこかに行っちゃいます(笑)。好きなところに1人で旅行に行っておいしいものを食べて自分だけの時間を過ごすことが至福の瞬間です」。

 最後に「戸田さんにとってエンターテインメントとは?」と質問すると「お客様に喜んでいただける『もの・こと・人』です」と答えた。

 ラサール石井とのデュエットCD『笑かして』は東洋化成 ONLINE STOREで販売中だ。

□戸田恵子 1957年9月12日愛知県名古屋市出身。NHK名古屋放送児童劇団に小学5年生から在籍し、『中学生群像』(『中学生日記』の前身)で女優デビュー。1973年に上京し、翌74年「あゆ朱美」の芸名でアイドル演歌歌手としてデビューした。77年、野沢主宰の劇団『薔薇座』へ入団し、看板女優として数多くのミュージカルに出演。79年に『機動戦士ガンダム』のマチルダ・アジャン役で声優として本格始動。その後、アニメ『ゲゲゲの鬼太郎』の三作目鬼太郎、『キャッツ・アイ』の瞳、『きかんしゃトーマス』のトーマス、『それいけ!アンパンマン』のアンパンマンなどの声を務める。洋画の吹き替えでは、ジュリア・ロバーツ、ジョディ・フォスター、ビビアン・リーなども担当した。

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