橋本愛がデビュー当時に感じた生きづらさ「周囲のイメージと本来の自分のギャップに苦しんだ」
俳優・橋本愛が映画『早乙女カナコの場合は』(3月14日公開、矢崎仁司監督)に主演した。本作は作家・柚木麻子さんの小説『早稲女、女、男』を原作に、10年に及ぶ恋愛を中心に、女性の生き方や女性同士の関係を描く。橋本にとって恋愛モノは初めてで、「すごく新鮮でした」と話す。

映画『早乙女カナコの場合は』で“恋愛モノ”に初挑戦
俳優・橋本愛が映画『早乙女カナコの場合は』(3月14日公開、矢崎仁司監督)に主演した。本作は作家・柚木麻子さんの小説『早稲女、女、男』を原作に、10年に及ぶ恋愛を中心に、女性の生き方や女性同士の関係を描く。橋本にとって恋愛モノは初めてで、「すごく新鮮でした」と話す。(取材・文=平辻哲也)
本作は、大学進学とともに地方から上京し、友達と2人暮らしを始めた早乙女カナコ(橋本)が歩む10年の物語。入学式で脚本家を目指す長津田(中川大志)と出会い、恋人に。カナコは、自身とは正反対の破天荒な長津田にひかれていくが、次第に気持ちはすれ違い、カナコは内定先の大手出版社勤務の先輩・吉沢(中村蒼)から告白され、長津田も女子大1年生・麻衣子(山田杏奈)と友人以上の関係になっていく……。
「ラブストーリーはあまり進んで見るジャンルではないんです。今回も王道ではないのですが、私の中でラブストーリーはほぼ初めてだったので、すごく新鮮でした。人を好きになることや、人と一緒に生きることは私にとって人生の1つのテーマだと思います。恋愛によって、それぞれの人間性が浮かび上がるのが面白いと思いました」と振り返る。
確かに橋本には恋愛モノの印象はないが、「特に避けていたわけではなく、単にオファーがなかっただけです(笑)。私が恋愛に重きを置いていないスタンスがにじみ出ているのかもしれませんね。あと、恋している顔を撮られるのが恥ずかしいです」と笑ってみせる。
映画では、カナコのほか、大学デビューをしてかわいらしく振る舞う麻衣子、吉沢の元恋人で計画的に人生を考えている亜依子(臼田あさ美)とタイプの異なる3人の女性が登場する。
「どの女性も愛らしいと思いました。私は亜依子さんのように計算ができるタイプではないし、麻衣子のようにフワフワした振る舞いもできない。やっぱり一番共感したのはカナコでした。けれど、麻衣子が『女の子らしくしなきゃいけない』という思い込みから解放される姿は愛しくて、応援したくなりました」
一方、カナコが恋する長津田は、趣味はバイクで、脚本家を目指す自由人。クリエーティブな才能を持ちながらも、大学では留年を繰り返し、恋愛では優柔不断になる弱い面も持っている。
「私は長津田のようなタイプの男性は好きにならないかもしれません(笑)。ただ長津田には魅力がありますし、彼なりの苦悩を支えられるかと言われたら、自分で手一杯な気がします。中川さんとは初共演でしたが、すごく頼もしかったです。監督と自然に意見を言い合っている姿が印象的で、私は意見を言うときに勇気を振り絞るタイプなので、すごいなと思いました」

再共演ののんは「単なる共演者を越えた特別な存在」
橋本の出世作でもあるNHK連続テレビ小説『あまちゃん』のヒロイン、のんとの共演も実現した。同じ柚木原作の映画『私にふさわしいホテル』(昨年12月公開、堤幸彦監督)でも、のんが主演の作家役、橋本がカリスマ書店員役で出演。そして今作でものんは同じ役での出演となった。
「2つの映画はパラレルワールドみたいな感覚でした。のんちゃんとは久しぶりに会いましたが、やっぱり単なる共演者を越えた、特別な存在です。彼女はものすごいクリエーティブなエネルギーを持っていて、それを行動に移して発信していく姿がとても尊敬できるし、いつも刺激を受けています」
映画では18歳からの10年間の歩みを描いているが、「髪型やメイクを変えるだけで時間の経過を感じさせる工夫をするのが好きなので、楽しかったです。カナコは大人になっているはずなのに、内面が変わっていない部分があって、その不器用さが愛おしく感じました」
自身の10年間に水を向けると、「成人式をしたのがつい最近のような感覚ですが、当時は生きづらさを感じることも多かったです。特にデビューしたての頃は自意識が強く、周囲のイメージと本来の自分のギャップに苦しんでいました。徐々に“期待に応えること”や“幻滅させないこと”をあきらめることで楽になりました」と語る。
俳優として転機になったのはNHK大河ドラマ『青天を衝け』(2021年)で主人公・渋沢栄一(吉沢亮)の妻・千代役を演じたことという。
「以前は役としての実感を持って生きることが難しく、どこか嘘をついているような感覚がありました。それがプロの演技コーチらに助けてもらって、克服することができました。今は次の段階として『理性的なお芝居』や『演算した表現』について考えています」
俳優業の一方、ファッション、コラム、書評などで自らの考えを発信している橋本。映画のお気に入りのシーンは、長津田との再会だという。
「長津田がなかなか脚本を書けなかった理由として、『男社会が怖かった』と話すシーンが印象的でした。この作品はフェミニズムが根底にあると思っているので、女性だけではなく、男社会に苦しむ男性の姿が可視化されたことがうれしかったんです」
本作は恋愛の要素も大きいが、それ以上に、10代後半から20代にかけての生き方や生きづらさを描いている。橋本自身もこのテーマに共感したようだ。
今年は20代ラストイヤーだが、「特別な思いはありません。数字にもこだわりがないので、自分の年齢も時々分からなくなります(笑)。まだまだ未熟なので、成長していくことを楽しみたいです。世界中の人と仕事をしたいので、英語の勉強も続けています。自分の人生だけでなく、他の人の人生も見つめられるようになりたいです」と、さらなる人としての成長を誓った。
□橋本愛(はしもと・あい)1996年1月12日生まれ、熊本県出身。映画『告白』(2010年)に出演し注目を浴び、映画『桐島、部活やめるってよ』(12年)では、第36回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。同年に出演したNHK連続テレビ小説『あまちゃん』(13年)でも話題となる。主な出演作品は、映画『熱のあとに』(24年)、映画『アナウンサーたちの戦争』(24年)、映画『私にふさわしいホテル』(24年)など。現在、NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』に出演中。
<作品情報>
『早乙女カナコの場合は』
3月14日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
出演:橋本愛、中川大志、山田杏奈、臼田あさ美、中村蒼
監督:矢崎仁司
原作:柚木麻子『早稲女、女、男』(祥伝社文庫刊)
脚本:朝西真砂 知 愛
音楽:田中拓人
主題歌:中嶋イッキュウ「Our last step」(SHIRAFUJI RECORDS)
(C)2015 柚木麻子/祥伝社 (C)2025「早乙女カナコの場合は」製作委員会
配給:日活/KDDI
