「働けないなら死んだ方がいい」生活保護の負い目で自死を選択…未遂の当事者が語る自殺者の心理

昨年1年間の国内の自殺者数は全体で2万268人、月別では4月が1903人で最も多く、次いで3月が1891人、5月が1853人となっている。新年度という節目を前に、例年自殺者が増加するこれからの時期、最悪の選択を避けるためには何が必要なのか。衝動的に試みた自殺に失敗、障がいが残り「とても後悔している」と話す当事者の46歳男性に、人が自死を試みる心理や自殺志願者へのメッセージを聞いた。

冷たい雨の降るなか取材に応じた当事者の男性【写真:ENCOUNT編集部】
冷たい雨の降るなか取材に応じた当事者の男性【写真:ENCOUNT編集部】

自宅マンションの4階から飛び降り救急搬送、左肩の神経を損傷し後遺症も

 昨年1年間の国内の自殺者数は全体で2万268人、月別では4月が1903人で最も多く、次いで3月が1891人、5月が1853人となっている。新年度という節目を前に、例年自殺者が増加するこれからの時期、最悪の選択を避けるためには何が必要なのか。衝動的に試みた自殺に失敗、障がいが残り「とても後悔している」と話す当事者の46歳男性に、人が自死を試みる心理や自殺志願者へのメッセージを聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)

「飛び降りに失敗して障害が残った馬鹿な人間のアカウントはこちらです」

 先月25日、SNS上で自殺未遂を報告した投稿が拡散、大きな話題を呼んだ。投稿者のシン(@JcirS24Tkd26810)さんは、2月21日の深夜、自宅マンションの4階から飛び降り救急搬送。一命は取り留めたものの、左肩の神経を損傷し、現在は思うように腕を動かせないなど、後遺症も残っているという。

「幼い頃に両親が離婚し、母や義理の父から虐待を受けて育ちました。その影響で、解離性同一性障害と診断され、障害者手帳も持っています。いわゆる多重人格と呼ばれるもので、二度寝したつもりが公園のベンチにいたり、気付いたら買い物をしていたりと、記憶が飛んでいることもある。もともと自殺願望はありますが、今回は衝動的なもの。本当にバカなことをしたと後悔しています」

 いったいなぜ、飛び降りを実行してしまったのか。現在は生活保護と障害年金で生活しているというシンさんが身の上を語る。

「早く親元を離れたくて、バイトと奨学金で大学に進学、18歳で家を出ました。親とは全く連絡を取っておらず、身寄りはありません。卒業後は一般企業に5年ほど勤めた後、地域コミュニティーで知り合った女性との結婚を機に転職しましたが、転職先の不祥事で1年ほどで雇止めに。女性とは裁判の末に離婚しました。その後は工事現場の監督や配送業など、職を転々としましたが、いずれもブラックな職場環境でうつになってしまい、20代の頃から何度も生活保護のお世話になってきました」

 責任感の強かったシンさんは、生活保護を受給せざるを得ない状況に負い目を感じ、いつしか「働けないなら死んだ方がいい」と考えるように。精神疾患が回復する前に再就職を焦り、生活保護を抜けてはまた逆戻りという悪循環を繰り返した。一方で、生きづらさを抱えた日々の中で、救われた出来事もあったという。

「3年ほど前、SNSで知り合った女性が支えになりたいと、一回りも年齢の離れた自分に寄り添ってくれました。再婚も意識していましたが、将来が見えない生活から、昨年の暮れに別れを切り出されてしまって……」

 お互い納得の上で別れたものの、破局後は投稿を控えていた“病みアカウント”を再開。同じく人生に思い悩むフォロワーから、ふとした瞬間にかけられた言葉が、今回の飛び降りの引き金になったという。

「仲のよかった人から言われた『死にたい、死にたいって、どうせ口だけでしょ』『いつ死ぬの?』という言葉にショックを受けてしまって。別のフォロワーからも『本気じゃないんでしょ?』と立て続けに言われ、頭が真っ白になって遺書を書いて飛び降りました。今になってみれば自分でも、たかがネットで悪口を言われたくらい、何でこんなことでと思うような些細(ささい)なきっかけですが、実際にそれで命を絶ってしまう人も多い。世間に当事者の苦しみを知ってほしい、また、自分みたいにバカなことはしてほしくないという思いで、たたかれることも覚悟の上で、退院直後に経緯を投稿しました」

経緯をつづった投稿には、励ましの言葉の一方で辛辣な声も

 投稿の反響は大きく、「生きててくれてありがとうございます」「繋がった命 大切にして欲しいです」といった励ましの言葉の一方、「また迷惑かけるんか? いい加減しとけよ」「医療費の無駄。ほんとやめて」「バズりたいだけ」など、辛辣(しんらつ)な声も届いたという。批判の声については「何を言われてもその通りなので、受け止めるしかありません」と口にする。

 実は、シンさんが自殺をしようと行動を起こしたのは今回が初めてではない。5年前には自宅で首つりを試み失敗。今年2月には富士の樹海への下見にも複数回訪れている。

「前回は直前に友人と電話をしていて、異変を感じた友人が110番通報して、気がついたときには病院のベッドの上にいました。その時は衝動的なものではなく、ちゃんと考えた上でのことだったので、周りに迷惑をかけたことは反省していますが、今回のように後悔はしていませんし、『何で助かっちゃったんだろう』という思いは今もあります。自分は死にたいという気持ち自体を否定するつもりはない」

 どういうことか。シンさんは「死にたい気持ちにも程度がある」と訴える。

「自殺する人の中には、本当に思い詰めている人もいれば、今回の自分のように、今の状況から逃れるために、軽い気持ちで実行に移してしまう人もいます。自分が言いたいのは、衝動的にやるのはバカなことだということ。一方で、解決策もないのに『生きていればいつかいいことがある』という言葉ほど、無責任な言葉もない。苦しんでいる人は今苦しいのであって、『いつか』なんて言葉は何の慰めにもなりません。

 ……ただ、矛盾するようですが、実際に自分もこの3年間、恋人ができて生きててよかったと思うこともたくさんあった。また支えてくれる人が現れたら生きたいと思うでしょうし、借金に苦しんでいる人だって宝くじが当たれば死ぬ気はなくなる。人の気持ちはそれほど簡単に変わるものですが、どうしても解決策がないのであれば、生死は自分で判断するしかないと思っています」

 自死を望むほど苦しむ人たちのために、国やメディアには何ができるのだろうか。シンさんは「政治のことは分からない」としつつも、「問題の解決策を見つける手助けはあったほうがいい」と支援の必要性を口にする。

「例えば安楽死を認めてくれれば、苦しい死に方や周りに迷惑をかけない死に方を選択することはできる。一方で、未来ある未成年や、しっかりとした意思のない人には認めるべきではありません。そのあたりも含め、タブー視することなく議論していくことが必要だと思います。死にたいという気持ちは相変わらずありますが、今は自分の経験から、『僕は死のうとしたことを後悔しています』というメッセージを多くの人に伝えていきたいと思っています」

 飛び降りを図ってからわずか1週間あまり、シンさんはときに涙を浮かべながら思いの丈を語った。

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