第97回アカデミー賞は地味だった? 多様性重視でハリウッド大作が減るも日本映画にはチャンス拡大

映画は時代を映す鏡であり、映画界の最高峰とされるアカデミー賞もまた、時代の価値観や社会の変化を反映している。現地時間3月2日に行われた第97回アカデミー賞では『ANORA アノーラ』(ショーン・ベイカー監督)が作品賞、監督賞、脚本賞、編集賞、主演女優賞の5部門を受賞したが、映画ファンからは、主要賞に大作映画が少なかったことから「地味」との声も出ている。本稿では、第97回アカデミー賞の結果を振り返る。

『ウィキッド ふたりの魔女』【写真:(C)Universal Studios. All Rights Reserved.】 
『ウィキッド ふたりの魔女』【写真:(C)Universal Studios. All Rights Reserved.】 

『ANORA アノーラ』が5部門を受賞

 映画は時代を映す鏡であり、映画界の最高峰とされるアカデミー賞もまた、時代の価値観や社会の変化を反映している。現地時間3月2日に行われた第97回アカデミー賞では『ANORA アノーラ』(ショーン・ベイカー監督)が作品賞、監督賞、脚本賞、編集賞、主演女優賞の5部門を受賞したが、映画ファンからは、主要賞に大作映画が少なかったことから「地味」との声も出ている。本稿では、第97回アカデミー賞の結果を振り返る。(文=平辻哲也)

 作品賞にノミネートされた10本の中で、大作と言えるのは『デューン 砂の惑星 PART2』(1億9000万ドル=約287億円)、『ウィキッド ふたりの魔女』(1億4500万ドル=約219億円)。一方、『ANORA アノーラ』の制作費は600万ドル(約9億円)、『ブルータリスト』は1000万ドル(約15億円)と推定される。

 近年、アカデミー賞ではインディペンデント映画の存在感が増している。その背景には、アカデミー賞の選考基準の変更や、会員の意識の変化がある。

 2009年から作品賞のノミネート数が最大10作品まで拡大され、これまで評価されにくかったジャンル映画や国際映画、インディペンデント映画の受賞機会が増えた。

 2015年には「#OscarsSoWhite」というハッシュタグが広まり、白人ばかりがノミネートされる状況が批判を受けた。これを受け、アカデミーは選考基準を見直し、2024年の作品賞選考から「インクルージョン基準(Representation and Inclusion Standards)」を導入している。

 インクルージョン基準では、キャストや制作チームに一定の多様性を確保することが求められる。例えば、主演や助演の少なくとも1人が人種的・民族的マイノリティーであること、または制作スタッフの一定割合が女性・LGBTQ+・障がい者など多様な背景を持つ人々であることなどが条件となる。

 さらに、作品賞の投票は単純な1票制ではなく、1位、2位、3位と順位をつけるランキング方式が採用されている。1位でなくても2位票を多く集めることで逆転が可能となるため、この点でも『ANORA アノーラ』に有利に働いたと考えられる。

『ANORA アノーラ』はニューヨークでストリップダンサーをするロシア系アメリカ人のアノーラ(マイキー・マディソン)がロシアの御曹司イヴァンと恋に落ちる物語。一見、シンデレラストーリーのように見えるが、御曹司の両親が結婚に反対し、イヴァンが逃亡することで異なる展開へと進む。

『ブルータリスト』【写真:(C) DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. (C)Universal Pictures】
『ブルータリスト』【写真:(C) DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. (C)Universal Pictures】

主演男優賞は『ブルータリスト』のエイドリアン・ブロディが受賞

 主演男優賞では『ブルータリスト』(公開中)のエイドリアン・ブロディが受賞した。

 ユダヤ人建築家の数奇な運命を描いた215分の大作『ブルータリスト』は第82回ゴールデングローブ賞で作品賞(ドラマ)、監督賞、主演男優賞の3部門を受賞した。しかし、その後、ブロディと妻役のフェリシティ・ジョーンズのハンガリー語の発音を完璧にするために音声生成AIを使用していたことが発覚。AIの使用は2023年の俳優組合と脚本家組合が争点にした重要テーマの1つであり、投票行動に影響を与えた可能性が高い。ただ、『戦場のピアニスト』で主演男優賞を受賞したブロディの演技の評価には影響がなかったようだ。

 AI技術の使用は職を奪う懸念もあるが、作品の質の向上、時短、コストダウンなどに貢献できる。特にアニメやVFXの分野では積極的に活用される可能性が高く、今後も議論の的になるだろう。

 近年、ハリウッドらしい大作がノミネート・受賞作から外れる傾向にあるのは寂しい部分もあるが、ハリウッドの多様性重視の流れは、日本のクリエイターにとっても新たなチャンスを生み出している。

 今年は日本から『Black Box Diaries』(長編ドキュメンタリー賞、日本公開未定)、『Instruments of a Beating Heart』(短編ドキュメンタリー賞)、『あめだま』(短編アニメーション賞、公開中)の3本が候補作に選ばれたが、今後も日本からも世界を驚かせる作品が生まれることを期待したい。

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